木村拓哉さんと糸井重里は、
かなり以前から、もう、25年くらい前から
おつき合いがあるのです。
じつは創刊当初のほぼ日のオフィスにも
ときどきこっそり遊びに来ていたり。
そんなふたりが、久しぶりに会いました。
木村拓哉さんがMCを務める
ラジオ番組「Flow」のマンスリーゲストに
糸井が呼ばれたのです。
久々に会っても自然体なふたりが
たっぷり話した約2時間。
放送されなかったトークも含めて、
だいたいぜんぶを文字にしました。
- 木村
- っていうか、もう気づいたら、
そろそろ終わりの時間になってるんですけど。
- 糸井
- あ、そうですか。けっこうですよ。
- 木村
- で、ここに来ていただいたゲストの方、
みなさんにうかがってることがありまして。
- 糸井
- はい、唯一の宿題でしたね。
- 木村
- はい。
けっこう、たいへんだったとお聞きしました。
糸井さんの「人生の1曲」というのを
教えていただきたいんですけど。
- 糸井
- あのね、うーんと、
あれこれ言い訳しないで言うと、
キャロル・キングの
「You've Got A Friend」という名曲があって。
- 木村
- ああ、はい、はい。
- 糸井
- いま、ふいに、やっぱりこれにしよう、
って決めることができたから、これにします。
- 木村
- それは、ご本人ひとりのバージョンですか。
それとも、ライブで、
男性ボーカリストと歌った‥‥。
- 糸井
- ああ、ジェームズ・テイラーと
歌ってるのがありますよね。
両方いいですけど、
「TAPESTRY」っていう
アルバムに入ってるやつでいいかな。
- 木村
- ご本人おひとりの。
- 糸井
- うん。オリジナルのやつで。
- 木村
- わかりました。
なんでこの曲になったんですか。
- 糸井
- あのね、ほんとは、
ビートルズを挙げたいんですよ、
やっぱり生き方として
いちばん影響を受けたのはビートルズなので。
- 木村
- はい。
- 糸井
- でも、キャロル・キングの
「You've Got A Friend」と
「TAPESTRY」っていうアルバムは、
なんだろうなぁ、じぶんの世界を
広げてくれたような気がするんですよね。
それは、大人になってから。
- 木村
- ふーん。
- 糸井
- 「You've Got A Friend」っていうのは、
あなた友だちいるじゃん、ってことでしょ?
そのコンセプトであんなふうに歌ってもらうと、
いろんなことが、増える気がするんですよ。
「友だちがいるんだよ」
「なんだったらわたしがいつでも駆けつけるから」
っていう、それで歌ができるんだ、っていうこと。
いいことばだなぁって思うし、
それから、曲も、なんというか、
わたしがつくった歌なんだけど、という感じと、
ぜんぶが、あの歌の中にあってね。
なにかにつけて「友だちがいる」っていうのを、
考えるきっかけになったのは、あの歌かなぁ。
- 木村
- そう考えると、おもしろいですね。
「あなたはひとりじゃない」
っていう言い方じゃないですもんね。
- 糸井
- そうですね。
- 木村
- 「あなたはひとりじゃない」って、
ちょっと宗教的な感じで言いがちじゃないですか。
でも、そうじゃなくて、「友だちがいる」。
「You've Got A Friend」という、
なんか、頭の考え方、伝え方の回路。
- 糸井
- そう。「友だち」っていうのは、
大きいものに見せる必要もなくて、
「わたしは駆けつけるよ」
っていうだけでいいんだよね。
別に医者じゃないから、
治してくれるわけじゃないんだけど、
それでいいんだ。
- 木村
- うん、うん。
- 糸井
- あの歌は「あなたには友だちがいるよ」と
歌っている「わたし」という立場と、
そう言われてる「あなた」という立場と、
両方をじぶんが味わえるじゃないですか。
で、「あなた」のときには、
落ち込んだときにこの歌が聞こえてきたら、
もう、泣いちゃうなぁ、みたいな。
- 木村
- うん(笑)。
- 糸井
- で、同時に「わたし」であるときには、
友だちのところに行く以上は、
なんか力になってあげたいなぁという
「わたし」になりたいじゃないですか。
- 木村
- うん、うん。
- 糸井
- わたしも一緒に泣いてあげるわよ、
っていうのもあるかもしれないけど、
それよりは、もうちょっと、
「まず、ちょっと窓開けようか?」みたいな、
そういう、友だちのやることを
気持ちよく見せてくれるっていうか。
だから、すごくいいなぁと思うんですよね。
- 木村
- なるほど‥‥。
あの、ぼく、この歌を
キャロル・キングさんと
一緒にやったことがあります。
- 糸井
- え! あ、「スマスマ」?
- 木村
- はい。
- 糸井
- いやぁー‥‥それは、すごいなぁ。
- 木村
- すっげー、いま自慢しちゃった(笑)。
- 糸井
- いや、してもいいよ、それは。
- 木村
- すげー、うれしかった。
- 糸井
- ああ、そう。いいねぇ。
- 木村
- はい(笑)。
- 糸井
- 歌は、すごいよね。歌ってものはね。
- 木村
- すごいですね。
- 糸井
- うん。木村くんも、
なんか、匿名で歌でも出せば?
- 木村
- 匿名で(笑)?
- 糸井
- 木村拓哉のままだとさ、
やっぱりかならず買う人がいるから。
「売れないんですよー、これが」
みたいな感じではじまって、
徐々にみんなが歌うようになったら、
素敵じゃない?
- 木村
- なるほど(笑)。
- 糸井
- もう、ぜんぜん違うバンド組んだりしてさ。
それでぜんぜん売れないっていうのも、
それはそれで、おもしろいよね。
- 木村
- そうですね(笑)。
- 糸井
- いま、歌が売れない時代だからさ、
逆にそういう遊びできるんじゃない?
- 木村
- そこを遊ぶんすか(笑)。
- 糸井
- どうやったら売れるんだ?
ってほんとに考えはじめたら、
つまんなくなるに決まってるじゃない。
それよりは、どうせ売れない時代なんだからさ、
売れないんだったら、
一番なにがたのしいだろう
って言ってやったら、少なくとも、
きみの友だちの範囲では、すごくウケるよね。
- 木村
- そうですね(笑)。
- 糸井
- いい歌! あたしは大好き!
みたいな人が現れるよね。家族とかね。
- 木村
- あー、なるほど。
- 糸井
- だって、いちばんやりたいのって、
そういうホームパーティーだからさ。
- 木村
- そうですね。
- 糸井
- そういうところで
どれだけタダ働きできるかが、
やっぱり、その人の価値なんだと思うよ。
- 木村
- そうっすね(笑)。
ちょっとビクターの人と話します。
- 糸井
- (笑)
- 木村
- ということで。
- 糸井
- はい。
- 木村
- 木村拓哉「Flow」、
7月のゲストは糸井重里さんでした。
ほんとに、ありがとうございました。
- 糸井
- はい。
ありがとうございました。
(木村拓哉さんと糸井重里の話はこれで終わりです。
最後までお読みいただき、
どうもありがとうございました)
2019-09-13-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN