木村拓哉さんと糸井重里は、
かなり以前から、もう、25年くらい前から
おつき合いがあるのです。
じつは創刊当初のほぼ日のオフィスにも
ときどきこっそり遊びに来ていたり。
そんなふたりが、久しぶりに会いました。
木村拓哉さんがMCを務める
ラジオ番組「Flow」のマンスリーゲストに
糸井が呼ばれたのです。
久々に会っても自然体なふたりが
たっぷり話した約2時間。
放送されなかったトークも含めて、
だいたいぜんぶを文字にしました。
- 木村
- 最後にもう一通、
こんなメッセージも届いてます。
- 糸井
- はい。
- 木村
- 神奈川県のゆかりんさん、44歳女性。
ありがとうございます。
「いつもたのしく視聴させていただいております。
木村さんの多才ぶりがよく伝わってきて、
ほんとに天才気質なんだなと感心するばかりです。
もちろん中には苦手なこともあるんでしょうけど、
そこを感じさせないところが、プロだなと思います。
そこで質問です。
どーーしても苦手な分野の仕事が
舞い込んできたときは、
どのように対処していますか?
また苦手を克服できる秘訣などあったら
ご伝授ください」
‥‥っていうメールが来てます。
苦手な分野って、ありますよね?
- 糸井
- うん。でも、苦手なことは、しなくてもいいでしょ。
- 木村
- ああ、だから、対処としては、
「しない」っていうのが一番早いですよね。
- 糸井
- 早いですよね、うん。
で、その仕事をやらないとすると、
こういう被害がありますとか、
こんなに損しますって言われても、
その損はじぶんが払うから、って思えば、
そこをやんないで済みますよね。
- 木村
- そうですね。
だから「こう克服する」とかではない気がするなぁ。
- 糸井
- 苦手だけど、どうしてもしなきゃいけないことって、
身の回りの人たちとの関係だけだろうね。
家族のこととか、友だちとのこととか。
- 木村
- ああ。
- 糸井
- 家族や友だちが困っていて、
じぶんが苦手なことだけど助けなきゃいけない、
というときには、やんなきゃダメだよね。
でも、それ以外はいいんじゃないかな。
- 木村
- そうですね。
あの、苦手なことって、無理してやると、
他の人までつき合わせることになるんですよ。
というのは、だいたいぼくらがやってることって、
じぶんひとりでできることは、まずないので。
必ず誰か他の人が関係してくれていて、
その場に携わってくれている。
もしも苦手なことをやると、
そういう人たちをつき合わせる時間が
そうとう長くなると思うんです。
それ考えると‥‥やっぱり。
- 糸井
- ああ、そうだねー。
じぶんひとりで、ということなら、
苦手でも我慢すればいいだけだけど、
でも、そんなことは少ないよね。
- 木村
- そうですね。だから、克服する方法はない。
「しない」っていう。
- 糸井
- 木村くんは、じぶんのことについては、
かなりちゃんと考えて判断するでしょう?
- 木村
- そうですね。
なにかを、やるか、やらないか、
というジャッジを下すときは、
「これをやった場合、俺はこうなるな」というのを、
先にすごくリアルに想像するんです。
それこそ、糸井さんがコピーを考えるとき、
ポスターにして頭の中に貼ってみるのと同じように、
それをやったらどうなるかを頭の中で具現化する。
たくさんの人が見て、どんなリアクションするか
っていうのを、じぶんですごく考えますね。
- 糸井
- ああ、いよいよもう、考え方が
プロデューサーになってるねぇ。
- 木村
- いやいや(笑)。
プロデューサーというより、
まだまだ前線の人です。
- 糸井
- 前線にいるけど、プロデューサーの頭も持ってる。
それって、要するに現役時代の
イチロー選手みたいなものだね。
- 木村
- あー、なるほど。
- 糸井
- イチローさんはずいぶん若いときから、
「じぶんを見てるもうひとつの目がある」
という言い方をしてましたから。
- 木村
- あー。
- 糸井
- あと、やっぱり、永ちゃんだよね。
矢沢永吉も両方を持ってる。
- 木村
- ぼく、69歳の矢沢さんが
東京ドームでやったライブに
行かせてもらったんですけど、
いやーー、なんか、ほんと、
「パァーン!」って射抜かれた感じがしましたね。
- 糸井
- あ、射抜かれましたか。
- 木村
- はい、もう。
- 糸井
- まさに、ああいう大きなライブでは、
じぶんを励ますもうひとりの矢沢がいるんだよ。
永ちゃんはもう、はっきりと、
「俺は怖がりだ」って言う人でね、
だから、もうひとりのじぶんが
ステージに出ていく前のじぶんに
「たのしめ」って言って聞かせるんだよ。
そのことばは、俺もけっこうお守りにしてるね。
永ちゃんでも怖いのに、
「たのしめ」って言って出ていくんだから、
俺は、もうそれだなと思って。
- 木村
- ああ、でも、ゆかりんさんの相談にも、
共通して言えるような感じはしますね。
- 糸井
- そうだね。「たのしめ」。
- 木村
- 苦手でもなんでも。
そのことばは、持っておくと、
有効なパスになるような気はしますね。
- 糸井
- お守りとか、御札みたいなものが、
使い方によってはすごく効くんだよね。
だから、重要な場面で
「たのしめ」っていうのは、
俺は、じぶんに貼り付けるように持ってるね。
それは、みんなやったほうが
いいんじゃないかなぁ。
- 木村
- ぼくも賛成です。
- 糸井
- 木村くんは気弱くないの?
- 木村
- 気は‥‥弱くはないとは思うんですけど
- 糸井
- そんな気はする。
- 木村
- でも、うーん、なんだろう、
そこまで巨大な存在にはなれないというか。
- 糸井
- つまり、怖いものはなにもない!
というような絶対的な感じではない。
- 木村
- はい。気が弱くはないけど、
巨大になっちゃうのはヤです。
- 糸井
- じぶんなりに、計算はするよね?
できるのか、とか、勝てるのか、とか。
- 木村
- しますけど、それだけじゃないですね。
- 糸井
- すっごく計算もする。
こうするとこううまく行くだろうって。
だけど、根本の動機のところは
「やります」っていうだけ。
- 木村
- はい、はい、そうです。
- 糸井
- ああ、それは、なんか大事だよなぁ。
- 木村
- はい。
もう、めちゃくちゃ賛成です。
- 糸井
- たとえば、将棋でも麻雀でも、
勝ちたいし、ものすごく戦略とか考えるけど、
でも、やっぱり「たのしみたい」
っていう気持ちが根っこに必要だよね。
- 木村
- そう思います。
もちろん、勝ちたいっていう気持ちは
ありますけど。
- 糸井
- ありますよね。
木村くん、はじまると
だいたいムキになるもんなぁ(笑)。
- 木村
- ははははは。
いや、勝ちたいっていうのはありますよ。
ゴルフも、サーフィンも、麻雀も、釣りも。
だから、そういうときこそ、
「いや、そこ、いいから‥‥たのしめ」
っていうカードが切れると
いいのかもしれませんね。
- 糸井
- ああ、そうだね。
勝ちたいときとか怖いときこそ、
見つかるからね、たのしむ要素が。
- 木村
- はい。
(つづきます!)
2019-09-12-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN