- 糸井
- ひさしぶりのコンサートだけど、
いまは昔よりもリハに時間をかけて
やれるようになったんじゃないですか?
- 木村
- そうですね。
若いころの、当たって砕けろ系の
やりかたではなくなってきてる感じはします。
コンサートに来てくれる人たちに、
ちゃんとしたものを提供したいっていう
気持ちがどんどん強くなってるかな。
- 糸井
- ああ、そういう変化はよかったね。
- 木村
- うん、よかったです。
- 糸井
- このあいだ、矢野顕子のコンサートに行ったら
とてもよかったんで、楽屋で会って、
「なんか歌うまくなってるよねぇ」って言ったら、
本人も「そうなのよ」って言うから、
「それは、なんで?」って聞いたの。
そしたら、
「調子に乗ってるのかなぁ」って言ったの。
- 木村
- 矢野さんが?
- 糸井
- うん。本人が自分で。
それは、なんかすごくよくわかる気がして。
「俺はできるんだ」みたいな
調子に乗るときってあるじゃないですか。
- 木村
- 「調子に乗る」って、ことばだけ聞くと、
「あいつ調子に乗ってんな」っていう、
なんかネガティブにとらえられがちですけど、
ほんとうはすげえいい状態なんですよね。
- 糸井:
- そうなんですよ。
だから、本人はものすごくうれしそうに、
「調子に乗ってる」って。
- 木村
- 「調子に乗ってる」っていうワードを
言っちゃう矢野さんがすごいですけど。
「調子がいい」じゃないですもんね。
- 糸井
- 違う。
- 木村
- 「調子に乗ってる」んですもんね。
- 糸井
- 持ってる実力以上のものを出せる
っていうのは、調子に乗らないとできないわけで、
やっぱり「調子に乗る」っていうのは、
すごく大事なことだと思う。
というか、調子に乗らずに
なにかできることなんかないよ。
- 木村
- おお。
- 糸井
- 木村拓哉見てても、それは感じるよ。
- 木村
- そうですか。
- 糸井
- 言ってみれば、木村くんって、
すごく自己肯定力の低い人なんだけど、
でも調子に乗っているシーンというのは
やっぱりいっぱいあるわけで、
それは「いいぞ!」と思うんですよ。
- 木村
- ほんとうですか。
じゃあ乗れるときは、調子に乗らせていただきます。
- 糸井
- 調子に乗ったほうがいいと思うよ。
あれをさ、矢野顕子のキャリアになっても
うれしそうに言えるっていうのはさ‥‥。
- 木村
- でも、かわいいですね、矢野さん。
そういうふうにおっしゃるのは。
でも、デビュー2年目です、ぐらいの子が、
「最近、調子に乗らせてもらってて」
とかって言ってたら、俺、
「ちょっと来い」って
言いたくなっちゃうかもしれないなあ(笑)。
- 糸井
- そこは木村くんの運動部の部分(笑)。
剣道部だよ、それ。
- 木村
- ああー。
- 糸井
- 俺はそういう子にはどんどん行けって言うし、
木村くんに対してもそう言ってたよ、たぶん。
- 木村
- ああ、そうですね。そんなふうに
言ってくれてたのは覚えてますね。
- 糸井
- 木村くんはとにかく自分に対する点数が厳しいんで、
誰かが手伝って取ってあげる必要があるんだよね。
つまり、芸能の世界で、
きみ大丈夫だよって、ちやほやするんじゃなくて、
「ほんとうにすごいよ」っていうのを、
ちゃんと本人の目を見て
言ってあげる必要があるなと思って。
- 木村
- そうなんですよ。言ってくれてたんですよ。
- 糸井
- いや、ほんとうに、すごいよ。
- 木村
- ありがたいことに。
- 糸井
- それは、いまもずっと変わらないかなあ。
ぼくが最初に木村くんを知ったのは、
木村くんが19歳くらいのときだったと思うんだけど。
根本的にあのあたりの年齢の感じは、
ずーっと残ってる。
- 木村
- もう30年経ってますけどね(笑)。
- 糸井
- あのね、ぼくは「魂年齢」と呼んでるんだけど、
その人のべースの年齢って、
ずっと変わらずあると思うんだよ。
それ、俺はたぶん、29歳ぐらいなんだよ。
- 木村
- 糸井さんの29歳って、なにをやってたときですか?
- 糸井
- 仕事としては、たとえば、
『成りあがり』の取材とかしてるわけ。
永ちゃんのあとついてツアー回ってたり、
あるいは、ひょいと、『TOKIO』っていう歌の
作詞を頼まれたりする直前くらいかな。
- 木村
- 沢田研二さんの。
- 糸井
- うん。そのすこしあとにやった仕事が、
いわゆる「俺の仕事」になっていくんだけど、
その直前の仕事をやってた29歳くらいの自分が
ずーっと、「俺」な気がするの。
- 木村
- それが、俺は、19?
- 糸井
- そう。なんか、まだ青臭い部分があるんだけど、
青いって、けっこうすごいことだよ、みたいな。
その部分がいまも残ってる気がする。
- 木村
- まだ、成人してませんね。
- 糸井
- いいねぇ。
- 木村
- はははは。
- 糸井
- いや、それはちょっと、トクだぜ?
- 木村
- トクかなぁ(笑)。
- 糸井
- さっきもちらっと名前が出たけど、
谷川俊太郎さんって、
俺、成人してない気がするんだよね。
- 木村
- あーーー。
- 糸井
- 成人してないつもりで生きてるような気がする。
いま谷川さんと木村くんが会ったら
おもしろいよ、きっと。
- 木村
- あ、ヤバいっすね。
- 糸井
- そういう人間っているんだよ、やっぱり。
昔、吉本隆明さんところに行ったの、憶えてる?
- 木村
- はいはい、ばななさんのお父さん。
会ってるんですよ、糸井さんの紹介で。
- 糸井
- 吉本隆明と木村拓哉、会ってるんですよ。
そのふたりを会わせたのは、俺、
いいことしたなぁと思ってるんだよね(笑)。
ああいう人を見せといたっていうのはね。
- 木村
- はい。
- 糸井
- だから、あのころ、19歳とか、
二十歳くらいの部分っていうのは、
木村くんのなかで永遠かもしれないよ。
だから、たとえば年上の人と会うとき、
自分の実際の年齢と関係なく、
その年令で会ってたりするでしょ。
- 木村
- ああー、おもしろいですね。
- 糸井
- ああ、そろそろ終わんないと、怒られちゃう。
また会いましょう。
- 木村
- はい。ありがとうございました。
(ふたりの話はこれで終わりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました)
2022-04-24-SUN