ある日、木村拓哉さんがご自身の番組、
『木村さ~~ん!』(GYAO!)の収録で、
糸井重里に会うためにほぼ日にやってきました。
30年も前からつきあいのあるふたりですから、
カメラが回ってないときもたのしく話は続きます。
「ほぼ日の學校で教えるとしたら?」という話から、
最新アルバムに糸井が書いた詞のイメージなど、
時間ぎりぎりまで会話は続きました。
- 木村
- 糸井さんに、
今回の自分の2枚目のアルバムに入ってる
曲の詞をお願いしたじゃないですか。
- 糸井
- はい。
- 木村
- それで、糸井さんが詞をつくるまえに、
レコーディングスタジオに来ていただいて、
3時間ぐらい話しましたよね。
- 糸井
- ねえ。
- 木村
- ほんとに「久しぶりー」から始まって、
「最近どう?」っていう、
ほんとに他愛もない話をずっとして、
それで、糸井さんが、
「なんとなくいまの木村くんがわかったよ」
って言って帰られて、詞をつくってくれて。
- 糸井
- はい。
- 木村
- で、じつはレコーディングのときに、
ここに一個ことばを足したほうがいいかも、
みたいな細かい調整を自分なりに
やらせていただいたんですけど、
あれ、大丈夫でしたか?
- 糸井
- もちろん。大丈夫っていうか、
そういうつくり方のほうが、
ぼくはいいと思っているので。
- 木村
- あ、そうなんですか。
- 糸井
- 出てる声の元は、木村くんだからね。
木村くんの心臓が動いて、
実際の声として出てきているものだから、
そこで歌ってみてこうしたいっていうのは、
ある意味、いちばん大事なことなんで。
それはいつも、木村くんに限らず誰とやるときも、
むしろたのしみにしてる部分なんです。
- 木村
- へぇー。
- 糸井
- 誰かが歌うって決まってる詞をつくるときって、
あの、なんていうんだろう、
「イタコ」だからさ。
- 木村
- イタコですか(笑)。
- 糸井
- その人のイタコだからさ、
それがぼく自身であっては、
やっぱりおもしろくないんだよ。
あと、本人は自分のことを
かっこいいっていう歌を
歌うのってけっこう難しいんだよ。
- 木村
- ああー、はいはい(笑)。
- 糸井
- そういう部分をなんとか、
本人が恥ずかしくないように、
かっこよくしなきゃなっていうのが
ぼくの仕事なんで。
- 木村
- あと、糸井さんが作詞してくれたときに
コメントを添えてくださったじゃないですか。
ライブ会場で照明をバーンとすべて落として、
すごくかすかな光の中で、
この曲が歌われるときの会場の雰囲気を、
ぼくは体験したい、みたいな。
- 糸井
- うん。詞をつくるまえに
木村くんとやり取りしたとき、
ああ、この人は、いまこの場所に
自分がいるという責任みたいなものを
感じてるんだなぁと思ったんです。
- 木村
- うん。
- 糸井
- で、木村くんのそういう、
ある種の責任感みたいなものって、
へんな言い方ですけど、みんなが
たのしみにしてるところがあると思うんです。
たとえばコンサートって、とくにソロだと、
ピンスポットをひとつだけ浴びて
ひとりの人間がいるっていう
特別な状況があるじゃないですか。
あんなの、ふつうはきついですよ。
でも、きついけど、覚悟してやる人がいる。
そういう人の声で歌われる歌なんだろうなぁ、
と思ったから、なかなか緊張感がありましたね。
- 木村
- ああ、そうですか。
- 糸井
- 黒い紗幕みたいなものを被ってた人が、
それを外して光に当たる、みたいな、
そういうイメージで、照明のことなんかを
考えながらつくった詞です。
真っ暗なところから、ひとりの小さな歌声で、
希望につなげて明るくしていく、
っていう歌ですから、
なかなかたいへんだと思いますけど(笑)。
- 木村
- いや、ありがたきしあわせ、です。
- 糸井
- ある種のお芝居のように歌うのかもしれないね。
歌がうまい人がいくらカラオケで
上手に歌ってもしかたないというか。
- 木村
- ああー、そうかもしれないですね。
なんですかね、いつも思うんですけど、
自分にとっての歌って、
手紙を届けていることに近いと思うんですよ。
こういう曲があるんで、
お届けにまいりました、みたいな。
- 糸井
- ああ、なるほどね。
そのくらいの気持ちでやって、
成り立つバランスがあるんだろうね。
気持ちを入れ過ぎちゃうと、
なにひとりで興奮してんだよってなっちゃう。
- 木村
- そうですね。そこは危険かもしれないです。
- 糸井
- あくまでも、自分の居場所はここだ、
っていうところを定めておかないと、
歌うことって難しいんだろうね。
- 木村
- 今回、ひさしぶりにライブをやるんですけど、
やっぱりこういう集まりにくい状況下で、
もどかしさだったり、歯がゆさだったり、
ちょっとした悔しさだったりというのが
みんなのなかにあると思っていて。
糸井さんの詞を読んで、実際に歌って、
そういう悔しさや歯がゆさと、
同時にもうすぐだよっていう希望も感じたので、
それを会場でみなさんがどういうふうに
受け取ってくれるかなっていうのが、
いま、すごくたのしみで。
- 糸井
- そうですね。状況によって、
聞こえ方の違う歌になったなぁと思っていて。
そういう意味でもコンサートは
すごくたのしみにしてます。
- 木村
- はい、気合い入れます。
(つづきます)
2022-04-23-SAT
(C) HOBONICHI