北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第9回 「本気」は気持ちいい。

糸井 役者として演技するときの
たけしさんは、どうなんです?
その、本気かどうかの文脈でいうと、
どっちなんですか?
たけし ウーン‥‥。
本気で演技しちゃってね、
それがツラいときもあるんだ。
最近、どーにかやるようになったけど。
糸井 最近、やるようになったっていうのは、
言われると、視聴者として
わかるような気がする。
たけし ウン。
『血と骨』あたりからかな、
ちゃんとやるようになったけどね。
糸井 それは、恥ずかしいんだろうけど、
やっぱり演技だから、
大丈夫なんですね、きっと。
たけし ウン。
糸井 で、演技のなかに、
また2種類あるんでしょ。
たけし そうそうそう(笑)。
演技のなかでも、真剣に、本気で、
その気になってやってるのと、
監督が見て、演技らしく
やってればいいんじゃないか
っていうのがあって。
で、そのふたつっていうのは、
ほとんど同じようなレベルであって、
はっきりわかるようなことではないんだ。
つまり、ホントに気持ち入れて演技したのと、
たいして入れてないのと、
そんな、変わってないの。
糸井 うん、うん。
たけし だけど「気持ち入れてやってます」ってのは、
まえは、やっぱり恥ずかしさがあって、
自分じゃ言わないし、やんなかったんだけど、
最近では、精神的に、こう自分で盛り上げて、
たとえば誰かを嫌いな役だったら
「あのヤロー!」って、そいつをホントに
嫌いなような感じを出してやるようになった。
糸井 それは、そういうふうに演じるのが
おもしろくなったんですかね?
たけし ウーン‥‥おもしろくはない。
ちょっと、なんだろう、その部分では、
やや恥ずかしくなくなってる、っていうか。
糸井 思えばそれ、たいへんな進歩ですよね。
たけし ウン。
「だって役者でしょ」って言われたら、
「ア、そっか」って言う話だけどね。
糸井 でも、肩書に「役者」って入れたからって
本気で演じられる役者になれるもんじゃないし、
やっぱり、「本気」との格闘のなかで、
たけしさんが獲得してきたものが
あるんだと思いますけどね。
たけし ちょっと場慣れしてきたっていうのはあるよ。
糸井 ああ、「場慣れ」ね。
たけし 最初のころは、役者をやること自体が
恥ずかしい時代があったから。
それが、何回も何回も出て、慣れてくると、
「役者やってください」って言われても
「いいよ」ってやれるようになった。
気持ち入れて演技することも、最初は、
「しょせん、芝居じゃないか」
って思ってたんだけど、必要だと思ったら、
できるようになってきたね。やや、ね。
糸井 うん、うん。
たけし あと、それの評価があると、
やっぱり気持ちが違うよね。
その、わりかしちゃんと評価されるんだよね。
糸井 ちゃんとやれば、ちゃんと。
たけし ウン。いろいろと。
糸井 たけしさんの場合、演技する自分のほかに、
監督やってる自分っていうのが
もうひとりまたいるわけで、
たとえそれが自分の監督作品じゃないとしても、
芝居やってる自分に対して
点数つけますよね、きっと。
その場合は、本気でやってるほうが
監督目線で「いいんじゃない」って言えるのかな。
たけし ウーン、人の作品に出るときは
自分の芝居をどこに持っていくのかが
ちょっと複雑でね。
本気でやって、その監督がOK出すかどうかは
また違うと思うわけ。
糸井 なるほど。
たけし だから、基本的には、さっき言ったように
監督がOK出すような芝居をするの。
あんまりやりたくない仕事を
義理でやってるときは、極端にいうと
リハーサルから、手抜いていて、
本とおしぐらいから力入れて、
本番で、こう、気持ち入れた振りをするみたいな。
糸井 それでも、まわりからはわからないし、
監督もOKが出せるわけだ。
たけし ウン。でも、ホントは、
本気でやってOKが出るのが
いちばん気持ちいいんだよね、役者にとっては。
糸井 ああー。
たけし だから、黒澤(明)さんに、
いろんなこと言われまくって、
仲代(達也)さんたちが
「うーん‥‥」って悩んでたりするのもさ、
アレ、本気でやってるわけじゃなくて、
黒澤さんがいちばん気に入る演技を
調整してるだけだと思うわけ。
糸井 それを見つけていくプロセス。
たけし ウン。だから、わかんないけど、
「OK」って言われても、ホッとするだけで、
あんまり達成感はないんじゃないかな。
だって、人のOKに合わせるのは、
気持ちよくないんだもん。
糸井 あー、じゃあ、監督としてのたけしさんは、
芝居をやる人に、その気持ちよさを、
できたら味わってほしいと思ってやってますね。
たけし ウン。ある程度ね。
糸井 「好きにやんなよ」っていうスタンスで。
たけし ウン。で、その人が好きな形でやって、
それがオレと合わない人は、
最初から使わなければいいだけの話だからね。
糸井 ああ、そうですね。
たけし 幸い、ずっと監督やってきて、
「あの人の演技のほうがいいな」とか、
そういうことは言えるようになったから。
だから、そういうふうにして、
役者以外も決まっていくから、
「組」ってのができるわけで。
糸井 いわゆる、「北野組」がね。
たけし そうそう。
ソレって、カメラマンのクセであったり、
照明さんのクセであったり、
けっきょくは好き嫌いがあって、
好きどうしが集まるのが「組」だから。
役者もスタッフも、必然と同じ人になってくる。
糸井 チームができるっていうことですよね。
コントなんかも似たところがありますよね。
たけし ウン。
糸井 いま、たけしさんが
「タケちゃんマン」を
本気でやったらどうなるんだろうね(笑)。
たけし ハハハハ、真剣なタケちゃんマン。
ソレはおもしろいと思う(笑)。
糸井 ちょっと観てみたいですね。
たけし 絶対おもしろいと思う。
楽屋話一切なしで、真剣なタケちゃんマン。
糸井 あの衣装でね。
たけし ウン。
(つづくぞ、コノヤロー)

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2008-10-01-WED


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