北野武×糸井重里 たけし、コノヤロー。 新作『アキレスと亀』をとっかかりに。

第10回 歳をとるということは。

糸井 年齢があがるごとに、
変わっていくものってたぶんあると思うんですね。
ぼくも変わってきたと、自分で思うんです。
たけし ウン。
糸井 あの、たけしさんが持ってる「恥ずかしさ」って
ぼくなんかも持ってて、
「本気じゃないよ」っていうところで、
バランスをとりながら
生きてきたようなところがあるんだけど、
年をとるとね、だんだんと、
ちゃんと手あげて立候補する人っていうのは
偉いなって思うようになったんですよ。
たけし あー、ウン、ウン。
糸井 ちゃんと手を挙げて責任取ってる人がいて、
オレは、それから逃げてきたな、
っていう気分が長いことあって。
でも、45歳ぐらいのころから、
ちょっとちゃんとしようかなと思って。
いちおう、「ちゃんと社長をやります」って
手を挙げたりしてね(笑)。
たけし ハハハハ。
糸井 で、そういうのをやっているうちに、
最近は真面目にやるのがおもしろくなってきた。
たけし ウン、ウン。
糸井 たけしさんの変化とは
また違うかもしれないけどね。
たけし なんだろう、やっぱり、
真面目にやるのっておもしろいっていうか、
あと、ラクなんじゃないかって思うんだよね。
糸井 ああー。
たけし 真面目にやるのって、じつは、やってみたら、
ラクで、たのしいことだったりするでしょ。
糸井 それこそ、最初はちょっと
「恥ずかしい」かもしれないけど。
たけし ウン。
糸井 あの、たとえば、いまのたけしさんって、
こうやって、映画のために、
立て続けに取材をこなしてる時期ですよね。
で、「一日中取材続きのオレ」ってのを
恥ずかしいと思うだけの人だったら、
これはできないですよね。
でも、いまのたけしさんは、
ホントは恥ずかしいのかもしれないけど、
これを「やりますよ」って言って、
一日中取材を受けてるわけですよね。
やるからには、おもしろさも見つけたりしながら。
たけし ウン、ウン。
糸井 それが、歳とるってことなのかなとも思うんです。
たけし ウーン、でも、それがさ、
自分の本質と違ってたら、
やっぱり、ごまかしてんじゃないか、
っていう気もするんだ。
それを思うとね、歳をとることが
すごい、怖いと思うこともあるよ。
若いときって、漫才でも映像でも、
ピンピン、ピンピン、反応して動けるんだけど、
歳をとると、なんか、違う文化を持ってきて、
骨が細くなってるのにギプスしてるみたいに、
ごまかしてる気もするんだよ。
舞台なんかに立ってるととくにそう思う。
糸井 あああ、なるほどね。
たけし 「あれ? オレ弱ってるんじゃねぇか?」
っていうのが、どこかにあって、
だから、いまいちね、オレ、
歳を取ること、っていうのがね、
いいことばっかりとも思えないっていうか、
だんだん自分が違う世界に
行ってるような気がすることがある。
糸井 それは、たけしさんなりの芸術論ですよね。
つまり、理想のひとつとしてあるのが、
「職人」なんでしょうね。
もう、なんていうか、
「左甚五郎みたいになりたい」って言うか。
たけし ハハハハハ、ウン。
糸井 「オレが彫った猫は眠っちゃった」だとか、
「彫ったスズメが動き出した」というところに
やっぱり、基準があるんじゃないですかね。
たけし ウーン‥‥そうなのかなァ‥‥。
糸井 志ん生さんみたいな。
たけし ああ、ウン。そーね。
糸井 要するに、その人の道を、
そのまままっすぐまっすぐ進んで、
静かにそのまま終わっていくという。
そこはやっぱり、憧れのひとつでしょう?
たけし ウン。オレはね、落語に関しては
志ん生さんはね、やっぱり、すごいと思う。
先鋭的なものから骨董品になっていくよさがある。
だから、各時代にいいのよ、あの人は。
糸井 そうですね。
たけし 談志さんなんかもさ、
志ん生さん的なことがあったら、
もっとよくなるのになって思う。
だけど、いまだにあの人ね、ギンギンなの(笑)。
志ん生さんの味がないの。
糸井 たとえば志ん朝さんなんかは、
「あとは、歳取るだけだ」って
みんな思ってましたよね。
でも、そんなときに死んじゃった。
だから、歳とるっていうのも
たいへんな仕事だともいえますよね。
たけし ウン、そうそう。
糸井 志ん生さんは、それが自然にできちゃった人で、
たけしさんが好きなのは、
ああいう道なのかなとも思って。
たけし ウン。落語では、文楽と志ん生が
双璧だとオレは思うんだけど、
どっちかって言うと、やっぱり、
志ん生さんの方が好きだねェ。
糸井 そうでしょうね。
たけし あと、それと同じように考えるとね、
マチスとピカソとかもそうなんだよね。
マチスって、デッサンを、
ものすごいヤダとか言ってやんなくて。
で、ピカソは、デッサン、
やってるに決まってるんだけど、
ちょっとヘタウマの振りをするじゃない。
糸井 うん、うん。
たけし どっちもすごいんだけど、そのへんは
志ん生、文楽と同じような気がするなァ。
(つづくぞ、コノヤロー)

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2008-10-02-THU


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