糸井 |
年齢があがるごとに、
変わっていくものってたぶんあると思うんですね。
ぼくも変わってきたと、自分で思うんです。 |
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たけし |
ウン。 |
糸井 |
あの、たけしさんが持ってる「恥ずかしさ」って
ぼくなんかも持ってて、
「本気じゃないよ」っていうところで、
バランスをとりながら
生きてきたようなところがあるんだけど、
年をとるとね、だんだんと、
ちゃんと手あげて立候補する人っていうのは
偉いなって思うようになったんですよ。 |
たけし |
あー、ウン、ウン。 |
糸井 |
ちゃんと手を挙げて責任取ってる人がいて、
オレは、それから逃げてきたな、
っていう気分が長いことあって。
でも、45歳ぐらいのころから、
ちょっとちゃんとしようかなと思って。
いちおう、「ちゃんと社長をやります」って
手を挙げたりしてね(笑)。 |
たけし |
ハハハハ。 |
糸井 |
で、そういうのをやっているうちに、
最近は真面目にやるのがおもしろくなってきた。 |
たけし |
ウン、ウン。 |
糸井 |
たけしさんの変化とは
また違うかもしれないけどね。 |
たけし |
なんだろう、やっぱり、
真面目にやるのっておもしろいっていうか、
あと、ラクなんじゃないかって思うんだよね。 |
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糸井 |
ああー。 |
たけし |
真面目にやるのって、じつは、やってみたら、
ラクで、たのしいことだったりするでしょ。 |
糸井 |
それこそ、最初はちょっと
「恥ずかしい」かもしれないけど。 |
たけし |
ウン。 |
糸井 |
あの、たとえば、いまのたけしさんって、
こうやって、映画のために、
立て続けに取材をこなしてる時期ですよね。
で、「一日中取材続きのオレ」ってのを
恥ずかしいと思うだけの人だったら、
これはできないですよね。
でも、いまのたけしさんは、
ホントは恥ずかしいのかもしれないけど、
これを「やりますよ」って言って、
一日中取材を受けてるわけですよね。
やるからには、おもしろさも見つけたりしながら。 |
たけし |
ウン、ウン。 |
糸井 |
それが、歳とるってことなのかなとも思うんです。 |
たけし |
ウーン、でも、それがさ、
自分の本質と違ってたら、
やっぱり、ごまかしてんじゃないか、
っていう気もするんだ。
それを思うとね、歳をとることが
すごい、怖いと思うこともあるよ。
若いときって、漫才でも映像でも、
ピンピン、ピンピン、反応して動けるんだけど、
歳をとると、なんか、違う文化を持ってきて、
骨が細くなってるのにギプスしてるみたいに、
ごまかしてる気もするんだよ。
舞台なんかに立ってるととくにそう思う。 |
糸井 |
あああ、なるほどね。 |
たけし |
「あれ? オレ弱ってるんじゃねぇか?」
っていうのが、どこかにあって、
だから、いまいちね、オレ、
歳を取ること、っていうのがね、
いいことばっかりとも思えないっていうか、
だんだん自分が違う世界に
行ってるような気がすることがある。 |
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糸井 |
それは、たけしさんなりの芸術論ですよね。
つまり、理想のひとつとしてあるのが、
「職人」なんでしょうね。
もう、なんていうか、
「左甚五郎みたいになりたい」って言うか。 |
たけし |
ハハハハハ、ウン。 |
糸井 |
「オレが彫った猫は眠っちゃった」だとか、
「彫ったスズメが動き出した」というところに
やっぱり、基準があるんじゃないですかね。 |
たけし |
ウーン‥‥そうなのかなァ‥‥。 |
糸井 |
志ん生さんみたいな。 |
たけし |
ああ、ウン。そーね。 |
糸井 |
要するに、その人の道を、
そのまままっすぐまっすぐ進んで、
静かにそのまま終わっていくという。
そこはやっぱり、憧れのひとつでしょう? |
たけし |
ウン。オレはね、落語に関しては
志ん生さんはね、やっぱり、すごいと思う。
先鋭的なものから骨董品になっていくよさがある。
だから、各時代にいいのよ、あの人は。 |
糸井 |
そうですね。 |
たけし |
談志さんなんかもさ、
志ん生さん的なことがあったら、
もっとよくなるのになって思う。
だけど、いまだにあの人ね、ギンギンなの(笑)。
志ん生さんの味がないの。 |
糸井 |
たとえば志ん朝さんなんかは、
「あとは、歳取るだけだ」って
みんな思ってましたよね。
でも、そんなときに死んじゃった。
だから、歳とるっていうのも
たいへんな仕事だともいえますよね。 |
たけし |
ウン、そうそう。 |
糸井 |
志ん生さんは、それが自然にできちゃった人で、
たけしさんが好きなのは、
ああいう道なのかなとも思って。 |
たけし |
ウン。落語では、文楽と志ん生が
双璧だとオレは思うんだけど、
どっちかって言うと、やっぱり、
志ん生さんの方が好きだねェ。 |
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糸井 |
そうでしょうね。 |
たけし |
あと、それと同じように考えるとね、
マチスとピカソとかもそうなんだよね。
マチスって、デッサンを、
ものすごいヤダとか言ってやんなくて。
で、ピカソは、デッサン、
やってるに決まってるんだけど、
ちょっとヘタウマの振りをするじゃない。 |
糸井 |
うん、うん。 |
たけし |
どっちもすごいんだけど、そのへんは
志ん生、文楽と同じような気がするなァ。 |
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(つづくぞ、コノヤロー) |