小網代の森5周年記念企画 花さく小網代、花さく三浦! みんなで小網代にハマカンゾウを植えにいこう!

神奈川県三浦半島の先端にある、小網代の森。
一般開放から5周年を迎えた今年、
ほぼ日乗組員と「ほぼ日の学校」受講生、
みんなで小網代の森に集合して、
ハマカンゾウを植えることになりました。
当日はテキスト中継をする予定なのですが、
「そもそも小網代ってなに?」
「ハマカンゾウってどんな花?」
という読者もいらっしゃると思います。
そこで予習復習をかねて、
30年以上保全活動をされてきた岸由二さんに、
小網代の歴史、ハマカンゾウのこと、
いろいろなお話をうかがってきました!

510万年後の小網代

──ハマカンゾウのお話、
どうもありがとうございました。
いろいろと勉強になりました。

じゃあ、勉強のついでに、
ひとつ「怖い話」をしてもいい?

──怖い話?

ハマカンゾウは夏の花なので、
いちばんの見どころは8月中旬なんです。

──はい。

去年いちばん咲いたのが8月19日。
そして今年も8月19日か20日。
つまり、毎年だいたい同じ日に、
なぜか一斉に花がバーッと咲く。

──へぇーー。

ハマカンゾウの開花グラフ

歴史をすこしさかのぼると、
戦国時代の初期まで
小網代周辺は三浦一族の領土でした。
小網代の先、相模湾の近くには
本拠地の新井城があったそうです

──はい。

永正13年7月13日、
新井城は後北条氏に攻め込まれ落城します。
将軍・三浦義同をはじめとする将兵たちは、
そこで討死にします。
残る武士たちもその場で自害し、
近くの「油壺湾」へ投身したと言われています。

そもそも「油壺」という地名の由来は、
落城した日に湾一面が血で染まり、
まるで油を流したような状態になったことから、
後世「油壺」と呼ばれるようになった、
という説もあるみたいです。

──油壷と言えば、
小網代湾のすぐ隣ですね‥‥。

三浦氏が消滅した永正13年7月13日。
それをいまの暦、グレゴリオ暦に換算すると‥‥。

──‥‥すると?

ぴったり8月19日。
つまり、ハマカンゾウが一斉に咲く日と、
完全に一致するんです。

──うわっ!

つまり、三浦氏が落城した日、
いまから約500年前の小網代の浜辺でも、
ハマカンゾウが満開に咲いていたはずです。
津波で奇跡的に残った28株も、
おそらくそのときの末裔だと思います。
歴史の惨劇を見届けていた子、
その末裔たちがいま小網代で咲いています。
そして三浦氏が落城した日に、
なぜか毎年一斉に花を咲かせる。

──怖いと言うより、すごい話‥‥。

ハマカンゾウというのは、
調べてみるとすごくおもしろい花なんです。
これは海辺の50度になるような
灼熱の岩の上でも平気で咲きます。
にも関わらず、近縁の種類が
極寒の尾瀬でも咲いています。
寒くても暑くても、乾燥地でも水辺でも、
どこでも咲く花なんです。
生態学者として見ると、
もう、なんじゃこりゃという花。

──どこでも咲く花‥‥。

極論を言うと、
この花はたぶん氷期でも咲く花なんです。
氷河期って寒冷な期間の「氷期」が
だいたい10万年周期でやってきて、
その間の比較的あたたかい時期「間氷期」が
約1万年くらいつづきます。

──それを繰り返すわけですね。

いまの地球は「間氷期」で、
次の「氷期」に入る前の段階です。
すでにピークはすぎているので、
海面の高さはどんどん下がっています。
ピークの縄文時代の頃と比べると、
海面は約7メートルほど下がっています。

──そんなに?! へぇーー!

どんどん海面が下がって、
次の氷期がくるとどうなるか? 
油壷の先端から沖合5キロくらいまで
どんどん陸地になっていくはずです。
で、それだけ陸地が伸びたとき、
小網代のハマカンゾウはどうなると思いますか?

──ハマカンゾウがどうなるか?

今度の氷河期は
7~10万年後くらいに来ると言われています。
海面の高さは130メートルくらい下がる予想です。
そんな7~10万年後の未来で、
いま小網代にいるハマカンゾウたちはどうなるか?

──10万年後のハマカンゾウ。
ぜんぜん想像つかないのですが‥‥。

極端なことを言うようだけど、
徐々に海面が下がって陸地が広がっていくと、
ハマカンゾウたちもどんどん数を増やしながら、
広い方へと伸びていきます。
数を増やしながら、勢力を拡大していく。

──なるほど。
どんどん範囲を広げていく。

しかも、氷期でどんどん寒くなっていくと、
他の植物はなかなか育たないから、
もしかしたらハマカンゾウだけの可能性もある。

──ハマカンゾウ、すごい。

これから数千年、数万年先は、
小網代湾のあたりは壮大な尾瀬ヶ原になります。
そうなるとこれから先、
もし人類がなにかしらの理由で滅亡しても、
われわれが育てているハマカンゾウは、
さらにどんどん広がりつづけて、
誰もいない7万年後の三浦半島のまわりを
オレンジ色の花がうめつくしているかもしれません。

──すごいスケールの話だ‥‥。

そして、そこに遠い星から宇宙人がやってきて‥‥。

──う、宇宙人?!

その宇宙人が「なんでこんなきれいな花が、
ここにこんなにも咲いているんだ!」と言うとしたら、
それは「われわれが小網代の森で、
ハマカンゾウを増やしつづけたから」
ということになります。

──まちがいではない(笑)。

そういうことを想像すると、
ぼくはうれしくてしょうがないんです(笑)。
こういうのは自然科学者として、
とってもうれしいと同時に、
そういうロマンチックな生き方を
みんなもいっしょにしようぜ、
と言いたくなっちゃう。
だって、そういう話のほうが
聞いててもおもしろいでしょう? 

──話が壮大すぎてちょっと困惑してますが(笑)。
でも、おもしろいです。

まあ、あえて現実的な話に戻しますが、
つまりハマカンゾウは
可能性がたくさんある花なんです。
ヨーロッパでは品種改良して、
それを売り買いする巨大市場もあって、
8万品種くらいあるとも言われています。

──そんなにあるんですね。

つぼみの部分は「金針菜」として、
中華料理の人気食材です。
花も食べられるし、
根も漢方の生薬としてつかえます。
生でもいけて、乾燥させて保存もできます。
こんなオールマイティーな花が、
日本でまったく注目されてなかったのは、
すごく不思議ですね。
たぶん身近にありすぎたからでしょうね。
‥‥と、ハマカンゾウの話は、
ひとまずこんなところでしょうか。

──ありがとうございました。
ハマカンゾウを植えるのが、
ますますたのしみになってきました!
当日もどうぞよろしくお願いします。

こちらこそよろしく。
ありがとうございました。