理解力と人格。いま「一緒にはたらきたい人」とは?

ほぼ日と関係の深いおふたりが、
「人を採用するときに大切なこと」について
たまたま同時期に、別々の場所で話されました。
ひとりは、人材紹介会社、
KIZUNAパートナーズの河野晴樹さん。
もうひとりが、レオス・キャピタルワークスで
ファンドマネージャーとして働く藤野英人さん。
河野さんは「理解力」をはたらく人の
もっとも重要なポイントとして挙げ、
藤野さんははたらく人の機能ではなくて
「人格」こそが大切だと言いました。
人材紹介と投資運用という
異なるお仕事をされているおふたりですが、
大切にしていることはなんだか似ているようです。
糸井重里と3人で「はたらくこと」について
たっぷりと語りました。
全7回にわたっておとどけします。

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とじる

第1回先に愛しなさい。

糸井
この鼎談の発端をご説明すると、
2人がほぼ同時期にそれぞれ、
「はたらくこと」や「採用」に関する
おもしろい言葉をおっしゃったんです。
藤野
そうでしたか。
糸井
河野さんに採用で大切なことはなにか、
というお話しをほぼ日でしていただいた際に、
「理解力」というキーワードが出てきまして。

「理解力」とは単に「頭がよい」とか
「気が利く」ことだけではない、という話が
とてもおもしろかったんです。
河野
そう感じていただけてうれしいです、
ありがとうございます。
糸井
それとほぼ同時期に、
藤野さんがご自身のFacebookに
「採用するときに大事なことは人格だ。」と
書かれていて。
藤野 英人

昨日、懇親会の時にお客様に聞かれました。
社員を採用するときになにが大事ですか?
私が話したのは、とにかく人格・人柄が大事だと。
たとえば、人格・人柄が最低だけど能力が高い人と
人格・人柄は最高だけど能力が最低な場合、
間違いなく後者を選ぶと言ったらけっこう驚かれた。
でも絶対にそう。前者は会社が壊れるかもしれない。
後者は何も起きないだけ。
ひょっとすると多少よいことがあるかもしれない。
スキルは改善できるけど、人柄はなかなか改善できない。
とにかく、意地悪な人をいかに社からなくすか、
いれないかを大事にしてる。意地悪は会社をダメにする。
やさしいひと。人の気持ちを大切にしてること。
当社の社員はそういう意味では
能力は抜群でないかもしれないけど
(とはいえ、能力の高い人が圧倒的に多いけど)、
社員の人柄という点では日本の運用会社では
ベストクラスだと自負してます。

(藤野さんのFacebookより引用)

糸井
「理解力」と「人格」。
この2つのキーワードを紐解きながら
「はたらくこと」について
3人で話をしてみたらおもしろそうだな、
というのが発端でした。
河野
「理解力」と「人格」‥‥
根本は同じことを言っていますよね、きっと。
糸井
そうかもしれませんね。
なので言葉の意味だけではなくて、
おふたりが「どうしてこの言葉が大事だと思うのか」を
話してもらえたらいいなと思っています。
河野
どうして大事なのか。
糸井
はい。あの、いろんな人が、
「いい人といい環境でたのしく働きたいけど
どうしたらいいんだろう?」と考えているけれども、
答えがみつかっていない人が多いと思うんです。

おふたりもおそらく、
同じようにこの問いをたくさん考えられて、
その結果、キーワードにそれぞれたどり着いたと
思うんですけれども、どうして大事だと思ったのか。
その思いの部分や経緯が全然違うはずなので。
藤野
そうでしょうね、
私も河野さんの話は気になります。
糸井
よかった。
それでは、河野さんからうかがいますが、
河野さんは会社が求人をする際に
いい人を見つけてくる
人材紹介のお仕事ですよね?
河野
そうです。
糸井
基本的に求人というのは、
会社が営業、SEなど職種別に人を募集していて、
河野さんは職種に合う能力の高い人を探して
会社とマッチングする。
つまり機能で人を選別していい人を探し出すのが
人材紹介のお仕事ですよね、普通は。

でも、河野さんは
「理解力」とか「人間とは」とか、
ちょっと違う話ばかりしたがる。
河野
その自覚はあります(笑)
機能ではないところに興味があります。
糸井
やっぱりそうですか(笑)
河野
僕は「理解力」とは機能ではなくて、
人としてのベースにあるものだと思います。
糸井
人としてのベースですか?
河野
あの、昨今は精神的に病んでしまうビジネスマンが
増えています。そういった方々の多くは、
「自分はこの組織で何ができるのか」とか
「自分は求められているのか」とか
自分のことを理解してもらいたい、と
考えているから辛くなるのではないかと。
糸井
ああ‥‥
自分に主軸があるということですかね。
河野
そうです。
でも自分ではなく、上司や部下、お客さま、
もっと広げると”社会”に軸をおける人がいます。
広く目を向けて、
自分に関わる人たちの求めていることを
一生懸命理解しようとする能力を
僕は「理解力」と言っています。
糸井
人として、自分だけでなく、
広く目を向けられる力ですか。
河野
「この会社の未来はどういう風に進んで、
そのために自分はどんなことができるのか。」
ということを一生懸命考えられる力といいますか。

そういう「理解力」がある人は、
いつの間にか周りにも理解されて
何をやってもうまくいく人が多いなと、
人材業界で長く働いてきて感じました。
糸井
なるほど。
「理解力」という言葉は
河野さんの仕事のキーワードですか?
河野
すごく大切にしている言葉ですね。
いろんな言葉に言い換えて、
大事だよと周囲に伝えています。
やっぱり「理解力」の高い人が
集まっている会社は魅力的になりますし。
糸井
「理解力」のある人、かあ。
河野
先ほど藤野さんがおっしゃられた
「人格」に近い意味かもしれません。
糸井
頭がよい、だけではなくて。
河野
そうですね、
それだけだと足りないですね。
糸井
共感力もまた違いますか?
河野
共感力はあくまでも「理解力」の一部で、
それだけだとちょっと足りないです。
もっと広くて、積極的で‥‥
糸井
そうですね‥‥
父親や母親の感覚に近いかもしれませんね。
河野
ああ、そうですね(笑)
共感力は受動的なイメージが僕の中にあって、
「理解力」はもう少し積極的なイメージです。
なので父親や母親的な感覚かもしれません。
藤野
すごくわかります、そのイメージ。
河野
「理解力」という言葉が、伝えたい概念を
言い表せているのかわからないのですが。
感覚的には、いろんなものに目を向けて、
積極的に知ろうとして、包み込もうとして‥‥
糸井
‥‥もしかしたら、
「先に愛しなさい」ということですかね。
藤野
ああ。
河野
そうです。そうですね。
糸井
愛って万能な言葉で、
簡単に当てはめられてしまうので
僕はなるべく使わないのですが、
これにぴったりの言葉は‥‥愛ですね。
一同
(笑)
糸井
相手を理解しようとすることも、共感することも、
「先に愛する」からこそできること。
河野
実は難しいことですよね。
「関わる人たちを積極的に知りにいく」という愛情は
誰でも持っているものではなくて、
才能であり、人として大切なことなんです。
藤野
その感覚、すごくわかります。
糸井
僕は2人がわかり合っていることが、
すごくわかります(笑)
河野、藤野
(笑)
糸井
おそらく、いろいろ経験をして考えてきたからこそ、
わかってきたことですよね。
藤野
そうですね。
河野
たくさん失敗してきましたから。
糸井
僕は、2人に比べたらあまちゃんなんですよ。
河野
あまちゃんですか?
糸井
なぜかというと、
僕はあまり嫌な人とつき合わないで
生きてこられたんです。
「僕を嫌いだと思う人がいたらしょうがない。」と
へらへらしていれば、どうにかなりました。

でも上場をきっかけにいろんな会社の方にお会いして、
「あなたのそういう考えを認めない人がいるんですよ。」
というメッセージを感じる人に会わざるを得なくて。
河野
避けられなかったんですね。
糸井
そうなんです。そこで僕は、
「人を選別する必要が今までなかったんだな。」と
自分の人生を振返りました。
藤野
なるほど。そういう意味ですと、
僕たちはいろいろ苦労しているかもしれませんね。
糸井
おふたりはそうですよね。
そのあたりの苦労話、気になります。

(つづきます)

2017-05-30-TUE

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プロフィール

河野晴樹

1962年生まれ。
慶應義塾大学卒業後、株式会社リクルートに入社。
若手からエグゼクティブまで幅広く
人材紹介事業の運営を推進してきた。
一方新卒学生の採用面接をはじめ、
数多くの人事をこなしてきた「人材オタク」。
2005年、人材紹介事業をおこなう
KIZUNAパートナーズ株式会社の
代表取締役社長に就任。
主としてエグゼクティブの人材紹介を手がけている。
ほぼ日の就職論特集の際に、
「面接試験の本当の対策」に登場いただいた。

藤野英人

1966年富山県生まれ。
早稲田大学卒業後、国内外の資産運用会社で
日本株のファンドマネージャーとして活躍。
2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。
代表取締役社長・最高運用責任者(CIO)として、
成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、
高い成績を上げ続けている。
明治大学商学部の講師も長年務めている。
現在、日経電子版の「NIKKEI STYLE」にて
コラムを連載中。
ほぼ日には「どうして投資をするんだろう?」
「恋と投資の話」で登場いただいた。
著書として『投資家が「お金」よりも大切にしていること』、
『ヤンキーの虎』など多数。
最新の著作に『投資レジェンドが教えるヤバい会社』がある。