理解力と人格。いま「一緒にはたらきたい人」とは?

ほぼ日と関係の深いおふたりが、
「人を採用するときに大切なこと」について
たまたま同時期に、別々の場所で話されました。
ひとりは、人材紹介会社、
KIZUNAパートナーズの河野晴樹さん。
もうひとりが、レオス・キャピタルワークスで
ファンドマネージャーとして働く藤野英人さん。
河野さんは「理解力」をはたらく人の
もっとも重要なポイントとして挙げ、
藤野さんははたらく人の機能ではなくて
「人格」こそが大切だと言いました。
人材紹介と投資運用という
異なるお仕事をされているおふたりですが、
大切にしていることはなんだか似ているようです。
糸井重里と3人で「はたらくこと」について
たっぷりと語りました。
全7回にわたっておとどけします。

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とじる

第6回損得よりも、好き嫌い。

糸井
お二人の話に共通して言えるのは、
言語化しにくい価値に
重点を置いていることですよね。
藤野
まさにその通りです。
河野
ああ、そうですね。
数値化できるものではないですね。
糸井
2人の話を聞いて思い出したんですが、
ほぼ日が上場するときに
ロードショーという機会があったんです。
藤野
投資家のところに訪れて、
会社の説明をする会ですね。
糸井
その会で株価、つまり会社の価値が決まるので
僕も割と長い時間かけて、
いろんな方に説明をしました。
その中で「伝えたいけどあまり聞いてもらえないな」
という話がありまして。
河野
へえ、どんな話ですか?
糸井
企業理念である
「やさしく・つよく・おもしろく」の説明は
全然聞いちゃもらえないんですよ。
藤野
ああ、そうでしたか。
糸井
かなしいんですよ。
藤野
かなしいですね。
河野
聞いてほしいですよね。
糸井
僕が一番たのしく語りたかったのは、
「僕らが大切にしてきたことはなにか。」
だったんです。
河野
「やさしく・つよく・おもしろく」の部分ですね。
糸井
でもみなさんが一番聞きたいことは、
「文房具の手帳の売上が70%を占めています。
今後ここの事業をこうしていきます。」という、
ある程度未来が予測できる話。
藤野
数値化できる話ですね。
糸井
そうです。
回数を重ねるごとに
「やさしく・つよく・おもしろく」は
あまり聞いてもらえないとわかったので、
かなしかったですが、
簡単に説明するだけになっていきました。

そうしたら、あるロードショーで投資家の方が
「すいません。この企業理念は、
いつ頃お考えになったんですか?」
と質問をしてくださったんです。
河野、藤野
おおー。
糸井
いいでしょ?
僕はとてもうれしくなって。
「ずっと考えていたんですけども、
その言葉に閉じ込められてしまいそうで
なかなか作れなくて‥‥」という
企業理念に込めた思いを、
しっかりと話したんです。

そうしたらその投資家の方が、
「私はこの話が聞きたかったんです」と
おっしゃったんですよ。
河野
すばらしい方ですね。
糸井
その方がつづけて、
「本気でつくられている企業理念は、
そこに込めた思いを聞きたいんです。
その話を通して、どんな考えを持っている方が
経営している会社かわかるほうが、
私たちにとって大切なことなんです。
お話しいただいてありがとうございます。」と
感謝の旨までおっしゃってくださって。
僕はそこで、
ちょっと涙ぐんでしまって。
河野
おおー、すごい。
藤野
すごい。
糸井
「この先のロードショーでも、
企業理念の部分は一番きちんと語ったほうが
私はいいと思います」
とまで言ってくれたんです。
藤野
その投資家の方はすばらしい。強敵ですね。
あとで会社の名前を教えてください(笑)
糸井
ね? いいですよね?
お二人が大切にされている価値と
近い気がします。
河野
そうですね、共感します。
藤野
私も上場される会社の方には、
「企業理念を話したときに反応した投資家を、
大切にしてください。」と
アドバイスするんですよ。
糸井
へえ~! それはどうしてですか?
藤野
なぜなら、企業理念こそが
会社の付加価値のもとであって、
その会社の未来を投影するものだからです。

企業理念が大事だとわかっている投資家たちは
未来をよめる能力が高いので、
実は実質的なお金の8割をにぎっています。
糸井
なるほど。
数値化できるものはわかりやすいですが、
言語化しにくい価値のほうが大事。
河野
稼ぐことが目的になると、
すぐに損した、得したという
話になりがちですけど‥‥
藤野
「損得」よりも「好き嫌い」が大事。
そういうことですね。
糸井
そうだ、そうですね。
河野
好き嫌いですね。
藤野
好き嫌いの話、これもすごく重要なので
もう少し話してもいいですか?
糸井
ぜひ、お願いします。
藤野
実は、仕事での意思決定のほとんどは
好き嫌いで決めています。
糸井
以前、ほぼ日に出てくださったとき
おっしゃっていましたよね。
藤野
学校では「好き嫌いで選んではいけません」と
教育を受けますが、そうすると気づかぬうちに
物事を損得で選ぶことが多くなるんです。
でも損得よりも好き嫌いのほうが、
評価の軸が広くて、本当のことがわかる。
糸井
藤野さんの会社の採用では、
その人の前に勤められていた会社に電話して
「○○さん、好き?」と聞くんですよね。
藤野
そうです、その質問しかしません。
そうするとだいたい3つの答えで返ってきます。
「好き」、これはいいですね。
「仕事はできるよ」、きっと嫌なやつです。
「いい人だ」、仕事はできないということです。
糸井
ストレートに「好き」というのは
なかなか難しいんですね。
藤野
そうなんです。
「好き」と答えた場合は、
仕事ができるし、
人格もいい可能性が高いです。
糸井
河野さんの職種でも
同じことはいえますか?
河野
言えると思いますね。
糸井
うーん‥‥
僕の場合は「好き嫌い」だけで
ハッキリされるとさびしいものがあるかも。
河野
さびしい、ですか?
糸井
好き嫌いの中間がほしくて、
それは「おもしろい」かなと。
藤野
なるほど、
「おもしろい」なら真ん中が埋まりますね。
河野
ポジティブな表現ですし、いいですね。

(つづきます)

2017-06-04-SUN

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プロフィール

河野晴樹

1962年生まれ。
慶應義塾大学卒業後、株式会社リクルートに入社。
若手からエグゼクティブまで幅広く
人材紹介事業の運営を推進してきた。
一方新卒学生の採用面接をはじめ、
数多くの人事をこなしてきた「人材オタク」。
2005年、人材紹介事業をおこなう
KIZUNAパートナーズ株式会社の
代表取締役社長に就任。
主としてエグゼクティブの人材紹介を手がけている。
ほぼ日の就職論特集の際に、
「面接試験の本当の対策」に登場いただいた。

藤野英人

1966年富山県生まれ。
早稲田大学卒業後、国内外の資産運用会社で
日本株のファンドマネージャーとして活躍。
2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。
代表取締役社長・最高運用責任者(CIO)として、
成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、
高い成績を上げ続けている。
明治大学商学部の講師も長年務めている。
現在、日経電子版の「NIKKEI STYLE」にて
コラムを連載中。
ほぼ日には「どうして投資をするんだろう?」
「恋と投資の話」で登場いただいた。
著書として『投資家が「お金」よりも大切にしていること』、
『ヤンキーの虎』など多数。
最新の著作に『投資レジェンドが教えるヤバい会社』がある。