大野 |
わたしにとって糸井さんは、
「かっこいい大人」です。
わたし的かっこよさの基準は何かというと
「必死さ」です。
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糸井 |
はい、それはもう
いつも必死ですよ(笑)。
そう言われてうれしいくらい。
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大野 |
わたしもそうなんですが、
慣れてないことは、とりあえず
うまくいくはずないんですね。
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糸井 |
うん、そうだね。
いいなぁ、その考え方。
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大野 |
はじめにうまくいかないのは当然で、
うまくいかないことを
恥をさらしてでも必死でやる。
必死でやっていることが
おもしろくないわけがないし、
かっこよくないわけがない。
だから、わたしが勝手に
一方的に好きな人はみんな「必死な人」です。
それに対して、
「しらけ」のような感覚って、ありますよね。
「クールに、マジにならないことがカッコいい」
というような。
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糸井 |
うん。それは昔からちょっとずつあるね。
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大野 |
わたしは1984年生まれなのですが、
生まれたときにはみんな
しらけていたかもしれない‥‥。
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糸井 |
生まれたときには(笑)?
福島でもそうだった?
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大野 |
はい。「マジな話はよそうよ」みたいな。
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糸井 |
そうなんだ。
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大野 |
わたしは、どうして「マジな話」を
しちゃいけないんだろう?
と思っていました。
高校で、ひとりで校則を破って、先生に
「なぜ白い靴下じゃないとダメなんですか。
どうして黒い靴下だといけないんでしょうか」
とマジに言ったりしてました。
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糸井 |
ぼくにもそういう時期がありました。
自分では、それは
エネルギーのあまりだったんだな、と思います。
あまったエネルギーというのは
ものすごく使い道があるんです。
性欲かもしれないし、
自分の小ささへの怒りかもしれないし、
熱病だという言い方もあるでしょう。
そういうものは、文学にいけば文学で、
絵なら絵であらわすこともできるかもしれない。
そういう、マジでtoo muchなものを
水路見つけて噴き出させることがあります。
ぼくは学生運動の時代だったから、
流行に飛びついて、そうなりました。
でも、動機として、ぼくのなかに
何もなかったかというとそうではありません。
昔から、ぼくは
人を不自由にするやつが嫌いなんですよ。
大野さんの本やお話の中にも
正義の人かもしれないしいい人かもしれないけど、
大野さんを不自由にする人というのが出てくる。
大野さんは遠慮がちに書いてると思いますが、
具体的に拒んだのは、その部分なんです。
「あとあと、あなたのためになった」
とか言われても、
いまそこにいる人として、ほんとうにつらいのは、
不自由にされること。 |
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大野 |
はい。
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糸井 |
このことは言っちゃいけないのかな、と
ときどき思います。
でも、これを言わないと、結局
その「正義のいい人」が叫んでいるような
「いい社会」は来ないと思う。
‥‥うまく言えてないんですけどね。
あるものはみんな出して、みんなが納得できる、
ということになるといいのになぁ。
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大野 |
はい。そうするには、
すごくあたりまえのことを、
ずっと言っていかなきゃいけないんだろうなぁ、
とわたしは思っています。
わたしたちはたまに
「やり直し世代だよね」ということを言われます。
この20〜30年のうちに忘れてしまった感覚を、
ていねいにやり直すしかない。
「うまくいかない」というのが、いま
ひとつの大きなキーワードなのかなと
思っています。
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糸井 |
ああ、それこそ「困ってるひと」だね。
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大野 |
そうです、みんな困ってるわけですよね。
社会が動き、数多の不条理が発生しているときに、
価値概念をまず最初に導入してくることは
いちばんまずいなぁと思っています。
そのとき起きたことや発言に対して、
「正義か悪か」「良いか悪いか」
みたいな話に終始する。
それでみんな論争し、紛争するわけです。
具体的にどう対処するか、の手前で
思考が止まってしまう。
唐突ですけど、わたしは、「男はつらいよ」の
寅さんがほんとうに好きなんです。
寅さんの「場の力」ってすごい。
殿様でも、芸者さんでも、外国人でも、
すごく偉い学者さんでも、
寅さんのダメさと、
寅さんの自然体のおもしろさを前にしちゃうと、
みんなぽろっと、素になっちゃうわけですよね。
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糸井 |
寅さんのしたじきになっているものは、
落語ですよね。
落語って、江戸時代から
そろってたような気分がしますけど、
実は流行ったのは明治大正らしいんですよ。
江戸、明治、大正と、
維新をまたいで作られてきた世界です。
それが寅さんとか「釣りバカ日誌」まで
ふわっとしたひとつの山を描いている。
あの文化のおもしろさというのは、やっぱり
人間理解に尽きると思います。
偉い人であろうがただの風来坊だろうが、
人は人。
それはやっぱりすごい発明だと思います。
「もし法律がないとしたら、
法律に替わるものはなんだと思いますか?」
と言われれば、ひとつは落語だと
ぼくは思っています。ドラマ、でもいいんだけど。
つまり、「北の国から」にも
そういうものは入ってる。
テレビ見てる人は、
人からけしからんと言われる話でも
たいやき食いながら「わかる!」って
言うんですよ。
「北の国から」に出てくる人たちや、寅さん、
落語の人たちの決済のしかたは、
そこまでの歴史のせいで生まれた
よくできた作り物なんですけれども、
そこにほんとうの憲法は混じってると思います。
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大野 |
そうですね、庶民の本音の部分。
あの「なし崩し」の解決の作法には、憧れます。
(つづきます) |