田中泰延+古賀史健+燃え殻+永田泰大+糸井重里「書くについての公開雑談。」
第5回
見知らぬ田中さんに送った原稿。
糸井
本を読むということに関して、
古賀さんは、どういうタイプでしたか。
古賀
はい、僕がライターになったきっかけは
ちっちゃな出版社に入ったんですが、
あるときに、社長と喧嘩しちゃって‥‥。
糸井
それは、殴り合いの。
古賀
いえ、ただの罵り合いなんですが(笑)、
10ヶ月くらいで
その出版社を辞めちゃったんです。

で、フリーになったんですが、
当然まったく仕事をもらえませんでした。
糸井
はい。
古賀
で、その「仕事がなかった2年」くらいに、
他にやることもないんで、
ひたすら本を読んでいた時期がありました。

24歳か25歳くらいでしたけど、
子どものころに
読書が好きな子だったわけでもないので、
30歳以降は、
あのときの貯金で食ってるという自覚が、
かなりあります。
糸井
30歳以降で大量の本を読むっていうのは、
かなり、むずかしいですよね。

それは、きっと、田中さんですら‥‥。
田中
無理ですね。
糸井
やっぱり、30まで?
田中
くらいだと思います。せいぜい。
糸井
でも、その「貯金」の部分、
いわゆる知識とか教養という貯金の部分が、
実はあんまり武器にならない、
たいして役に立たないってわかってからが、
おもしろくなるんですよね。

自分の頭で、考えなきゃならなくなるから。
田中
そうかもしれない。ジタバタして。
糸井
どうですか、燃え殻さん。
燃え殻
僕は、田中さんみたいな人が、
うらやましくてしょうがない人生なんです。

だって「初版が多い」んです、田中さんは。
糸井
初版(笑)。
田中
それは何? 何の初版? 人間の初版?
燃え殻
よくわからないけど、
とにかく、田中さんの初版は多い気がする。

ようするに、田中さんを認知してる人って、
たくさんいるじゃないですか。
田中さんを好きだとか嫌いだとかより前に、
「田中さん」は、
もう、その人たちのあいだに、存在してる。
糸井
ゲームの場をつくれちゃう人ですね。
燃え殻
そういうのが、もう、ヤラシイなぁと思って。
会場
(笑)
永田
でも、燃え殻さんの小説の原稿って、
田中さんに、最初にお見せしたという話を
聞いてるんですが、
なんでそんな、明らかに自分とちがう人に。
燃え殻
えぇと‥‥自分が書いたものに対して、
「一般的に、これはアリだよ」
「一般的に、これはナシだよ」
というジャッジを下してくれる人って、
誰だろうと、考えたんです。
糸井
はぁ。
燃え殻
そう考えたときに、
僕には、田中さんしかいなかったです。
糸井
はぁー‥‥。
田中
燃え殻さんからのメッセージには
「僕は、あなたのことは好きではないが、
 これを送ります」
と、ハッキリ書いてありました。
会場
(笑)
燃え殻
書いてない、書いてない(笑)。
糸井
どっちなの?(笑)
田中
すみません、書いてなかったです(笑)。
古賀
だって、まだ会ってない段階ですよね?
おふたり。
燃え殻
はい。
永田
へぇ。
田中
きっと、燃え殻さんは、
ご自分の小説‥‥あれは、はっきり小説と言って
いいと思うんですけれども、
その作品を、田中という
エセ知識だけは豊富にありそうな奴に読ませたら
「これは、誰かの何かの作品に似てる」
とか
「これはよくある設定だからダメです」
という部分が
チェックできるって思ったんでしょう。
糸井
田中さんは、どんな返事をしたの?
田中
僕も、それなりに小説は好きなんですが、
「僕が知ってる範囲で、
 やっぱり見たことない小説です」って。
糸井
ほー‥‥。
燃え殻
当時、田中さんとは面識なかったんですが、
ツイッターのフォロワーでした。

で、いろんなものを書く田中さんって人を、
「世の中の物差し」くらいに思っていて。
糸井
好きじゃないけど(笑)。
燃え殻
そう(笑)、で、その見知らぬ田中さんに、
「すいませんが」って、送ったんです。

最後まで書き終えたものを、
「田中さん、読んでいただけませんか」と。
糸井
へぇー‥‥。
燃え殻
そうしたら、世間の物差しの田中さんが、
「おもしろいかも」って、言ってくれたんです。
糸井
うん。
燃え殻
でも、いま思えば、
もしかしたらウソかもしれないじゃないですか。

だって、田中さんみたいな人だから‥‥。
田中
信用あるんかないんか、どっちやねん!
燃え殻
ああ、どっちなんでしょうね。
でも、すごく安心したのを覚えてます。
糸井
「ウソでもいいから」(笑)。
燃え殻
「ウソでもいいから、安心がほしいの」
という。
糸井
水商売の女の人の切ない歌みたいだね。
燃え殻
だから、あの作品は、
田中さんのおかげで発表できたんです。

‥‥で、何の話でしたっけ?
糸井
よくわからないけど、OKです。
田中
OKです。
<つづきます>
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