あーちん、糸井重里と釣りに行く。 ~釣りの話をきいてみよう編~

糸井 ぼくは、長いこと釣りがしたいなぁと思ってたんだけど、
なかなかはじめなかったんだ。
それは、ひまになったらするものだと決めていたから。

あーちん ひまになったらする?

糸井 仕事がいそがしいときは釣りはできない、
歳をとったら趣味を釣りにしよう、と思ってたんだ。
だけど、あるとき
「おれ、もう歳とってるじゃん」って
きがついたの(笑)。

あーちん ふふふ(笑)。

糸井 それから「釣りやるよ」と決めて、
釣り道具屋さんに行ったり、
釣りのことを教わるようになった。
だから、思い立ったときは、
もうやっていいときなんだと思う。
麻布十番のあたりに釣り堀があるの知ってる?

あーちん うーん、わかんない。

糸井 住宅街の真ん中に突然釣り堀があるんだよ。
そこでは、ヘラブナが釣れる。

あーちん フ、フナ?

糸井 ヘラブナというのはね、
50cmとか60cmくらいの魚。
(手で大きさを表す)
こんなでかいのね。

あーちん でかい(笑)。

糸井 そこでの釣りはね、ウキを見てる釣りなの。
ウキがどういうふうに動いたかというので
釣り上げるタイミングを見計らう。
それは、魚がそこにいるというのが
わかっている釣り方なんだ。

あーちん 釣り堀には、ぜったい魚がいるから。

糸井 そうそう。
でもね、釣りのおもしろさは、
水の中が見えないところにあるんだよ。

あーちん うーん?

糸井 見えないから、魚がいるかどうかもわからない。
このへんにいるんじゃないかとあたりをつけて、
竿にエサをつけてからポンと投げて
水の中でエサがこう動いているんだというのを
イメージしながら
竿を動かしたり、糸を巻いたりする。
そして、そのエサに
チョンってさわってくるヤツがいたら、
「えっ?」と思うんだよ。
「魚、いたの?」って。

あーちん 魚がいるかいないかわかんないから、
いるってわかったら、
それを釣りたくなる。

糸井 そう。
そこに魚がいるのかいないのか。
これが、釣りの基本です。
いないところで釣りをしている人も
1000人中850人くらいいるからね。

あーちん えぇ!?
そんなにいるの?

糸井 うん。いや、もっとかもしれない。
なんでそんなにもいるかというと、
魚がいなくてたって釣りはできるからなんだよ。
水の中は見えないから、
人がやってさえいれば釣りは成り立つ。

ぼくが釣りをはじめてすぐのとき、
「フッコ」を釣りに、東京湾に行ってたんだ。
フッコというのは40〜60cmくらいの魚で、
それより大きくなったらスズキと呼ばれる出世魚。
ぼくは一生懸命、針を投げてたんだけど、
今考えるとたぶん魚がいない所に向かって投げてたし、
竿の動かし方も魚がきづかないようなことをしてた。
だけど、初心者のぼくは、
ちょっと藻にからんだりしただけでも、
「ハッ!」ってなるんだよ。
そうするとね、
そこには、ぼくからしたら魚がいるんだね。
実際には藻だったとしても、見えてないから。

あーちん うんうん。

糸井 「別の日に、ルアーっていう、
うそもののエサをつかう釣りに行ったとき。
ルアーをとおくまで投げて
糸を巻くのをくり返しながら
「また今回もだめかな」みたいに思ってたんだ。
でも、そのとき、いたの。

あーちん いた?

糸井 そう。いたの、魚が。
今回もだめだろうと思ってルアーを上げたら、
ルアーのそばから、ヒューンって
向こうほうへ逃げていく魚のかげが見えたんだよ。
ぼくの投げたルアーをエサだと思って、
魚が近くまで追っかけてきてたんだ。
それまで、ルアーで魚が釣れるのかどうか
半信半疑でやってたんだけど、
そのとき「ほんとうに魚を釣れるんだ」と思った。
それを味わうと、
ドキドキしてやる気になるんだよね。
次に行くときは、
「あいつがいる」と思ってやるから。

見えない世界の中でも、
こういうところに魚はいるとかいないとか、
「あの辺でプンッて音がしたぞ」とか、
そういう手がかりをちょっとずつ増やしていくとね、
いつか、魚と会えるかもしれない。

あーちん 魚に会えるんだ!

糸井 「釣れないのに、なんで行くの?」と
よくいわれるんだけど、
水の中は見えないから、
手がかりだけでも釣りはできちゃう。
それがおもしろいんだよ。
だから、勝手にこっちで想像して
すっごい釣れる気になってるけど、
釣れない日だってあるわけだ。

あーちん うん。

糸井 あーちんはシュノーケルをつかって
海にもぐったことある?

あーちん うん、一回、石垣島でやったことある。

糸井 魚、いた?

あーちん うん、ひざまでの浅いところで、もういた。

糸井 それはすてきな海だね。
江ノ島とか大きな海水浴場で、
みんながワーッて
ビーチでおよいでるところでは、
どんなにがんばっても
たぶん魚は釣れないと思う。
魚がいないと思うから。
じゃあ、どういうところに魚がいるのかというと、
これは、生きものの習性を勉強していくと
わかってくるんだよ。
たとえば、人が道を歩くときに、
わざわざ真ん中を歩いてる人は
ひとりもいないでしょ?

あーちん あー、そうかも。

糸井 広場でも、真ん中にいる人は、
なにか理由がある人なんだよ。
友達と遊んでるとか、人を待ってるとか。
だいたいの人は、なにかのそばにいる。
それは魚もおなじで、
基本的に生きものというのは、
なにもないところにはいないんだよ。

あーちん へぇー。

糸井 だから、魚がいる湖の絵を描くときに、
釣りをしてない人は
なんにもないところに魚を描くんだけど、
釣りをして魚の習性をよくわかっている人は、
だんだん、なにかのそばに描くようになるの。
たとえば世界地図に魚の絵を描くとしたら、
だだっぴろい海の真ん中には魚は描かずに、
島の周りに描くんだ。

なんでもないところにいるのは
回遊魚といって、渡り鳥みたいに
海の中を移動してる魚だろうね。

あーちん 移動する魚って、ウナギとかの?

糸井 そうそう、
ウナギも別の場所に移動する魚だね。
魚はエサを食べたり
自分がエサにならないように、
いつも動いているんだ。
でも、魚にも巣のようにあつまる場所があってね、
そういう場所は必ずといっていいほど、
岩とか堤防とか、サッと身を隠せる場所なんだよ。

よく見ていれば、
人もそういう行動をしているんだ。
たとえば、いきなりバーッと雨が降ったら
みんな建物の中に入ったりして
道からサッといなくなるでしょ?
魚もいっしょで、
なにかあったら、そういう場所に隠れる。
生きものには、そういう性質があるんだね。

そうやって、魚のいるところを
1か所ずつ探すようになるというのも、
釣りなんだよ。
よく、岸から湖とか海とかに向かって、
エサを投げるでしょ?
でも、じつは岸に沿ったところに魚はいるんだよ。
だから、岸から釣るときには
横に投げるという釣り方があるんだ。

あーちん 横に投げるの?
むずかしそう‥‥。

糸井 でも、岸沿いに魚がいることをしらなければ、
いつまで経っても
岸から沖に向かって垂直に投げるわけ。

あーちん うん。
あーちんもそうしちゃうと思う。

糸井 その逆のこともあって、
ボートに乗って釣りをしてると、
ボートのそばに岩とかあっても
岸に向かって投げてるの。
ボートで釣りをしている人からして見ると、
岸沿いは魚がいるようないい場所に見えるんだね。
でも、岸にいる人から見ると、
なんもないところが
いい釣り場に見えたりするんだ。

今までの話をまとめるとね、
釣りというのは、
水中が見えないときの想像力と
魚がどこにいるかの知識のかけ算でできる。

あーちん 想像力と知識のかけ算‥‥。

糸井 それが釣りなんだよ。

(つづきます)

2014−08−12−TUE

  • まえへ
  • 最新のページへ
  • つぎへ