あーちん、糸井重里と釣りに行く。 ~釣りの話をきいてみよう編~

糸井 あーちんがやってみたい釣りが
どういうものなのかわからないんだけど、
たとえば海に行って、
船に乗せてもらってする釣りは、
船頭さんが釣れる場所を探してくれるんだ。

「ここの海の下にはこういう岩礁があって、
 このあたりに魚があつまってる」
船頭さんはそういうポイントをよく知ってて、
そこにぼくらを連れて行ってくれる。
だから、海で船に乗る釣りは、
半分は船頭さんが釣ってるともいえるんだよ。

あーちん 釣れる場所を知ってるから‥‥。

糸井 釣れる場所を探すということも
「釣り」だからね。
自分ひとりで釣りに行くときは、
ボートに乗ろうが、岸から釣ろうが、
魚がどこにいるかを考えるところからはじめるでしょ?
そこが、全然ちがう。
ただし、船頭さんに連れて行ってもらった場合は、
魚がいるポイントで釣ってるわけだから、
うちに持って帰れる可能性が高くなる。
だから、海釣りって漁に近い釣りなの。

あーちん そっか。
食べたい釣りは漁になるんだ。

糸井 遊びで釣りたい場合は、
自分の考えたことが合ってたかどうかが
知りたい釣り、だね。

あーちん 魚がどこにいるか考えて、
釣れたら考えが合ってたってことになる。

糸井 うん。あとね、
どういう釣り方をするのか、
どういう深さにいるのか、
どんなさそい方をするのか。
そういうことをぜんぶ考えるの。
その考えが合ってる人と合ってない人では、
ぜんぜん釣れ方がちがうんだよ。
だから、自分が釣れなかったときに
釣れてる人のことを見ると、すっごくくやしい。
ぼくにはわからなかったことを
その人は知ってたわけだから。
そうして、
あのときはああだった、こうだったと
みんなが反省をしていくと、
どんどん釣りについて知ってる人が増えるよね。
でも、そのなかでも、
また釣れる釣れないがあるんだよ。

あーちん へぇー。
なんでだろう?

糸井 それは、そのときのいろんな条件を
読めるか読めないかがカギになってくるんだ。
魚の気持ちになるとか、
風向きがどうだとか、温度がどうだとか、
魚のいる環境のことを知れば知るほど、
直感的なことがだいじになってくる。

釣りの大会なんかでは、みんな、
だいたいおなじことを思ってるんだよ。
釣る方法もほぼおなじ。
だけど、その大会に200人くらい参加したとして、
釣り場所もやり方もぜんぶおなじだったら、
一番、二番なんか決まらないじゃない?
でも、実際には一番になる人がいる。
それは、みんながなにを考えているか想像して、
自分の考えをみんなとおなじにしなかった人なの。
そこが、おもしろいんだよ。

あーちん 一番をとる人って、
哲学的な人なのかな?

糸井 哲学、うーん‥‥。
哲学なのかなぁ。
ぼくは、釣りは商売とおなじだと思ってる。

あーちん ものを売るのと、釣りがいっしょなの?

糸井 たとえば、あーちんがカステラを
食べたいと思ったとしよう。
どのお店もおんなじようなカステラを作ってたら
どれを買っていいかわかんないから、
安いのを買ったりするよね。

あーちん うん。
近いところのを買ったりね。

糸井 でも、そのなかで、
クリームをはさんだカステラを
売り出したお店があったら‥‥。

あーちん おいしそうー!

糸井 そこのお店のカステラを
食べたいと思うよね。
釣りでも商売でも、
食べたいとか欲しいとか
思ってもらうための工夫をする。
人と魚という、ちがいがあるだけで、
相手にするのは、
けっきょく生きものなんだよ。

あーちんは商売したことある?

あーちん ない(笑)。

糸井 ないね(笑)。
でも、お母さんはしてるでしょ。

あーちん うん、クッキー焼いてる。
(編集注: あーちんのお母さんはクッキー屋さんです)

糸井 ぼくらが魚を釣るために
ルアーを工夫するみたいに、
あーちんのお母さんも、
お客さんが来てくれるように
いつもなにか考えてるんだよ。

あーちん そうなんだ。

糸井 たとえば、
アメリカの大きなトーナメントとかだと、
自家用の飛行機を持ってる人が
大会が開催される湖の周りを回って調査するんだ。

あーちん 調査?

糸井 どこから水が入ってきて、
どういう岩礁があって、
というふうに、
その土地の地形を空から調べるの。
事前に魚がいるポイントを調べることを
「プラクティス」というんだよ。
プラクティスをしておいて、
魚が釣れる条件を自分なりに検討してから
大会の日をむかえるというわけ。

あーちん すごーい。

糸井 だから、
大会の賞金でかせいだお金で
飛行機を買ったりするんだよ。

あーちん えっ? 飛行機を?

糸井 そうなんだよ。すごいよね。
あと、哲学的という意味では、
ほとんどはだかの状態で、
釣りの大会が行われる場所のそばで
暮らすという人がいるよ。

あーちん どうしてはだかになるの?

糸井 そうすると、温度の変化とか、
太陽がどう出てくるだとか、
鳥や虫の動きを感じるだとか、
自然を体で感じることができるからじゃないかな。
その人はね、
手を広げた状態で気配を消せば、
木とまちがえられて
鳥がうでにとまることもあるんだよ。
「ネイチャリング」というんだけど。

あーちん わぁ! 鳥がとまるの?

糸井 ちょっとやってみたいでしょ?

あーちん うん、やってみたい。

糸井 そういうことをする人もいれば、
飛行機やボートで地形を調べる人もいるし、
両方組み合わせる人もいる。
とにかくいろんな人が大会に向けて
準備をしてきて、それぞれの方法で釣りをする。
でも、たとえば嵐が来ちゃったら、
海や湖の様子が変わるじゃない?
そういうハプニングもふくめて、
みんなで競い合うんだよね。
だから、大会のチャンピオンは尊敬されたり、
賞金をいっぱいもらったりするわけだ。

‥‥という、釣りもあれば。

あーちん あれば。

糸井 いっぱいとるために、
魚の群れを見つけて、
あみで一網打尽にする、という釣りもある。
それは釣りというか、漁だけど。

あーちん 漁。

糸井 漁もすごいんだよ。
マグロの延縄漁なんていうのは、
何十キロという長さの縄に針をつけたものを
5時間くらい船でずーっと走りっぱなしにして
海に落としていくの。

あーちん 5時間も針をひっぱる‥‥。
すごいねー。

糸井 そこにマグロがかかったら、
ひき上げるのに、また12時間とかかかる。

あーちん ひゃあー。

糸井 マグロ船に乗った人たちに
「男同士だと、
 海の上でけんかしないんですか?」ときいたら、
「けんかなんかしてられないんですよ。
 忙しいから」だって。
そのくらい、漁は漁でたいへんなんだ。
生活がかかってるからね。

(つづきます)

2014-08-13-WED

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