七十二候【第五十候 菊花開 きくの はな ひらく】

各地で菊の品評会や菊まつりが開かれる頃です。
旧暦九月九日は重陽(ちょうよう)の節句。
別名「菊の節句」といい、中国ではこの日、
菊の花を浸した菊花酒で不老長寿を祝う習慣がありました。
それが平安時代に日本へ伝わり、
宮中では高貴な人々が菊花酒を飲みながら
歌を詠み花を競う「菊合わせ」を楽しみました。
菊の花に真綿をかぶせて夜露と香りを移しとる
「被綿」(きせわた)という風雅な習わしも知られています。
── 「麋」(さわしか)っていうのは
ナウシカじゃないですよね。
あずま女 これ、日本にいない鹿なんですよ。
── ヘラジカ?
ああ、ムースやエルクのことですか!


あずま女 はい、さようでございます。
日本にいないものが
日本の七十二候に入ってるのか
不思議ですよね(笑)。
中国の七十二候を
そのままもってきたものではないかと。
想像力のなせる技というか。
京おとこ うん。異国情緒的なものでしょうね。
17世紀オランダの絵画に
なぜか孔雀がいる、みたいな
そういうノリでしょうね。
── 円山応挙の絵にだって
虎がいますからね。
実物は見たことがなかったはずと
言われているんです。
京おとこ そうですね。
あずま女 その通り!
── そんな舶来な気分を込めた
この季節。
いよいよ。
あずま女 「鮟鱇」(あんこう)です!


京おとこ 「あん肝」も大人の食べ物ですよね。
あずま女 ですよねえ。
── あぶらをうまいと言って食うのは
大人のたのしみですよね。
フォアグラしかり。
鮟鱇しかり。
鮟鱇鍋ってどこが有名ですか?
京おとこ 「いせ源」。
あずま女 神田の。
京おとこ ちょっと雑に扱われる感じが
なんとも江戸っぽいお店です。
あずま女 観光地のようなことですものね。
── たいへん混雑しているのをさばくので、
いたしかたない部分もあるのかと思いつつ。
下町の名店ってその気配がちょっと。
京おとこ ありますよね。
テキパキとした
客あしらいというかね。
あずま女 それもまた情緒と思っていただけると。
京おとこ 「江知勝」のすき焼き。
── 「駒形どぜう」。
京おとこ それも含めて楽しみなんでしょうね。
あずま女 ゆっくりさせてよ、っていうのが
通じないっていう(笑)。
── 吉原の桜鍋なんかも
わりとチャッチャと食べますものね。
ま、もともとそういうもんですよね。
さ、食べたぞ、遊びに行くぞ、
みたいな。
あずま女 そうですよねえ。
京おとこ 鮟鱇は「吊るし切り」。
あずま女 吊るし切り。
できる人いるかしら。
── さすがに修業をしないと!
独学じゃむりな調理ですよね。
大物の解体って、やってみたいですけれど。
あずま女 鮟鱇って東西差ないんでしょうか?
京おとこ うーん、あんまり関西では
食べなかったかな。
あずま女 ということは関東っぽい食べ物。
京おとこ まさしく江戸っぽいじゃないですか。
あずま女 荒々しい感じがしますからね。
── 鮟鱇引いてみません?
「飲食事典」で。
どれどれ‥‥。
「アンコウ科の海産(?)硬骨魚。
 頭が甚だ大きく目も大きいが
 尾は急に細くなって釣り合いがとれず
 大きさは130~170センチ」!!
あずま女 でかっ!
── 「料理は冬から早春を旬とし
 肉も皮も臓物も悉く食べられるので。
 頗る経済的といわれている」
‥‥ああ、それも江戸っぽいですね。
京おとこ 全体食ですね。
── 「鮟鱇鍋、鮟鱇汁」。
あずま女 鮟鱇ってコラーゲンで
ぶるぶるして。
── そうですね。
滋養料理として
喜ばれるということです。
冬の旬はわりとそういうのが多いですね。
動物も魚もあぶらを溜め込んで、
それをいただくので、
調味料はポン酢が多いですよね。
あっさりいただく。
柑橘がちょうどなりますし。
あずま女 そうだ、そうだ。
── 具合がいいんでしょうね。
こってりした魚、肉を
あっさりと食べるんでしょうね。
あずま女 よくできてます。
さて、「黒豆」が見えます。
── お正月ですね。
あずま女 「たんたん丹波」?
やっぱり。
京おとこ 黒豆! はい。丹波です。
── 丹波の黒豆、本当に大きいですよね。
糸井重里が‥‥。
京おとこ 好きですよね、黒豆!
── そうなんです。
煮るものとして
ジャムのほかには黒豆という。
あずま女 コトコト系で。
京おとこ 煮物師ですね。
── 土井勝さんのレシピで、ということを
よく言っております。
京おとこ あの人も関西ですもんね。
── 確か、土井さんのは
鉄のさび釘を入れるという
レシピだったと思います。
あずま女 うちも鉄釘です。
京おとこ ツヤが出るからですね。
見た目大事ですもんね、黒豆って。
あずま女 シワがないのがいいってね。
こればっかりはね、
関東もんも、丹波のを買います。
京おとこ あはははは。
あずま女 必ず買います。
そしてさらなる旬。
「海老芋」がございますね。
京おとこ あ、これ京都です!
京都の「芋棒」。
京都の四条の円山公園のところに
芋棒専門店があるんですよ。
「平野家」というんですけれど。
── へええーー!
どんな料理なんですか。
煮炊きするんですか。
京おとこ まさに海老芋と棒鱈だけの料理。
煮てあるんです。
あずま女 「炊いたん」ですね、まさに。
京おとこ そうそう。
── うまそう!
干し鱈うまいですからね。
京おとこ これはね、京都ならではですね。
あずま女 海老芋ばかりはもう、
京都のものという感じですね。
食べたことなかったもん。
京おとこ これはね、ぜひ、
円山公園に行って
ご賞味いただきたいです。
あずま女 次行った時には。
── そんな京おとこさんに
がっかりする情報を
言ってもいいですか。
京おとこ はい‥‥。
── 今や、海老芋の約95パーセントが
静岡産でございます。
京おとこ ああ! 静岡!!(笑)
あずま女 やられた~~。
── ジュビロのお膝元
磐田市というところで(笑)。
あずま女 おやあ~~~。
── だからじつは京都だけでなく
静岡の人間にも
馴染みがあったんですよ。
里芋の一種として。
あずま女 へえー。意外!
ほんと、大人になって
海老芋初めて食べたら、
あの自分が食べてた山芋は何だったんだ、
里芋は何だったんだって。
甘みが違いますもの!
京おとこ 甘みと、ねっとり感がね。
── 里芋系のおいしさって、
とんでもないですよね!
あずま女 とんでもないっす。
京おとこ あのネチネチした味が
京都っぽいんだと思いますけどね(笑)。
あずま女 粘りですよね、粘り。
── 粘りますなあ~。
あずま女 鱈も保存食ですよね。
── この間、鱈で「ブランダード」を
作ったんですけど。
あずま女 じゃがいもと干し鱈のペーストの。
── はい。
鱈ってもともと北欧のほうで捕れるんですよ、
寒いところで。
で、来る時に干して持ってくる。
ぼくの作ったのは
フランスのレシピだったんですけど、
その地方は
魚が通貨の代わりだったらしくて
山ほど余る干し鱈をどうしよう、って
編み出されたのがブランダードだと。
干し鱈の流通ってすごくて、
ジャマイカの方でも
干し鱈の料理をすごく作るんですよ。
加熱しないと毒のある実「アキー」と一緒に炒めます。
── なんの流通なのか
さっぱりわかってないんですけど。
あずま女 捕れるのかしら、鱈自体は。
── 海を渡って来たものが
定着したというような話でした。
しかし鱈や海老芋、
黒豆の話をしていると‥‥。
あずま女 なんかお正月を前にした気ぜわしい感じがしますね。
年賀状を思いだしちゃうんですよ、
「年用意」ってことばを聞くと。
── もう書かないと!
あずま女 「門松は二十七日、
 二十八日頃までに飾る」とか、
いろいろありますよね。
「二十九日は『苦立て』、
 三十一日は『一夜飾り』といって
 嫌われます」と。
うち、つい、やってるような
気がします(笑)。
京おとこ ギリギリだと三十日は
いいんですね(笑)。
── そのように書いてあります。
あずま女 だいたい三十一日に
なっちゃうんですよ。
最後の最後になっちゃいますよね。
── そうそうそう。
きれいにしてから、って思うと。
蕎麦を食うっていうのは
全国規模の習慣だったんですかね。
あずま女 年越し蕎麦もね、
何時に食べるっていう話を
したことがあるんですけど、
夕食時に食べるっていうのと、
「歌合戦」が終わって‥‥。
京おとこ ああ、年またぎ。
あずま女 「ゆく年くる年」のゴーンゴーンを
聞きながら、深夜に食べる家と。
京おとこ うちは夕食でしたね。
あずま女 うちは年またぎでした。
決まりはないと思うんですけどね。
── やっぱりご長寿ですかね、あれ。
あずま女 来年に命をつなぐ。
京おとこ 言われてたのは、
正月からご馳走を食べるから
胃を休めるために
年越し蕎麦ってある、と。
ほんとかな?
あずま女 すごい気休め感がありますね(笑)。
京おとこ そうそう。
ぼく、蕎麦が好きだっただけに
なんか扱いがひどいなと思って。
蕎麦に対して(笑)。
あずま女 しかも、年越し蕎麦うまくて
食べ過ぎちゃったとか(笑)。
── どうもありがとうございました!
次回年内ラスト、年またぎの回です。
「雪下出麦
(ゆき わたりて むぎ いずる)」
で12月31日にお会いしましょう!
2012-12-26-WED
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