── | 「麋」(さわしか)っていうのは ナウシカじゃないですよね。 |
これ、日本にいない鹿なんですよ。 |
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── | ヘラジカ? ああ、ムースやエルクのことですか! |
はい、さようでございます。 日本にいないものが 日本の七十二候に入ってるのか 不思議ですよね(笑)。 中国の七十二候を そのままもってきたものではないかと。 想像力のなせる技というか。 |
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うん。異国情緒的なものでしょうね。 17世紀オランダの絵画に なぜか孔雀がいる、みたいな そういうノリでしょうね。 |
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── | 円山応挙の絵にだって 虎がいますからね。 実物は見たことがなかったはずと 言われているんです。 |
そうですね。 |
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その通り! |
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── | そんな舶来な気分を込めた この季節。 いよいよ。 |
「鮟鱇」(あんこう)です! |
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「あん肝」も大人の食べ物ですよね。 |
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ですよねえ。 |
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── | あぶらをうまいと言って食うのは 大人のたのしみですよね。 フォアグラしかり。 鮟鱇しかり。 鮟鱇鍋ってどこが有名ですか? |
「いせ源」。 |
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神田の。 |
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ちょっと雑に扱われる感じが なんとも江戸っぽいお店です。 |
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観光地のようなことですものね。 |
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── | たいへん混雑しているのをさばくので、 いたしかたない部分もあるのかと思いつつ。 下町の名店ってその気配がちょっと。 |
ありますよね。 テキパキとした 客あしらいというかね。 |
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それもまた情緒と思っていただけると。 |
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「江知勝」のすき焼き。 |
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── | 「駒形どぜう」。 |
それも含めて楽しみなんでしょうね。 |
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ゆっくりさせてよ、っていうのが 通じないっていう(笑)。 |
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── | 吉原の桜鍋なんかも わりとチャッチャと食べますものね。 ま、もともとそういうもんですよね。 さ、食べたぞ、遊びに行くぞ、 みたいな。 |
そうですよねえ。 |
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鮟鱇は「吊るし切り」。 |
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吊るし切り。 できる人いるかしら。 |
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── | さすがに修業をしないと! 独学じゃむりな調理ですよね。 大物の解体って、やってみたいですけれど。 |
鮟鱇って東西差ないんでしょうか? |
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うーん、あんまり関西では 食べなかったかな。 |
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ということは関東っぽい食べ物。 |
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まさしく江戸っぽいじゃないですか。 |
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荒々しい感じがしますからね。 |
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── | 鮟鱇引いてみません? 「飲食事典」で。 どれどれ‥‥。 「アンコウ科の海産(?)硬骨魚。 頭が甚だ大きく目も大きいが 尾は急に細くなって釣り合いがとれず 大きさは130~170センチ」!! |
でかっ! |
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── | 「料理は冬から早春を旬とし 肉も皮も臓物も悉く食べられるので。 頗る経済的といわれている」 ‥‥ああ、それも江戸っぽいですね。 |
全体食ですね。 |
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── | 「鮟鱇鍋、鮟鱇汁」。 |
鮟鱇ってコラーゲンで ぶるぶるして。 |
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── | そうですね。 滋養料理として 喜ばれるということです。 冬の旬はわりとそういうのが多いですね。 動物も魚もあぶらを溜め込んで、 それをいただくので、 調味料はポン酢が多いですよね。 あっさりいただく。 柑橘がちょうどなりますし。 |
そうだ、そうだ。 |
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── | 具合がいいんでしょうね。 こってりした魚、肉を あっさりと食べるんでしょうね。 |
よくできてます。 さて、「黒豆」が見えます。 |
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── | お正月ですね。 |
「たんたん丹波」? やっぱり。 |
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黒豆! はい。丹波です。 |
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── | 丹波の黒豆、本当に大きいですよね。 糸井重里が‥‥。 |
好きですよね、黒豆! |
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── | そうなんです。 煮るものとして ジャムのほかには黒豆という。 |
コトコト系で。 |
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煮物師ですね。 |
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── | 土井勝さんのレシピで、ということを よく言っております。 |
あの人も関西ですもんね。 |
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── | 確か、土井さんのは 鉄のさび釘を入れるという レシピだったと思います。 |
うちも鉄釘です。 |
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ツヤが出るからですね。 見た目大事ですもんね、黒豆って。 |
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シワがないのがいいってね。 こればっかりはね、 関東もんも、丹波のを買います。 |
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あはははは。 |
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必ず買います。 そしてさらなる旬。 「海老芋」がございますね。 |
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あ、これ京都です! 京都の「芋棒」。 京都の四条の円山公園のところに 芋棒専門店があるんですよ。 「平野家」というんですけれど。 |
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── | へええーー! どんな料理なんですか。 煮炊きするんですか。 |
まさに海老芋と棒鱈だけの料理。 煮てあるんです。 |
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「炊いたん」ですね、まさに。 |
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そうそう。 |
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── | うまそう! 干し鱈うまいですからね。 |
これはね、京都ならではですね。 |
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海老芋ばかりはもう、 京都のものという感じですね。 食べたことなかったもん。 |
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これはね、ぜひ、 円山公園に行って ご賞味いただきたいです。 |
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次行った時には。 |
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── | そんな京おとこさんに がっかりする情報を 言ってもいいですか。 |
はい‥‥。 |
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── | 今や、海老芋の約95パーセントが 静岡産でございます。 |
ああ! 静岡!!(笑) |
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やられた~~。 |
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── | ジュビロのお膝元 磐田市というところで(笑)。 |
おやあ~~~。 |
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── | だからじつは京都だけでなく 静岡の人間にも 馴染みがあったんですよ。 里芋の一種として。 |
へえー。意外! ほんと、大人になって 海老芋初めて食べたら、 あの自分が食べてた山芋は何だったんだ、 里芋は何だったんだって。 甘みが違いますもの! |
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甘みと、ねっとり感がね。 |
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── | 里芋系のおいしさって、 とんでもないですよね! |
とんでもないっす。 |
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あのネチネチした味が 京都っぽいんだと思いますけどね(笑)。 |
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粘りですよね、粘り。 |
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── | 粘りますなあ~。 |
鱈も保存食ですよね。 |
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── | この間、鱈で「ブランダード」を 作ったんですけど。 |
じゃがいもと干し鱈のペーストの。 |
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── | はい。 鱈ってもともと北欧のほうで捕れるんですよ、 寒いところで。 で、来る時に干して持ってくる。 ぼくの作ったのは フランスのレシピだったんですけど、 その地方は 魚が通貨の代わりだったらしくて 山ほど余る干し鱈をどうしよう、って 編み出されたのがブランダードだと。 干し鱈の流通ってすごくて、 ジャマイカの方でも 干し鱈の料理をすごく作るんですよ。 加熱しないと毒のある実「アキー」と一緒に炒めます。 |
── | なんの流通なのか さっぱりわかってないんですけど。 |
捕れるのかしら、鱈自体は。 |
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── | 海を渡って来たものが 定着したというような話でした。 しかし鱈や海老芋、 黒豆の話をしていると‥‥。 |
なんかお正月を前にした気ぜわしい感じがしますね。 年賀状を思いだしちゃうんですよ、 「年用意」ってことばを聞くと。 |
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── | もう書かないと! |
「門松は二十七日、 二十八日頃までに飾る」とか、 いろいろありますよね。 「二十九日は『苦立て』、 三十一日は『一夜飾り』といって 嫌われます」と。 うち、つい、やってるような 気がします(笑)。 |
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ギリギリだと三十日は いいんですね(笑)。 |
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── | そのように書いてあります。 |
だいたい三十一日に なっちゃうんですよ。 最後の最後になっちゃいますよね。 |
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── | そうそうそう。 きれいにしてから、って思うと。 蕎麦を食うっていうのは 全国規模の習慣だったんですかね。 |
年越し蕎麦もね、 何時に食べるっていう話を したことがあるんですけど、 夕食時に食べるっていうのと、 「歌合戦」が終わって‥‥。 |
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ああ、年またぎ。 |
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「ゆく年くる年」のゴーンゴーンを 聞きながら、深夜に食べる家と。 |
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うちは夕食でしたね。 |
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うちは年またぎでした。 決まりはないと思うんですけどね。 |
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── | やっぱりご長寿ですかね、あれ。 |
来年に命をつなぐ。 |
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言われてたのは、 正月からご馳走を食べるから 胃を休めるために 年越し蕎麦ってある、と。 ほんとかな? |
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すごい気休め感がありますね(笑)。 |
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そうそう。 ぼく、蕎麦が好きだっただけに なんか扱いがひどいなと思って。 蕎麦に対して(笑)。 |
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しかも、年越し蕎麦うまくて 食べ過ぎちゃったとか(笑)。 |
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── | どうもありがとうございました! 次回年内ラスト、年またぎの回です。 「雪下出麦 (ゆき わたりて むぎ いずる)」 で12月31日にお会いしましょう! |
2012-12-26-WED |