── | もう啓蟄に入りますよ。 啓蟄というのは 地中で冬ごもりをしていた虫たちが 温もった土を啓(ひら)いて這い出してくる。 虫といっても‥‥前にもありましたね。 昆虫だけじゃなくて、 蛇や蛙、蜥蜴など虫として扱われています。 |
はい。 秋には虫がこもるというのがございましたね。 第47候「蟄虫培戸」。 その虫と同じ意味なんですよ。 |
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── | はい。それの対になっているわけですね。 そして、おいしそうなものがやってきました。 魚偏に春と書いて「鰆」(さわら)! |
わかりやすいですね、これも。 |
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── | 鰆とわらさは違うんですよね? |
はい。わらさはブリ、 鰆はサバ科ですよね。 鰆は何をしても おいしいですねえ~。 |
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── | 「幽庵焼き」「西京焼き」。 |
幽庵焼きってどんなんでしたっけ? |
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なんか塗るんですよ。 |
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── | 酒とみりんと醤油に、 柚子やカボスを足します。 |
あ、それか! |
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幽庵って人の名前ですよね。 江戸時代の茶人で、食通でもあった北村幽安。 |
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── | いいな、自分の名前が 料理に残るって! |
いいですよね。 |
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── | 食いしん坊にとっては こんなに名誉なことはありません。 |
そうそう! あんまり日本では他にいないかな。 千利休‥‥? |
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── | 「利休箸」。休むという字を使わず、 「利久箸」とも書きますね。 |
そうそうそう。 利休鼠は色の名前だし、 あのかたはすごいですね。 外国だと「シャリアピンステーキ」とか 音楽家の名前がつきますよね。 |
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うんうん。 |
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── | あ、シャリアピンステーキは 日本だけの言い方なんだそうですよ! オペラ歌手のシャリアピンが来日したときに 歯が痛いからやわらかいステーキにしてくれと タマネギでマリネして焼いたのが最初だとか。 |
あら、そうなんですね! |
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── | 名前といえばフレンチトーストって、 フレンチさんのトーストだという説もあります。 |
フランスの、じゃないんですね。 |
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── | その名前はアメリカ発祥とも言われてて。 もっとも硬くなったパンを ミルクや卵につけて焼く食べ方は ヨーロッパで古代からあったそうなんですけどね。 それにしても外国や外国人の名前って 地名とか橋とか通りにも じゃんじゃんつきますよね。 日本は案外それがないですね。 |
あ、ないですね。 |
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そうですね。 |
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伊藤博文通りとかないですね(笑)。 |
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── | ね、ないですよね。 あ、いけない、話題がすっかりそれました。 鰆でしたね。『飲食事典』によりますと 「讃岐の唐墨は鰆の卵巣で作った」 っていうミニ情報が! |
美味そうですね、なんだか! 鰆ってどれくらい大きいのかしら。 |
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── | 「体長1mくらいに達し」。 ‥‥デカいんだ! 「南西日本に多く、 瀬戸内海沿岸で殊更に賞味される。 一年中ほとんど漁獲があり 外海方面では冬を美味とし、 内海もしくは沿岸では旬は春。 小型のものは 東京では狭腰(さごち)、 関西では狭腰(さごし)と呼ぶ」。 |
鰆もオトナになって、 料理屋に行って食べるようになったかな。 |
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── | そうですね。 家庭料理では、あまり食べませんです。 |
高いんですか、鰆って。 |
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どうなんだろう。 高級魚のイメージがありますよね。 家で買ったことがない‥‥。 |
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── | こんど買ってきます。 そしてこの時期の旬といえば 「山葵」もございます! |
そっか。もう光景が早春ですよね。 |
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山葵といえば静岡でしょう。 |
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── | 静岡だったり、信州だったり。 |
水がきれいで、冷たくないとダメなんです。 |
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── | 「平安時代から香辛料として 珍重されてきた」そうですよ。 |
山葵は原産はどこでしょう。 日本っぽいけど。 |
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日本じゃないですか。 確か日本だったと思うな。 |
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山葵食べる国って少ないですよね。 |
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ね。だから欧米でも 「Wasabi」でね。 |
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── | 通じてますもんね。 |
そう。 |
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── | この間、もう終わってしまいましたが サロン・ドゥ・ショコラに行きましたら 日本人の奥さまのいる フランス人ショコラティエが 山葵の入ったチョコレートを作ってました。 |
へえー! |
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ふうーん! |
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── | おいしかったんですよ、これが。 |
やっぱり魅力的なんでしょうね。 |
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山葵のアイスクリームも 食べたことがありますけど おいしいですよね。 |
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── | 案外おいしいです。 山葵に似ているというとホースラディッシュですね。 西洋山葵。 |
似て非なる。 |
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蕎麦屋とかでも 山葵でその店のやる気を感じますよね。 |
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確かに、確かに。 |
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── | 山葵はそのまますり下ろしても あんまり辛くないんですよね。 お砂糖混ぜないと辛くならない。 |
砂糖?! |
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── | 辛味成分が、砂糖の浸透圧で ぐーんと出てくるんです。 |
えーー? |
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── | お砂糖混ぜてすると 辛ぁーっ! ってなりますよ。 さあその山葵をつけたいのが 旬の「赤貝」! 赤貝はね、このくらいの季節になると ワタまでいただけますから。 |
おいしいですよね。 |
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── | おいしゅうございますよ。 昔、お茶の水の駅の上の並びのところに 立ち食い寿司屋がありまして。 そこで春先は貝の肝やヒモを出してくれました。 おいしかったなあ。 |
ああ、いいですねー。 ヒモ巻き。 赤貝って殻がかわいいですよね。 |
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── | ほんとですね。 かわいいですね。 楽器になりそうな感じですね。 「ほぼ日」のモギは 潮干狩りでこればっかり獲ったと。 |
あ、獲ったんですね、自分で。 |
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千葉の方ですか? |
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── | 千葉の三番瀬だそうです。 |
そういえば、寿司で 江戸っ子は貝好きとか言われるけど なんででしょうね。 歯ごたえかなあ。 |
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よく獲れるからでしょうね。 |
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ああ、いっぱい。 そうかもしれない。 |
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── | 前回の吉宗の‥‥。 |
あ、蛤。 |
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── | やっぱり獲れたんでしょうね。 下町の深川丼も浅蜊と葱。 |
さいです、さいです。 でもわたし、青柳が一番好きです。 |
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── | 貝のなかで何が一番好きって、 なかなか言えないです。 |
ふふふふ。 どれもおいしいけど。 寿司種になる貝の中で、ですけど。 ミル貝か、青柳か‥‥。 |
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ぼくは赤貝が 一番好きかもしれないです。 |
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── | あと、平貝? あれもおいしいですよね。 |
あと、鳥貝とか。 |
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── | 貝づくし~。 貝おいしい~。 そして、「鹿尾菜(ひじき)」も 旬なんですね。 |
また渋いとこ来ましたね。 旬があるんだ! 鹿尾菜に。 |
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── | 海藻の旬だそうです。 |
はあー。ほうほうほう。 |
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ふうーん。 |
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── | そういえば先日「生ひじき」いただきましたよ! すごくおいしかったです。 乾燥させずに、たぶん海水で炊いただけ、 っていうものなんですけど。 磯の香りが強くておいしかった。 |
鹿尾菜って炒めて煮る以外に どうやって食べます?(笑) |
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── | 鹿尾菜ご飯にするとか? なくはないですが、 あんまりないねえ。 |
おからと鹿尾菜の入った クッキーとかいう健康食品 食べたことあります(笑)。 |
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── | ムリしなくていいと思うんですよ。 煮物がおいしいんだから、 がんばってバリエーション増やさなくても。 |
そう! ほんとそう思う!(笑) |
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鹿尾菜って、小さい頃から 隙あらば入り込んでくるイメージっていうか、 親とかにやたら食べされられませんでした? 栄養があるとか言って。 |
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髪の毛がキレイになるとかね。 |
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なんであんなに親は鹿尾菜を 食べさせたがるのか。 |
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── | そうそう。 お弁当にちょこっと 入ってたりとか。 やっぱり、カルシウム、マグネシウム、 鉄、食物繊維‥‥。 「黒い食べ物はいいのよ」みたいな。 |
こどもはちょっと 黒いものはビビりますからね。 |
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── | 『和漢三才図会』の鹿尾菜はなかなか。 |
ちょっと笑えますよね。 鹿尾菜に見えない。 珊瑚みたいですね。 |
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この漢字のあて方もすごいですよね。 |
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── | 鹿の尾の菜っ葉と書く。 |
鹿の尾っぽみたいだからか。 |
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── | 漢方でも使われるそうですよ。 「むくみを取り、腫瘍を軟化し、 血流をよくする」って。 |
そのあたり、年寄り向けですよね(笑)。 こども向けじゃないですよね。 |
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そうですね(笑)。 |
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── | ありがとうございました。 次回は「桃始笑(もも はじめて さく)」 3月10日にお会いしましょう。 |
2013-03-05-TUE |