糸井 | 息つぎのうまい人同士っていうのは、 仲良くなれるものですか。 |
黒柳 | どうかしら、そういう気もします。 |
糸井 | ぼくは、もともと喘息ですから、 仲間には入れないかなぁ。 |
黒柳 | あら、だったら、息つぎ上手じゃない? だって、その喘息の合間に 話そうとするわけでしょ? わたしも知らないうちに 肺活量が少ないのをカバーしてたわけだから。 |
糸井 | そうかもしれない。 人が上手であることがわかるというのは、 自分もそれに覚えがあるということですよね。 微妙なことかもしれないけど、それはもう、 けもの同士の対決みたいですね。 |
黒柳 | そうそう。ですからわたしはサラ・ベルナールと 会ってみたいなと思いましたよ。 ま、国葬になったような女優ですから 息つぎぐらいのことではねぇ。 |
糸井 | じゃあ、黒柳さんはきっと、 息つぎについて そうとう敏感だということですね。 例えば「森繁久彌さんは、こうだ」とか、 きっと、いつも感じてらっしゃるんですね。 |
黒柳 | そうです。 森繁さんは、ものすごく 息つぎうまいですよ。 |
糸井 | ですね。そう思います。 |
黒柳 | 台詞の途中で「ヒー」って いっぱい息つぎする人、いるでしょ。 あれは、見ている人が疲れちゃうんです。 ところが、ほんとうの人間は 息つぎがうまいんですよ。 |
糸井 | ああ、そうですね。 |
黒柳 | 例が悪いかもしれないけど、 死にそうな人だって、 ちゃんと息してお話してるでしょ。 かなり弱ってる人でも、 「ヒー」なんて、そんな息つぎはしないです。 ところが、芝居になると 「ヒー」となっちゃう人がいっぱいいるんです。 それはやっぱり、ほんとうじゃないの。 |
糸井 | 予定以上に息を出すと思うから、 それに備えちゃうわけですね。 |
黒柳 | そうそう。普通の人は、生活のなかで よっぽどのことがない限り、 そういうこと、しないんですよ。 だから、どんなに長い台詞も 「ヒー」なんて息つぎはしないほうがいい。 森繁さんは上手だし、自然だし、 杉村春子さんって方も、セリフ上手でした。 |
糸井 | そうかぁ。普通の人は、 大笑いしながらだって、しゃべってますもんね。 大笑いしてるときは、 絶対に呼吸が乱れてるわけですから。 |
黒柳 | 「おっかしい!」とか言いながら ちゃんと声は出てます。 |
糸井 | 唯一、泣いてる人だけは、止まりますね。 |
黒柳 | あ、そうよ。泣くっていうのは、 「うっうっうっ‥‥」って 横隔膜が全然別の動きになっちゃうから。 |
糸井 | いまの、ものすごく上手でした。 |
黒柳 | 「うっうっうっ‥‥」 テレビのニュースに出て謝ったりしている人、 いるでしょ。 |
糸井 | 謝る記者会見は みんな、息つぎがおかしいですね。 |
黒柳 | 不自然です。 まぁ、泣いてるから、ということも あるんでしょうけどね。 泣くというのは、自分の思ってないところで 息つぎがああいうふうになっちゃう、 ということですから。 |
糸井 | ‥‥ということは、 嘘でしゃべってることは、 黒柳さんにはだいたいばれてますね。 |
黒柳 | あ、わたしは、すぐわかります。 |
一同 | (笑) |
糸井 | それはきっと、そうだろうな。 |
黒柳 | 嘘の証言してる人なんて、すぐわかります。 テレビをじーっと見て、 「うそ」「おかしい」 |
糸井 | ほんとうはきっと、黒柳さん以外の人も 感じてるんでしょうね。 |
黒柳 | おそらく一般の人のほうが 絶対この人嘘ついてるわね、って、 わかってると思います。 息つぎがおかしいもん。 |
2008-09-16-TUE