5四捨五入しないおもしろさ。クリス智子さん登場。
(ここからは、今回のイベントの司会を務めた
ラジオパーソナリティのクリス智子さんも同席して、
3人でのトークがはじまります)
- クリス
- ここから、ちょっと私もお邪魔します。
- 小泉
- はい。よろしくお願いします。
- クリス
-
『黄色いマンション 黒い猫』のテーマでもある
「原宿」の話にちょっと戻りますが、
80年代の原宿には芸能界の人だけじゃなく、
ファッション業界の人とか、カメラマンとか、
たくさんのクリエイターが集まっていましたよね。
小泉さんは、そういう人たちにも
かわいがられていたとか‥‥。
- 小泉
-
そう。その時代の原宿には、
いろんな人と出会える場がありました。
- 糸井
-
うんうん。
きっともっと昔だったら、
新宿のゴールデン街あたりに
ある種の流れの人たちが集まる場所が
あったと思うんですけどね。
あのころの新宿よりはもっとバラバラしてるけど、
原宿には人が集まる
「街」や「道」というものがあったと思う。
- 小泉
-
あった。
あと、やっぱりゴールデン街に比べると、
原宿には「昼間」があるから、健全な感じで
大人と子どもが一緒にいられる場所がありましたよね。
いろんなことを学んでいたように思います。
- クリス
-
小泉さんは、自分がかわいがってもらってきたからかな、
逆に若い世代の人にもそうしてあげよう
という気持ちがあるような気がするんです。
- 小泉
-
そう。
ビーズみたいに次の世代につなげたいことが
いっぱいあるなぁと思ってます。
私が20代のころに10代だった子とかが、
大人になって、
私がその子にしたことと同じことを
後輩にしていたりすると、
「よし!」と思っちゃいますね。
「つながった」って。
- 糸井
- 世話するというのも欲望の1つですよね。
- 小泉
- あぁ、私の中でかなり欲望だと思います。
- 糸井
-
ねえ。愛するのも欲望じゃないですか。
「愛される」のほうがなんか高くて、
「愛する」は誰でもできると思ってるけど、
愛する機会を与えていただくというのは、
すごい欲望を満たしてくれることですよね。
- 小泉
- そうだと思います。
- 糸井
-
「私にかわいがらせてください」
と言いたくなる子が現れたら、
うれしいでしょう?
- 小泉
-
たしかに、うれしいです。
そうか、そうなんですね。
- クリス
-
そういう部分も小泉さんからは感じられますよね。
あの、糸井さんは小泉さんの本を読まれて、
文章のどういうところが
小泉さんらしいなぁと思われましたか?
- 糸井
-
いくつか例にも出したけど、
間(あいだ)のところを見ている人だから、
四捨五入をしないんですよ。
たとえば数字で3568とあったら、世の中は
「3568は3570でいいんじゃない?」
となるじゃない?
でも、小泉さんは「間(あいだ)」を見てるから、
3568のまま書きたいんですよ。
みんなが、「あ、飛ばしてたよ」というところを、
小泉さんは、「8をちゃんとくっつけておきました」。
全部がそうで、
「こんなに本当のことを並べるだけでおもしろいんだ」
というのはいいですよねぇ。
- クリス
- たしかに。
- 糸井
-
小泉さんの本の中に「自分への手紙を書いた」
という場面があるけど、
だいたい自分への手紙というのは誰でも考えることで、
本当は恥ずかしいことなんですよ。
- 小泉
- (笑)
- 糸井
-
それこそ、みうらじゅんは
旅先から絵はがきを
自分宛てにどんどん出してたそうですよ。
「じゅんよ、お前の歌はそろそろヒットしてるだろう」
みたいなのを。
- 会場
-
(笑)
- 糸井
- それに励まされて生きてきたらしい。
- 小泉
- かわいい(笑)。
- 糸井
-
自分で作った
ナルシズム自動発生装置みたいなものでしょ?
みうらじゅんの場合、あれはあれで、
変わったところにいざるを得なかった人なんです。
小泉今日子は、それが恥ずかしいものだと知ってて、
あえて書いているという。
そこが四捨五入されていないのが、
この本のおもしろさです。
- 小泉
- そうですね(笑)。
- 糸井
-
それと、小泉さんは、文章の中に、
「そういえば」というのが多いじゃないですか。
- 小泉
- うんうんうん。
- 糸井
-
その「そういえば」は、
「さあ、みなさん、聞いてください!」じゃなくて、
お菓子を食べるついでみたいに書いてますよね。
「そういえば、この間ね」って。
その良さって、案外難しくて。
- 小泉
-
ああ。
- 糸井
-
つまり、人が文章を書くときって、
おもしろいこと書いてやろうと思うんですよ。
でも、小泉さんは、「そういえば」なんですよ。
そのことについて、本の中でも出てくる
久世光彦さんもそういう話をしてますよね。
つまり、「おもしろくしようとすると、変になるよ」
ということだと思うんだけど。
- 小泉
- そう、そうそうそう。
- 糸井
-
それは、志ん生さんが
志ん朝さんに教えたことらしいんですよ。
- 小泉
- へぇーっ。
- 糸井
-
志ん朝さんが、
「父ちゃん、おもしろくするのは、どうしたらいいんだ?」
と言ったら、
「おもしろくしねぇことだ」と答えたそうです。
- 小泉
-
志ん生さんらしいです。素敵な話。
- 糸井
-
その話を志ん朝さんから小三治さんが聞いて、
文章にしてるんですよ。
すべてに共通して言えるのは、
「おもしろくしねぇことだ」っていう。
オチをつけて、「おもしろいでしょう」じゃなくて、
「さぁ、寝ようかな」みたいな感じですよね。
- クリス
- 一日の終わりに日記をしたためるような感じで。
- 糸井
-
そうそうそう。
だから、その人だけが見た「本当のこと」というのを、
四捨五入せずに磨いて出したら、
おもしろいんですよ。
- 小泉
-
なるほど。
- 糸井
-
なんでもおもしろくしようとしてるのが、
今の時代だから。
「みなさんはどんな話がおもしろいですか?
チョコレートですか? ハートですか?」
そういうふうにみんなでやるから、
同じになっちゃうわけです。
四捨五入されたものだらけをみんなが探し合ってる。
そういうことを、小泉さんはしてないんです。
(つづきます)
2016-06-10-FRI