4そういう動物だったんです。

糸井
この間、小泉さんについての
インタビューを受けたんですけど、
「小泉さんは、50を前にして
 どうしてあんなに長く小泉今日子として、
 アイドルの状態でいられるんでしょうかね」
と聞かれて、いろいろ考えた末に、
「顔と体つきじゃないですかね」と答えたんです。
小泉
読んで、それって正しいかもと思いました(笑)。
糸井
あの答えを出した自分、というのが、
すごく良かったなと思うんです。
小泉
だって、もっと背が大きかったら‥‥。
糸井
だめでしょ?
なんでそれを言ったかというと、
動物同士がそうなんですよ。
たとえば犬と犬が会ったときに、
吠えるときもあれば、
うれしそうに寄ってくるときもあるように、
動物は見た目とか匂いとかで、
好いたり好かれたりしてるじゃないですか。
小泉
本当だぁ。
それ以外にないもんね。
糸井
小泉今日子という人については、
いろんな分析をする人がいるし、
ぼくだって、
「この子の持ってる、なにかがね‥‥」
というのは言えますよ。
でも、同じような条件を揃えたら
同じになるかといったら違うわけで、
それより前の段階で、
「あのくらいの体つきで、ああいう顔した人というのが、
 すごくよかったんじゃないでしょうか」って。
小泉
あれ読んで、私、ちょっとスカッとしたんですよ。
糸井
そうですか。
小泉
はい。さすが、と思いました。
糸井
やっぱり、小泉今日子という人のことを、
ぼくは、ファンじゃないけど、
おもしろいなぁと思って見てたんです。
人がいろいろ言うのも聞いてるんだけど、ピンと来なくて。
で、最後の最後はそれだなと思った。
今気付いたんだけど、ちっちゃいときに、
そうさせる顔や形をしてたんじゃないでしょうかね。
『みにくいアヒルの子』が、アヒルの中に
「変なアヒル」として存在していたように、
きれいとかきれいじゃない、とはちがう、
どこか、人が気になる人として
存在していたんじゃないかなと思います。
小泉
あぁ、ちっちゃいときからありました。
そういうところ。
糸井
やっぱり?
小泉
三人姉妹の末っ子だから、母にも
着せ替え人形みたいに扱われてたんです。
母は自分がおもしろいと思う恰好を私にさせていて、
だからなのか、必ず声をかけられちゃう子でした。
糸井
あぁ、よかった。今ちょっとまたわかった。
人々に紛れ込まない、
なにか、人生の助走をしてたんじゃないかな。
そうしたら、小泉さんが
さきほどおっしゃっていたように、
「ずっとここにいる」というのは
想像できないじゃないですか。
小泉
そうかもしれないなぁ、たしかに。
糸井
それと似た話で思い出したのが、
横尾忠則さんが、
「ぼくは郵便配達員になりたかった」と言ってたんです。
それは本気なんですよ。
でも、若いときの話をしてると、
「ちっちゃい画廊があったから、フラッと観に行ったら、
 そこの画廊の人が、なんだか知らないけど、
 郵便配達員になりたいはずの自分をつかまえて、
 『一緒になんかやろう』と言ったんです」
とか言うの。
小泉
うんうん、うんうん。
糸井
それから、赤瀬川原平さんも、
本当は目立ちたい人じゃなかったんですよ。
でも、オノ・ヨーコさんと組んでる時代もあったし、
若いころからいろんな人と
パフォーマンスをやってますよね。
小泉
そうですね。
糸井
共通しているのは、
若いときや、なんでもない時代から、
まわりに声をかけられたり、
「こいつを仲間に入れたい」と
思わせるものがあったんだなぁと思って。
小泉
そうかもしれない。
そういえば、学校の先生も、
普通は生徒に話すようなことじゃない話を
急に私に言ったりして、
「なんでだろう?」みたいな。
糸井
今もぼく、そうだよ。
小泉さんに対して、そうなってます。
小泉
そうか(笑)。
糸井
こんなややこしい話、
ふつうはアイドルとしたくないですよ。
小泉
(笑)
そういうところあるかも、たしかに。
糸井
そこを考えると、
「そういう動物だったんですよ」ということに
落ち着きますね。
小泉
そういう動物なんですね。
いや、スカッとしますね(笑)。
糸井
でしょう?
で、そう生きてたら、
そう生きてる場所から見るものは
おもしろいじゃないですか。
小泉
そうですね。
糸井
だから、書けちゃうんですよ。
小泉
あぁ。そうか。
よく人に、
「なんでそんなに記憶が残ってるの?」とか、
「ちゃんと覚えてるよね」と言われるんだけど、
そういうことだからなのか。
変な場所から見てるんですね、最初から。
糸井
もしかしたら、お母さんの作戦が
当たっちゃったのかも。
小泉
当たっちゃったのかもしれない。
変な服を着せたお母さん‥‥。
糸井
さぞかし変な服だったんでしょうね(笑)。
小泉
ものすごいミニスカートの日もあれば、
トレーナーにデニムで、
髪の毛をモンチッチのように短くして、
わざと男の子に間違えさせたりしてました。
「かわいいお坊ちゃんね」とか言われて、
それを母は楽しんでる。
変なこと、いっぱいしてましたね。
糸井
うん。
きっと人々はその子を目印のように見ちゃうから、
なんというか、ランドマークになるじゃないですか。
「ほら、あの変な、男の子みたいな子いるでしょ。
 あれは女の子なんだよ」って。
アイドルって、そういう仕事でしょ?
小泉
そうかもしれない。
自分は本当に気力のない子どもだったんですけどね。
朝も起きられなかったし。
不思議なもんですな。
糸井
今は、気力あるの?
小泉
今は、なんでしょう‥‥体が反応する感じですよね。
こんなふうにみなさんの前で話したり、
撮影現場に行ったり、舞台の上に立ったりするときは、
なんか、グッとみぞおちを殴られて、
気絶してる間に他の人がやってるみたいな感じ(笑)。
糸井
あぁ。
小泉
そういうスイッチがある感じはあります。
糸井
訓練したんですね。
芸能界って、わりとそういうところがありますよね。
だんだんとそれがしんどくなっちゃう人もいますけど。
小泉
そうですね。
糸井
一方で、
「ぼくはそういうところ馴染まないから」というのを
過剰に出す人もいますよ。
東大生の80パーセントくらいが、
「ぼくは東大生らしくないんですよね」
と言いますが‥‥。
小泉
(笑)
言いますね。
糸井
芸能界にもたまにそういう人いるんですよね。
だから、「その間(あいだ)が私だ」というのを
決めた人だけが、どっちも向いてるように思います。
小泉
そうかもしれないですね。
振り幅があるのが、長く続ける秘訣かもしれないですね。
間(あいだ)を持ってる人が。
糸井
さっき、「今の気力はどう」と聞いたのは、
ぼくも、人から見たら、
やる気を出してるように見えるときが
しょっちゅうあるんです。
小泉
(笑)
糸井
でも、それはやっぱり
自分でスイッチを入れてるんですよ。
たとえば、何かのイベントがあるときには、
「こういう用事を作って、このときはがんばろう」とか、
あえてやってるんです。
本当は、なにもしたくないんですよ。
小泉
なにもしたくないです。
糸井
ちょっと小声で言いましたね、今。
あんまり大きな声で言うと、営業に差し支えるからね。
「あの人は全然やる気ないらしいよ」って(笑)。
会場
(笑)
小泉
私もできれば、家で寝っころがって、
ずっとテレビ見てたいんですよ。
糸井
で、そばに猫とかいてくれてね。
小泉
猫がいたら最高です。
それが、今の夢と言ったら夢ですね。

(つづきます)

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