── | では、レ・ロマネスクさんが 一躍パリのスターダムに登りつめた夜の話を おうかがいしても、よろしいでしょうか。 |
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TOBI | イギリスに、かのスーザン・ボイルだとか すごい素人を発掘する番組があるんですが‥‥。 |
── | 『ブリテンズ・ゴット・タレント』ですね。 |
TOBI | その番組のフランス版に出場したんです。 『La France a un incroyable talent!』 (信じられない才能)というんですが。 |
── | 手元の資料によれば、そのとき歌ったのが フランス語に訳した「ズンドコ節」。 |
TOBI | ええ、「Zoun-Doko Bushi」と表記して ライブでもやっていたんですが あのとき、 300人くらいのオーディエンスの前で パフォーマンスしたら もう「290人」くらいから ものすごいブーイングを食らったんです。 |
── | うわー‥‥。 |
TOBI | テレビでは放映できないような ものすごい罵詈雑言を浴びせかけられました。 |
── | そうなんですか。 |
TOBI | でも、はじめのうちはしばらく、 気付かなかったんです、罵倒されてることに。 |
── | フランス語だから? |
TOBI | いや、そのとき僕ら、歌ったり踊ったりとか、 やることがいっぱいあったんですよ。 |
── | バタバタしてたと(笑)。ライブ中ですもんね。 |
TOBI | むしろ「うわ、すごい盛り上がってる!」と かんちがいしていたくらいです。 でも、曲の間奏のときに、 チラッと「死ね!」みたいな単語が‥‥。 |
── | なんでそこまで。 |
TOBI | ただ、1番・2番と曲が進んでいくにつれて 応援してくれる人も増えていきました。 最終的には半々くらいといいますか、 賛否両論的な雰囲気になって終わったんです。 |
── | YouTubeに残ってる非公式の映像を見ると 司会の人も、いっしょに踊ってますね。 |
TOBI | もともと、 僕らのことを知ってくれていたみたいで。 番組スタッフの間では「絶対ウケるだろう」 みたいな空気があって はじめから「優勝候補扱い」だったんです。 1ヶ月くらい前から、ゴールデンタイムで 「こんどは、この人たちが出ます!」 みたいな宣伝を、流してくれたりとかして。 |
── | それなのに、まさかのブーイング。 |
TOBI | ひとつには‥‥。 |
── | ええ。 |
TOBI | 僕らの直前に出たのが 「象使いの少年」だったんですよ、6歳の。 |
── | ははあ。 |
TOBI | 純粋そうな6歳の子どもが やさしげな象の足を「パン!」とか叩くと 前足を上げたりするんです。 それが、ちょっと感動しちゃう系で。 |
── | 会場全体が、ハートウォーミングな雰囲気に 包まれていたんですね、MIYAさん? |
MIYA | ウィ、ムッシュー(そのとおりです、ムッシュ)。 |
TOBI | その直後に、司会の人が 「続いての『信じられない才能』は‥‥ みなさん、目を閉じてください」 とか言って、かなり会場を煽ったんです。 で、みんなが目を開けてみたら さっきまでの象使いの少年の純粋さと比べて あまりにも、こう‥‥。 |
── | わかります。 |
TOBI | 荒んでるというか、 まがまがしいピンクがそこに立ってたと。 |
── | そのギャップも大きかったですよね。 ブーイングの理由としては、きっと。 |
TOBI | どこの国の人間かもわからなければ 性別もわからない‥‥。 |
── | 理解の及ばぬ存在に対する、拒絶反応。 |
TOBI | そもそもですけど、 その『信じられない才能』って番組は 「素人発掘番組」なんですよ。 |
── | ええ。 |
TOBI | 携帯電話の会社の営業をやっていた 地味でしがないサラリーマンが オペラを歌ったら超すごかった、みたいな。 |
── | そのギャップの激しさに みんな、感動して泣いたりしてますもんね。 |
TOBI | その点、僕ら、 「着替えて出て来てるじゃねぇか!」 っていう時点で、なんかもう‥‥。 |
── | 「素人」には見えずらい。 |
TOBI | そう。 |
── | ちなみにお客さんは、どういう? |
TOBI | 中高生とか、若い子たちですね。 それと、出演者の親御さん。 |
── | なるほど、PTA的なみなさんたちからは 眉をひそめられそうです、一見。 |
TOBI | いや、意外にそうでもなくて それより「反抗期」に弱いんですよ、僕ら。 |
── | あ、ああー‥‥。 |
TOBI | 小学生くらいまでの子どもたちには ウケもいいんですけど、 思春期というか‥‥反抗期を迎えてくると、 とたんに「ケッ!」みたいな。 |
── | 何かと冷めてる年頃ですもんね。 |
TOBI | なんか「子どもだまし!」みたいな気持ちに なるんじゃないですかね。 僕たちって、人の成長過程において 見向きもされないという時期があるんですよ。 |
── | なるほど‥‥。 |
TOBI | でも、ハタチを過ぎたあたりから 「あ、この人たち、本気なんだ!」と思って また戻ってきてくれるんです。 |
── | 自分たちも、苦労しはじめますからね。 社会の荒波に揉まれたりして。 |
TOBI | そうそう。 「あの人たちも、がんばってるんだな。 あんなピンクの格好して」と。 |
── | ともあれ、大きな話題となり、 オンエア後に YouTubeにアップされた番組の公式動画に ものすごい数のビューが集中したと。 |
TOBI | 一晩で、再生回数が何十万回とかになって それにともない コメント欄が荒れはじめて その動画自体、削除されちゃったんです。 再生回数のランキングで フランスで1位、世界で4位になりました。 |
── | それが、一晩でスターダムに登りつめた レ・ロマネスクのシンデレラ・ストーリー。 |
TOBI | 日本では、まだまだ無名なんですけどね。 |
── | でも最近では、Eテレ(NHK教育)の 小学生向け国語の番組 『お伝と伝じろう』に出演されています。 |
TOBI | ええ。‥‥あの、僕のおじいちゃんがね。 |
── | TOBIさんのおじい様が、はい。 |
TOBI | 「この恥さらし」と言って死んだんです。 |
── | なっ、‥‥なるほど。 |
TOBI | 実話ですよ。最後のセリフがそれだったんです。 だから、そういう意味でも、 NHKに出られてよかったなと思って。 天国でよろこんでくれてたらいいなと。 |
── | NHKだし、絶対よろこんでますよ! それも、子どもたちの国語教育の番組ですし、 よろこぶどころか 草葉の陰で スタンディングオーベーションしてると思う。 |
TOBI | だといいんですけどね。 |
── | しかも『お伝と伝じろう』って 「文部科科学省監修」らしいじゃないですか。 |
TOBI | はい、監修されてます。文部科学省によって。 |
── | だから、きっと、 おじい様も天国で鼻高々だと思います。 |
TOBI | だと、いいんですけどね。 |
<つづきます> |