04	ちいさなネズミの物語を引き継いで
糸井
『リンドバーグ』を映画化したい、
なんていうオファーもあるんじゃないですか?
トーベン
いえ、まだ正式なのはないです(笑)。
可能性はありますか、というメールは
いくつかいただいているんですけども。
糸井
映画にするとなると、
実写にすることもできるだろうし、
もちろんこの絵をそのまま
活かすこともできるだろうし、
たのしみが広がりますね。
トーベン
映画になるとしたら、
まったく違うふたつを考えています。
ひとつは、このイラストレーションを
そのまま活かした伝統的なアニメーション。
もう、1コマ1コマ、
この絵をもとにしてつくっていくような、
アニメーションのやり方。
そしてもうひとつが実写ですね。
数週間前に
『ワンス・アポン・ア・タイム・
 イン・アメリカ』を観て、
これならあるかもなとちょっと思ったんです。
このお話をそのまま再現してもいいですし、
逆に、人間の視点から、つくってもいいなと。
ちょっと探偵物語風に、
ネズミが何かをたくらんでるらしい、
それはなんなんだ、ということを
ちょっとずつ探っていって、
ネズミの計画がだんだんわかっていって、
最後にそれをすべて理解した男の子がいて‥‥
というようなお話を。
糸井
観たい!
トーベン
(笑)
糸井
いや、観たい、観たい、それは。
ディズニーとか、やってくれないかな。
トーベン
ああ、ディズニーが興味を持ってくれると
いいなと思うんですけども。
もしもアニメーションでやるとしたら、
昔のアニメーションスタジオを
復活させていただいて、
コンピューターグラフィックとか3Dじゃなく、
手描きのアニメにしてほしいですね。
糸井
昔のジブリ作品みたいな感じですか。
トーベン
そうですね。
やっぱり、最近のアニメーションって、
みんなコンピュータグラフィックで、
タッチがみんな似た感じになっていて、
もっと多様性があったらいいなと思うんです。
糸井
そうですね。
ぼくはピクサーの作品なんかも大好きですけど、
やっぱり、テクスチャーのあるもの、
手が仕事した形跡があるものに、
ぼくらは驚くんですよね。
この『リンドバーグ』の絵でも、
つるつるの写真みたいな絵だったら、
ぼくはこんなに説得されなかったかもしれない。
トーベン
微妙なバランスが必要なんですよね。
あんまり、写真のような
ディテールに走ってもいけないし、
かといって、あんまりぼやかして
抽象的なほうに行き過ぎてもいけない。
その点、『リンドバーグ』の絵には
独自のリアリズムがあると思ってます。
リアルな存在感と、
人の手が描いているという感じと。
糸井
どっちがいいとか悪いとかじゃなくてね。
トーベン
そうですね。
たとえばコンピューターグラフィックにも、
人間を感じさせる可能性というのは、
やっぱりあると思います。
でも、その場合には、それをつくる側に、
かなり情熱的なディレクターが必要です。
ピクサーの作品においても、
その情熱は絵の質感によって
表現されているわけではまったくない。
ストーリーだったり、
全体のアート性みたいなところに
ぼくらは感動して、
ピクサーの映画を評価しているので。
だから、もしも『リンドバーグ』が
映像作品になるとしたら、
そういったところを大切にしたいですね。
糸井
絵本とはまったく別のものだけど、
すてきな表現ができた、
というふうになればいいわけですよね。
トーベン
そのとおりです。
糸井
いやあ、しかし、最初に出した絵本で、
こんなに、ああもできる、こうもできる、
って思うことってそんなにないんで、
このことをこうして話してること自体が、
なんか、このちいさなネズミの物語を
引き継いでいるような気がしますね。
トーベン
ああ、たしかにそうですね(笑)。
いや、今日は、すごくいいイメージを
いただいたと思います。
糸井
こちらこそ、この本には影響されましたよ。
なんというか、読んでいて、
子どもになりました、ちゃんと自分が。
トーベン
すばらしいです。
糸井
自分の存在を、このネズミの大きさまで
ちいさくしてもいいわけですからね。
それでも、希望が語れるわけで。
ほら、世の中の大人たちは、
このページに表現されているような
話ばっかりするじゃない?
だから、くたびれちゃうんですよ。
トーベン
たしかに、多くの人が、自分の取り巻く世界を
こういうイメージで持ってるんですよね。
怖くて、危険で、制約がいっぱいあって。
「世の中は危険でいっぱいだ」って
言い続けるんですよね。
糸井
でも、この場所から「飛べる」わけで。
トーベン
はい。
このネズミ取りに囲まれているシーンは、
最後の仲間に囲まれているシーンと
完全に「対(ミラーイメージ)」で描いてます。

糸井
ああ、ほんとだ。見事、見事ですね。
いや、今日は、自分の気持ちが
たっぷり伝えられましたし、
訊きたいこともたくさん訊けました。
トーベン
ありがとうございました。
糸井
このあと、
日本ではどんな予定になってるんですか?
トーベン
東京の滞在は今日で終わりで、
これから京都に行きます。
実は今日、ジブリ美術館に行ってきたんです。
糸井
ああ、そうですか。
トーベン
ぼくは宮崎駿さんのファンなので。
すごく影響を受けています。
糸井
言われてみれば、たしかに感じます。
とくに空からの視点は、
宮崎さんの作品にものすごく多いですから。
トーベン
はい。宮崎さんの、空から見下ろして、
うわーって広がるシーン、
大好きなんですよね!
糸井
とてもよくわかります。
絵本の中に、たっぷり入ってますね。
宮崎さんには会えたんですか?
トーベン
残念ながら会えなかったんですが、
絵本ができたときにじっくり読んでいただいて、
褒めていただいたという話を聞きました。
糸井
ああ、そうですか。
会って話せるといいですね。
‥‥あ、そういえば、ぼく、
『となりのトトロ』の
お父さんをやってるんですよ。
トーベン
???
糸井
ドイツ語の吹き替えで観てたら
あんまり意味がないかな。
ええと、すみません、説明してくれる?
トーベン
(通訳の説明を聞いて)
!!!!
糸井
ははははは。
今日はどうもありがとうございました。
ぼく、本にサインしてもらっちゃおうかな。

(トーベンさんと糸井重里の対談は
 これで終わりです。
 最後までお読みいただき、
 どうもありがとうございました。)


2015-09-14-mon