- 糸井
- 『リンドバーグ』を映画化したい、
なんていうオファーもあるんじゃないですか?
- トーベン
- いえ、まだ正式なのはないです(笑)。
可能性はありますか、というメールは
いくつかいただいているんですけども。
- 糸井
- 映画にするとなると、
実写にすることもできるだろうし、
もちろんこの絵をそのまま
活かすこともできるだろうし、
たのしみが広がりますね。
- トーベン
- 映画になるとしたら、
まったく違うふたつを考えています。
ひとつは、このイラストレーションを
そのまま活かした伝統的なアニメーション。
もう、1コマ1コマ、
この絵をもとにしてつくっていくような、
アニメーションのやり方。
そしてもうひとつが実写ですね。
数週間前に
『ワンス・アポン・ア・タイム・
イン・アメリカ』を観て、
これならあるかもなとちょっと思ったんです。
このお話をそのまま再現してもいいですし、
逆に、人間の視点から、つくってもいいなと。
ちょっと探偵物語風に、
ネズミが何かをたくらんでるらしい、
それはなんなんだ、ということを
ちょっとずつ探っていって、
ネズミの計画がだんだんわかっていって、
最後にそれをすべて理解した男の子がいて‥‥
というようなお話を。
- 糸井
- 観たい!
- トーベン
- (笑)
- 糸井
- いや、観たい、観たい、それは。
ディズニーとか、やってくれないかな。
- トーベン
- ああ、ディズニーが興味を持ってくれると
いいなと思うんですけども。
もしもアニメーションでやるとしたら、
昔のアニメーションスタジオを
復活させていただいて、
コンピューターグラフィックとか3Dじゃなく、
手描きのアニメにしてほしいですね。
- 糸井
- 昔のジブリ作品みたいな感じですか。
- トーベン
- そうですね。
やっぱり、最近のアニメーションって、
みんなコンピュータグラフィックで、
タッチがみんな似た感じになっていて、
もっと多様性があったらいいなと思うんです。
- 糸井
- そうですね。
ぼくはピクサーの作品なんかも大好きですけど、
やっぱり、テクスチャーのあるもの、
手が仕事した形跡があるものに、
ぼくらは驚くんですよね。
この『リンドバーグ』の絵でも、
つるつるの写真みたいな絵だったら、
ぼくはこんなに説得されなかったかもしれない。
- トーベン
- 微妙なバランスが必要なんですよね。
あんまり、写真のような
ディテールに走ってもいけないし、
かといって、あんまりぼやかして
抽象的なほうに行き過ぎてもいけない。
その点、『リンドバーグ』の絵には
独自のリアリズムがあると思ってます。
リアルな存在感と、
人の手が描いているという感じと。
- 糸井
- どっちがいいとか悪いとかじゃなくてね。
- トーベン
- そうですね。
たとえばコンピューターグラフィックにも、
人間を感じさせる可能性というのは、
やっぱりあると思います。
でも、その場合には、それをつくる側に、
かなり情熱的なディレクターが必要です。
ピクサーの作品においても、
その情熱は絵の質感によって
表現されているわけではまったくない。
ストーリーだったり、
全体のアート性みたいなところに
ぼくらは感動して、
ピクサーの映画を評価しているので。
だから、もしも『リンドバーグ』が
映像作品になるとしたら、
そういったところを大切にしたいですね。
- 糸井
- 絵本とはまったく別のものだけど、
すてきな表現ができた、
というふうになればいいわけですよね。
- トーベン
- そのとおりです。
- 糸井
- いやあ、しかし、最初に出した絵本で、
こんなに、ああもできる、こうもできる、
って思うことってそんなにないんで、
このことをこうして話してること自体が、
なんか、このちいさなネズミの物語を
引き継いでいるような気がしますね。
- トーベン
- ああ、たしかにそうですね(笑)。
いや、今日は、すごくいいイメージを
いただいたと思います。
- 糸井
- こちらこそ、この本には影響されましたよ。
なんというか、読んでいて、
子どもになりました、ちゃんと自分が。
- トーベン
- すばらしいです。
- 糸井
- 自分の存在を、このネズミの大きさまで
ちいさくしてもいいわけですからね。
それでも、希望が語れるわけで。
ほら、世の中の大人たちは、
このページに表現されているような
話ばっかりするじゃない?
だから、くたびれちゃうんですよ。
- トーベン
- たしかに、多くの人が、自分の取り巻く世界を
こういうイメージで持ってるんですよね。
怖くて、危険で、制約がいっぱいあって。
「世の中は危険でいっぱいだ」って
言い続けるんですよね。
- 糸井
- でも、この場所から「飛べる」わけで。
- トーベン
- はい。
このネズミ取りに囲まれているシーンは、
最後の仲間に囲まれているシーンと
完全に「対(ミラーイメージ)」で描いてます。
- 糸井
- ああ、ほんとだ。見事、見事ですね。
いや、今日は、自分の気持ちが
たっぷり伝えられましたし、
訊きたいこともたくさん訊けました。
- トーベン
- ありがとうございました。
- 糸井
- このあと、
日本ではどんな予定になってるんですか?
- トーベン
- 東京の滞在は今日で終わりで、
これから京都に行きます。
実は今日、ジブリ美術館に行ってきたんです。
- 糸井
- ああ、そうですか。
- トーベン
- ぼくは宮崎駿さんのファンなので。
すごく影響を受けています。
- 糸井
- 言われてみれば、たしかに感じます。
とくに空からの視点は、
宮崎さんの作品にものすごく多いですから。
- トーベン
- はい。宮崎さんの、空から見下ろして、
うわーって広がるシーン、
大好きなんですよね!
- 糸井
- とてもよくわかります。
絵本の中に、たっぷり入ってますね。
宮崎さんには会えたんですか?
- トーベン
- 残念ながら会えなかったんですが、
絵本ができたときにじっくり読んでいただいて、
褒めていただいたという話を聞きました。
- 糸井
- ああ、そうですか。
会って話せるといいですね。
‥‥あ、そういえば、ぼく、
『となりのトトロ』の
お父さんをやってるんですよ。
- トーベン
- ???
- 糸井
- ドイツ語の吹き替えで観てたら
あんまり意味がないかな。
ええと、すみません、説明してくれる?
- トーベン
- (通訳の説明を聞いて)
!!!!
- 糸井
- ははははは。
今日はどうもありがとうございました。
ぼく、本にサインしてもらっちゃおうかな。
2015-09-14-mon