第1回 「ワーク・シフト」という考え方。
糸井
リンダさんは「はたらく」ということを
長く考えていらっしゃると思うのですが、
ぼくがはたらくことをはじめて意識したのは
こどものときでした。
そのいちばんの理由が、
「はたらきたくない」だったんです(笑)。
リンダ
あらまぁ(笑)。
糸井
リンダさんは、
こどものときから
はたらきたいと思っていましたか?
リンダ
思っていませんでしたね。
というよりも、こどものときは
はたらくことをとくに意識していませんでした。
糸井
はたらくことを意識していなかった。
‥‥それはたとえば、
ご両親が仕事をしている姿を見て、
「いずれはじぶんも
 こうしてはたらくことになるんだ」と
イメージしたりしなかったということでしょうか?
リンダ
はい。
そもそも、こどものときには
父がどんな仕事をしていたか
知らなかったんです。
糸井
こどもはみんなそうですよね。
リンダ
そうだと思います。
糸井
ところがぼくは、
父親が毎日はたらきに出かけるのを見て、
「かわいそうになぁ」って思っていたんです。
ぼくは家で寝たり、テレビを見たりして
たのしく遊んでいられるのに、
父親は仕事に行かなくちゃいけない。
将来、じぶんも
そんなふうにしなきゃならないんだと思ったときに、
かなしくなって布団の中で泣いたことがあるんです。
リンダ
泣いてしまったんですか(笑)。
わたしが糸井さんのように思わなかったのは、
こどものころに見ていた父親の姿が
ちがったからかもしれません。
たいていの場合、イギリスにくらべて
日本の父親は長時間はたらきに出ています。
糸井
ああー。
リンダ
わたしの父は午後6時には家に帰宅して、
それからボートに乗ったりしていました。
だからといって、
父は遊び人だったわけではありませんよ(笑)。
糸井
ええ、そうでしょう。
そうかぁ、リンダさんは
「いずれはたらく」ということに
夢をもっていられたんですね。
リンダ
そうですね、
将来はたらくことは
ポジティブに受けとっていました。

そのことが将来にどうつながるかは
わかっていませんでしたが、
わたしはものをつくるのが好きなこどもでした。
そして、いまも
ものをつくることが大好きなんです。
たとえば、
原稿を書いて本を生みだしたり、
ロンドン・ビジネススクールの
プログラム編成をしたり。
2005年には
「ホットスポッツムーブメント」という会社も
たち上げました。
わたしにとって、
仕事とは「ものをつくること」なんです。
糸井
ああ、それはよくわかります。
リンダさんとおなじように
ぼくも要は、ものをつくるのが好きなんですよ。
こどものころは
あんなに「はたらきたくない」と思っていたのに、
いまは仕事をするのが、たのしくてたのしくて。
リンダ
ええ、糸井さんのお顔や社内を見ただけで、
たのしんでらっしゃるのが伝わってきますよ。
糸井
じぶんでも、
どこで考えが変わったんだろうと‥‥。
リンダ
ものをつくることや、生みだすことは
やっぱりたのしいんだと思います。

たとえば、
わたしが前に書いた『Hot Spots』という本では、
スペインのチョコレート職人とコラボレートして
「その本に書いたアイディアの味がするチョコ」を
つくってもらいました。
その仕事も、とてもたのしかったです。
糸井
「アイディアの味がするチョコ」ですか!
それはおもしろいですね。
そういうふうに、ぼくも
あらゆる概念は形になると考えています。
リンダ
そうですよね。

あと、仕事だけでなく、
わたしは趣味で絵を描いたり
家をつくったりもしています。
糸井
へぇー、家を!
‥‥そういえば、ぼくはいま、
ツリーハウスのプロジェクトに
かかわっているんですよ。
「100のツリーハウス」というプロジェクト名で、
東日本大震災で被災した東北地方に
100個のツリーハウスをつくろうと
思っているんです。
リンダ
ワォ!
わたし、ツリーハウスが大好きなんです。
糸井
ええっ、そうなんですか。
(資料を広げながら)
現在つくっている最中のものも含めて、
いまは5つくらいのツリーハウスが
東北の地に建てられています。
リンダ
わぁー、すごい。
これが100個できたら‥‥
パラダイスですね!
糸井
そんなによろこんでもらえるなんて、
うれしいです。
ツリーハウスのプロジェクトは、
つくっているぼくらの遊びでもあるし、
たのしみでもあるんですよ。
そして、100個つくることで、
リンダさんのように
ツリーハウスが好きな人とか
「なんだかおもしろそう」と感じた人が
ほかの地域や国から
見に来てくれるんじゃないかと考えて、
進めているところなんです。
リンダ
ええ、もう、ぜひ行きたいです。

わたしはこれまで、
日本の社会では
たのしみながら仕事をすることは
むずかしいのかと思っていました。
けれど、
このツリーハウスのプロジェクトでは、
かかわっている人が
たのしみながら仕事をしている。
すばらしい取り組みですね。
糸井
ありがとうございます。
リンダさんは
著書『ワーク・シフト』のなかで
いままでのはたらき方の考えを
転換することで、
明るい未来が切り開かれると
おっしゃっていました。

もしかしたらこのプロジェクトが、
東北にとっての「ワーク・シフト」に
なるかもしれません。
リンダ
なれると思いますし、
そうなることをわたしも願っています。
(つづきます)
2014-09-12-FRI