[佐伯]
あのね、化粧品業界って女社会なんです。

[糸井]
ええ、そうですよね。

[佐伯]
ところが、「上」にいるのは全部、男なんですよ。

[糸井]
あ、そうか‥‥。

[佐伯]
わたしは男と女が仕事する、そういう場所に長い間いたんです。

[糸井]
はい。

[佐伯]
女の人のいやな面もいっぱい見ましたし、男の人のいやな面もいっぱい見ました。
わたしは、この業界に長くおりましたけれども、いわゆる「一匹オオカミ」でやってきた、というところがあります。
というのも、女ひとりで生きていくとき、男に頼らないといけないという構図が小さいときから、いやだったからです。
ですから、とにかく独立したいと思ってました。
そのために、自信を持ちたいと思いました。
だから、ほんとうに人に媚びず、手を揉まず、ひとりでやっていこうとしたんです。

[糸井]
こうやってチズさんとお話しすると、そうなさってきたこと、わかります。



[佐伯]
仕事仲間はもちろんいますが、この業界では友だちを作りませんでした。
だから、いまこうして客観的な立場に立って化粧品のいろんなことについて知ることができますし、いろいろなことを話すこともできるんです。

[糸井]
言い放題ですよね(笑)。

[一同]
(笑)

[糸井]
おっしゃるとおり、依存する場所があればあるほど、人は弱くなりますから。

[佐伯]
そうなんです。
なにかしら、失くしちゃ困るものが出てきますので、どこにも所属したくなかったんですよ。

[糸井]
はい。

[佐伯]
話を「男女」のことに戻しますけども、男の人って、ほんとうにどの大学を出ているか、出身はどこか、現在の肩書きはどうなのか、ということを大切にされる方が多いです。
でも、化粧品業界にいたわたしはこう思ってました。
「そんなことよりも、男はヒモになれ」



[糸井]
あ(笑)、それ、わかります。

[佐伯]
でしょ?
このことができていた、つまり、
「女の使い方」がすばらしかった男性は、わたしが見てきたなかではひとりしかいませんでした。

[糸井]
あ、ひとりいたんですね。それはすごい。

[一同]
(笑)

[佐伯]
いたんですよ。
大学を出てるわけじゃない、高校卒業の学歴を持つ方でした。
だけど、仕事の成績はいつも上位です。
最終的にどこかの会社の社長になって、引退されましたけども、とにかく、女性の使い方がすばらしくて、まさしくヒモで‥‥

[糸井]
それはすごいですね。

[佐伯]
さきほど言いましたように、化粧品業界にいるのはほとんどが女性で、デパートのカウンターにいるのも女性です。
女の子を使うときに、どういうふうにするかというと‥‥

[糸井]
というと‥‥

[佐伯]
その方は、なんにも言わないんです。
お昼と夕方にあらわれて
「今日、何食べに行きたい?」
「してほしいことあったら手伝ってやるよ、 何やったらいい?」
「これ、差し入れだよ」
そういうことしか言わない。

[糸井]
うん、うん。

[佐伯]
月末になると、数字の話になります。
そういうときはこっちから
「いくら欲しいの?」と訊くと、「300万」。
そうやって、地方で9ヶ所ぐらい周れば、2700万の売上があがります。
だから彼は、常にトップだったの。

[糸井]
それはたしかに優秀なヒモ‥‥(笑)。

[佐伯]
「みなさんのおかげで、 家族が食べさせていただいて、 ありがとうございます」
彼は、そういうことしか言いませんでした。
よく、豚もおだてりゃ木に登る、と言いますでしょ?
男の人にはヒモに、女の人には豚になりましょう、ということなんです。
女の人というのは、のぼってくれるものなんです(笑)。
なぜなら、女のほうが、男気があるから。



[糸井]
そうですね。

[佐伯]
「どうしてほしいの?」「あ、そう」
そのひと言で、ひとりにみんなが協力的になってくれるわけです。
ですから、女の人はどうぞ覚悟して、豚になってほしいと思うんです。
ただ、豚になることはそう簡単じゃないかもしれません。
もし、豚になれない人がいたら、
「あなた、何か背負ってるんじゃない?」
「一所懸命やってると、 人が喜んでくれるのよ」
「そしたら、あなたのほうを みんなが向いてくれて、 もっといろんなことを してくれるようになるからね」
会社にいた頃は、そういって指導してきました。
プライドや、背負っているものをいったん横に置いてみるといいんです。

[糸井]
あのね、さっきからうちの社員たちがすごくうなずいているんですよ。

[佐伯]
ねぇ?
つづきを読む

前へ 次へ
目次へ    
友だちに教える
感想を送る
ほぼ日のTOPへ