[日比野]
僕がいま、人の力を掘り出して、プロデュースアートのようなことをしている部分があるとすれば、ワークショップなのかもしれません。
そこには不特定多数の人たちがやってきます。

[糸井]
うんうん。

[日比野]
いま、横浜でダンボールの船(FUNE)をつくるワークショップをやってるんです。
みんなで船の表面に色紙を貼っていくんですが、ワークショップというのは、みんなに自由にやらせたい、けれども、自由にやったあげく、無茶苦茶になるのは見えてるから、自由にやってると思わせるようになんとなく仕向けていくというやり方をしたりします。
ワークショップでは、そこがおもしろいところだったりします。
会場には、僕含めてメインのスタッフが何名かいるんですが、そこで我々がなにやってるかと言うと、だいだい、お掃除です。
ものをつくると、散らかるんですよ。



[糸井]
ははは、なるほど!

[日比野]
現場が散らかると、参加者がどこでなにやっていいか、わかんなくなるんです。
だから、まずは掃除する。
僕らは掃除をしながら、
「あのへん、青系が欲しくなってこない?」
という気分になると、なんとなく、みんなのまわりに青色系を置いとくわけです。
あとは、
「いい感じになってきたけど、 こっちは人手が少ないなぁ。
 あっちの人の流れが多くなってきたから、 こっちから来た人を中に入れよう」
とか、交通整理という名の掃除の‥‥というか、罠を。

[糸井]
わかるわかる。

[日比野]
手の届くところに道具があると、みなさん、そういうふうに動くんです。
糊があると貼るんだな、ハサミが来たから切るのかな、というふうに。

[糸井]
のんびりした神様みたいな役だね。



[日比野]
ははは。で、人に言われるんですけど、ワークショップでできあがったものは、ひと目で、僕の作品なんです。
みんながつくったはずなのに。

[糸井]
ああ、なるほどね。

[日比野]
僕ひとりじゃ、そんなものはつくれない。
つくる時間も根気もない。
けれども、のべ100人の人たちが来るとすんごいものができるわけですよ。

[糸井]
日比野くん自身はそこに
「オレにはできないな」
というものを探すのも、うれしいわけでしょ?

[日比野]
そう。
「みんな2センチくらいで切ってね!」
と言って切ってもらっても、
「お前の2センチそんなかよ」
って言いたくなるような子どもが。

[糸井]
はははははは。

[日比野]
「ええ!?」って、びっくり。
みんなに四角く紙切ってもらってもオレはこんなふうに切らないけどなぁ、というのがあったりして。

[糸井]
それはすごい、喜びなんだよねぇ。
掃除って言葉、ぴったりだな。
僕はもともと、フリーで生きてきたから、会社にいる人は多くて3人か4人だったの。
いま、「ほぼ日」は40人います。
40人いるなかで、オレは結局、掃除してる。
掃除と、あとは、邪魔だね。

[日比野]
邪魔(笑)。

[糸井]
みんなで、固まって会議してるところに、後ろから、指で浣腸を打ち込みにいくみたいなことです。

[日比野]
みんな「あいてててて」と。

[糸井]
それで、不意に出てきたものを目ざめさせるんです。
昔のクリエイターだったら、もっとワンマンだったでしょう。

[日比野]
ええ、全コントロールして。

[糸井]
でも、それはもうない。
憎らしさも残しとかないといけないからね、というくらいのところで、社長はやっていくとおもしろいと思う。

[日比野]
そうですね。

[糸井]
そのおもしろさは、とっくにみんなが知ってたことだよね。
夜中にふと、社員全部が、オレより偉く見えることだってあります。

[日比野]
うんうん。

[糸井]
「このやろう!」って気持ちもあります。
だけど、赤ん坊やら犬猫だって、オレよりかっこいいな、とか思いますからね。
オレが一所懸命汗水垂らしてやってきた余計なことっていうのが、全部邪魔だったっていう気さえします。

[日比野]
はははは。



[糸井]
それに気づいてから、オレはまたおもしろくなったねぇ。
飯食うためのいろな仕掛けは、ベテランの職人がつくんなきゃなんないこともいっぱいあるけどね。
でも、日比野くんはそこにわざと石を置いたりする仕事もできる。
それがアートワークだとも言えるんだと思う。

(つづきます)


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