[糸井]
きっと、日比野くんはよっぽど悔しい時期があったんじゃないでしょうか。

[日比野]
それこそ、美術がどういう役割を社会の中で担っていくの? みたいな大きな話を、考えた時期があったわけです。

[糸井]
うんうん。

[日比野]
そうやって考えていくと、美術って、もっともっといろんな世の中のいろんなところに必ずくっついてるんですよ。
くっついてなきゃいけないと思うんです。

[糸井]

[うん。]

[日比野]
スポーツにも今日のおかあさんの夕飯の盛りつけにもアーティスティックなものがくっついていると僕は思います。
芸術って、急に明治以降の南蛮渡来な感じで来たから、学問的なものから入ってしまったけど、まったくそんなことはない。
そういうことを言えるようになりたいと自分では思っているんです。
みんなが「ほんと、そうだね」って、地に足着いて言えるように、社会の中に美術が機能しててあたりまえ、というようにしたいんです。
美術が日常生活になるような、いろんな提案や仕掛けを、‥‥きっと本来そうあるべきだったんだと思うんだけど、どんどんやっていきたいんです。
旗つくって、サッカー応援しようみたいなこともそうだし、僕はそんなことを次々にやっている、そんな感じがします。

[糸井]
それは、考えてみると、価値ということと関係のないアートなんでしょうね。



[日比野]
うーん。うん、そうかもしれない。

[糸井]
日比野くんの作品はアートマーケットにのっかってないんだし、素人が集まってつくっていくものは純粋な「日比野」という名前がつかないから、取引はされないでしょう。
社会の中のどこにでも美術がくっつくということは、
「価値ってなぁに?」という問いかけでもあるよね。

[日比野]
そうですね。
ダンボールではじめた時点で黄金に対する抵抗ですからね。

[糸井]
うん、そうだ。

[日比野]
ダンボールは、時間に対しても物質としても永遠不滅である黄金とは対照的な存在です。
ダンボールは、どちらかといえば黄金を守ってあげて
「わたしは犠牲になるから、 あなたは生き延びて」
というもんですよね(笑)。

[糸井]
そうだね。

[日比野]
実は、どんどん朽ちていく運命のダンボールというものを作品にしていくのは、本当は
「作品」としては致命的なことなのかもしれないんです。
美術館でコレクションをされるかされないか、判断されるときには、必ずコレクション委員会のようなものがあって、
「ダンボールって100年もつのか?」
みたいな話になるわけですよ。
つまり、保存修復の問題で。



[糸井]
ああ。そうなのか。

[日比野]
まあ、これはオレが考えることじゃないんですけど、もしほんとに保存したい人がいたら、ダンボールだって、いまの技術を持ってすれば保存修復なんていくらでもできるんです。
だけど、なんだか方向性として、美術の価値っていうのは、時間を止めようというほうに向かってここまで来た歴史があります。
油絵の具を開発したのも、フレスコ画が、長い時間を経ても色あせないようにしようとしたからだし、ほとんど全ての画材がそういう要望から生まれてきています。

[糸井]
それは、価値中心の考え方だよね。
だけど、CDで保存されている歌も、車に乗ってるときに、友だちが助手席で歌ってくれる消えていく歌も、歌としてはおんなじだから。

[日比野]
うん。

[糸井]
そこまでのことをみんなほんとはわかってるんですよ。
価値のおかげで商売ができるんだけど、そうじゃないところで、みんなが実はたのしんでる。
それを、おんなじ平面に無理にでも2つ、置きたいです。

[日比野]
うん。価値を交換しようと思うときに、お金じゃない混ざり方ができてる気がするんですよね。

[糸井]
僕のやっているのはインターネットで、基本的に、読者はタダです。

[日比野]
うん。

[糸井]
だけど「いやぁ、たまには金払わなくちゃ」
「何で払おうかな」という人が物を買ったっていいと思う。
そんな感じの人もいてくれるんじゃないかな、と思うんです。
日比野くんの展覧会だって、大きく見れば、市が援助してたりすることだってあるでしょう。
場所に対して、そこの地域の人たちが税金を払ってるんです。
みんなが無意識で、日比野くんの展覧会を応援してるということにもなる。
そういう複雑な価値の交わりがたのしいんですね。



[日比野]
愛知県の一宮市がある予算をどういうふうに分配するかで出してたアイディアがあります。
ひとり658円の支援額を、自分で決められる制度があるらしいんです。
(市民が選ぶ 市民活動支援制度)
10票もらったら、6000円くらいがもらえるんです。
そういう予算のかけかたも、この考えと似たようなところがあって、いいなぁと思って。

[糸井]
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