[糸井]
宮本信子という、大好きで、認める女優がそばにいてこの人を活かせるのはオレだ、と伊丹さんは思ったわけですよね。
ご自分の出演については、すでに、『お葬式』のときには、外されました。

[宮本]
それはもう、無理だと言ってました。
ぜんぜんそういう気はなかったです。

[糸井]
撮る側にいたかったんでしょうか。



[宮本]
そうだと思います。

[糸井]
『お葬式』の企画ができてからは、監督として生きていくわけでしょう。
最初の準備段階から、もうずっと「監督」ですよね?

[宮本]
脚本の段階がまずあって、それから製作会社やプロデューサーを決め、打ち合わせをします。
大切な「予算」が決まります。
玉置さんにも出資してもらいましたし、うちも出してる。
失敗したら、もうできません。

[糸井]
はぁあ、なるほど。

[宮本]
たいへんだったと思いますよ。
伊丹さん、高校時代は
「アンデルセン」
というあだ名だったんですって。
困ったときにこそ、案が出る、アンデルセン(笑)。

[糸井]
ははは。



[宮本]
とにかく安くしなきゃいけない、全部自分でやっていかなくちゃ、という枷がずいぶんある状況で、いっちばん、考える人ですから。

[糸井]
うん、伊丹さんのそういうところがぼくは大好きです。
「ほぼ日」という集団で仕事をはじめた頃、ぼくもあらゆる会議で
「それ、タダでできないか?」ととにかく言ってました。
「タダ」という条件がついたら、あとは案しかないんですよ。

[宮本]
そうですよね。

[糸井]
『お葬式』を湯河原のご自宅で撮影するなんていうことも、案そのものです。

[宮本]
だって、お金がないんですから。

[糸井]
ですよね。

[宮本]
子どもも出したんです(笑)。



[糸井]
子役も雇わなくていいし、スタジオ借りなくていいわけですから(笑)。

[宮本]
そんなの、借りたらできませんもの。
ほんとにつくりたいんだったら、そうしようよ、って。

[糸井]
お金貯める日々って、結局はもったいないんで、一歩踏み出すためには、タダでできることを考えていくべきだ、という方法は、アリだと思います。

[宮本]
これは鉄則みたいなものだと思うんですが、
「映画は、絶対に 自分の金を出してはいけない」
と当時、よく言われました。

[糸井]
だけど、伊丹さんちは出しちゃいましたよね。

[宮本]
うちは出しちゃいました。

[糸井]
でも、ほんとはいけない。

[宮本]
はい。自分で出すとたいへんです。
だけど、私なんかは
「いいじゃありませんか、 つくりたいもの1本つくって失敗したら、 また元に戻ればいいじゃない」
なんて、そういう考えでした。
「やりましょう」
「じゃあ、やろう」



(続きます)


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