第5回 悪夢が我々にくれるもの。

[池谷]
わりと最近、2004年ぐらいだったでしょうか、『ネイチャー』という雑誌に発表された実験をみなさんに紹介したいと思います。
数列の問題です。
ここに入るのはどんな数字でしょう?



[糸井]
むむむ? なんでしょう?
とんちですか?

[池谷]
とんちじゃありません。
じっと見ていればわかると思います。

[糸井]
うーーん。9だ。違うか?
意外に7とか(笑)。

[池谷]
数学的に厳密にいえば、穴埋めの問題というのは、正解はないんです。
しかし、法則から推測すると、正解は9になります。
こういう問題をものすごくたくさん解いてもらう実験がありました。
ごらんとのおり難しい問題ですので、考える時間を8時間与えることにしました。
「8時間後に答えてください」
といって、たくさんの問題をたくさんの人にやってもらったんです。
ただし、3つのグループに分けて調査をしました。
●Aグループ 朝に問題を見せて、8時間考えて、 8時間後に答えてもらう。
●Bグループ 夜に問題を見せて、8時間睡眠をとって、 朝に答えてもらう。
●Cグループ 夜に問題を見せて、朝答えるが、 徹夜で8時間考えてもらう。



[糸井]
はははは。Cはつらい。

[池谷]
ですね。実際、成績がぜんぜん違います。

[糸井]
へぇ!

[池谷]
朝に問題を見て8時間かけて考えたAグループの正解率は、だいたい20%くらいです。
そのくらい難しい問題ばかりです。
徹夜で考えたCグループも、実はAと同じで、20点くらいでした。
僕は、徹夜組の点数は減ると思ったんですけどね。
でも、寝たBグループは、60点取れました。

[糸井]
ええええ?!寝た人って努力してないわけでしょう?

[池谷]
そうです。
本人の意図で考えたわけではない。
なのに、すごいですよね。
この結果から、考えられることはもしかしたら睡眠中って、情報をあれやこれややってるんじゃないかな、ということです。
ただ「覚える」んじゃなくて、睡眠中に「考えている」。
そこで、ひとつの仮説が浮かびます。
さきほどのネズミの実験で申し上げた、記憶の再生についての話では、ABCDの順番で再生すると言いましたが、実験によれば、脳はときどき、変なことをやることがわかっています。
ABCD、ではなくACDB、なんていう形で再生するんです。
つまり正しい順番で出てくるわけじゃなかったりする。
ときには、ABCFとか、まったくちがうものが出てきます。

[糸井]
F?

[池谷]
どうやら脳は、特定の目的のために、厳密に再生しているのではなくて、なんとなくパーツを使いながら、あれやこれや組み合わせている。
それで、Fのときは、きっと奇天烈な夢を見ているんでしょうね。

[糸井]
そうですよね、だってFは、関係ないものだし‥‥。

[池谷]
そうです、関係ない。
そうやって記憶にアクセントを加えながら整合性を取っていっているという働きがあるのですが、実はこれが、いわゆる
「気づき」を与えてるんじゃないかと思います。

[糸井]
なるほど。

[池谷]
ふだん起きていてものを考えている我々としてはABCDは、ABCDでしかないんです。
でも、寝ているときには、ABCFのような、ヘンテコなことが起こる。
きっと悪夢でしょうね(笑)。
でも、そうすることで、「ああ、なるほど」と気づくことがあるんです。
つまり、脳にとっては、睡眠の役割が3つあって、まず、「記憶の定着」です。
それから、時間的に離れた事象をくっつけたり、三段論法やったりする「論理思考」。
そして、もうひとつは
「閃きを与えてくれる」こと。
この発見をいろんな方向の話に発展させていきましょう。



(つづきます)


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