第6回 Fは寝なくてもやってくる。
[糸井]
眠っているあいだに閃きを与えてくれるのは、浅い眠りの、いわば「夢」の状態ということですね。
[池谷]
夢というものは、日常、昼間に起こったことが組み合わさっているんですが、組み合わせ方がものすごく奇天烈です。
[糸井]
関係のない要素であるFは、急にどこかから降ってきたものではなくて、きっと、ほかの日のCDEFという経験をした日のオマケとして、自分の中からやってきたんですね。
[池谷]
そうです。
[糸井]
Fは、自分の中にあるのに自分を壊してしまうくらいに強烈にわいて出てきたものですね。
整合性の取れている社会に生きる自分がいて、整合性の取れないものを見たときに反応する何か。
そういうことこそが、芸術との出会いだと僕は思っているんです。
[池谷]
なるほど。
起きているときは意識していて、深い眠りは無意識の世界‥‥。
つまり、浅い眠りって、臨界点なんですよね。
[糸井]
そうですね。
古代の人が壁画を描いた洞窟の中、あちら側とこちら側の境目ってことですよ。
‥‥いやぁ、Fの話はわくわくしますね。
昼間、僕らが何かものを考えるときに意識的にやってるのもそういうことです。
[池谷]
何かアイデアを生まなくてはいけないようなときには、
「これとこれをくっつけてみようか」
なんて、一見関係なさそうなものをくっつけることがあります。
[糸井]
池谷さんが、いろんな論文の文言をパソコンのスクリーンセーバーにして常に流しているということをお聞きしたことがあるんですが、それも意識的に組み合わせを生もうとしているんですね。
[池谷]
本来ならば、寝ている間にしか起こらないことを起きてる時間にもやってしまおう、ということでしょうか。
そのことと関連する話を、ここでさせていただきたいと思います。
寝る、ということとちょっと離れるかもしれないのですが、──というより、大胆に言ってしまうと、
「寝なくてもいい」という説が実は出てきているんです。
[糸井]
それはまた、どういうことなんですか。
[池谷]
寝る前よりも、寝た後のほうが試験の出来がよくなる話をしました。
その場合、睡眠時間は3時間ぐらいから効果が出はじめます。
そこで今度は
●3時間寝るグループ
●起きているグループを作り、いくつかのパターンに分けて試験をしました。
テレビを見ていたり、人と会話していたり、とにかく普通に行動して起きていたグループの試験結果は、やはりちゃんと寝たグループに比べて劣ります。
ただ、起きているグループにもうひとつグループを作りました。
●暗くして、ただ椅子に座ってもらうグループです。
実は、その実験が難しくて、人は、暗い部屋で何もしないと、寝ちゃうんですよ(笑)。
ですから、脳波を取ってその人が寝そうになったら人力で起こしにいくんです(笑)。
そして、驚くことに、暗い場所にいた人は、寝なくても試験の成績が、ちゃんとよかったんです。
[糸井]
へええ! これは、またおもしろい。
[池谷]
おそらく、必要なのは、ほんとうのことを言っちゃうと、睡眠そのものじゃないのかもしれないです。
それは何かというと、情報をシャットアウトすることなんです。
[糸井]
おお。すごいな。
[池谷]
これが証明されはじめたのが2〜3年前です。
暗闇でじっとして、何もしないでいると、寝ているときと同じような信号のリップルが、目覚めていても起こる。
どんどん起こる。
これが、もしテレビを見ていれば、ダメなんですね。
[糸井]
いやぁ、いいな、これは。
おもしろいなあ。
[池谷]
外からの情報をシャットアウトしなければいけない。
外からの情報がない場合に、睡眠中と類似したリップルの活動がはじまるんです。
ABCFも、ちゃんと起こります。
じゃあ寝なくてもいいのか、という話になっちゃうと、そこは話は単純ではありません。
人間って、起きていると何かしちゃうんですよ。
テレビを見たり、歩き回ったり、
「じっとしていられない」という、妙な、へんちくりんな癖が人間にはあるから、
「お前ら寝とけ」という意味で睡眠を取らないといけないのかな‥‥。
[糸井]
起きて何もしないでボーっとしてるって、けっこうできない。つらいでしょうね。
しかし、眠らなくても眠ったときと同じような脳の活動ができるというのは、ひとつの朗報ですね。
[池谷]
はい。
「睡眠は、記憶の定着に重要らしい」
という話をすればするほど、眠れない日がつづいたりしたらきっと不安になるでしょう。
しかし、寝なくてもいいわけですね。
部屋の電気を暗くして、じっとして情報をシャットアウトすればいい。
「眠れない」と焦る必要はまったくないってことです。
ただ、眠れないからと、部屋で本を読んじゃってはダメ。
眠れなかったら、むしろ開き直っててもらって、ただ情報を遮断すれば、睡眠と同じだけの効果が得られるってことです。
もちろん、これはきっと、記憶という側面に限って言えることなんですが。
(つづきます)
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