第7回 あなたの眠りに「甘い点」をつけよう。

[井上]
生き物は、眠りというものを充実させながらうまく管理する技術を備えながら、大脳を大きくしてきました。
眠りというのは、大脳をうまく働かせるためにあると、言い尽きちゃうほどの機能なんですね。
ですから、眠りを大事にしないということは、要するに自分の大脳の管理を放棄するというほど、極論すればそういうことになるわけですね。
そういうことを大脳が指令して言うこときかせようというような思い上がりがありますしね。
それが裏目に出ちゃって一所懸命努力するわりには報われない。
報われないどころか、逆効果になるというか、そういう因果関係が、できちゃうんですね。
ですから、もう少し素直に自分は生き物としてつくられてるんだと。
機械と違う高等な性能によって管理してるんだ、と。
自力で自分を管理して治せるし、うまく働かせることもできる、と。
それは要するに自律機能として、本来備わってるものですね。
そういうものを、我々はどちらかと言うと本能だとかレベルの低い動物的な何かだと多少バカにするんですけども、それは、進化の長い歴史の中で、もまれながら、もっとも、安定した形でできている、非常に安全な、故障しにくい装置なんですね。
ですから大脳が壊れたって生命は維持できるほど、意識のないほうの脳はしっかりよくできてるんですね。
その脳がちゃんと出してくれてる指令を押さえつけて、こっちの方が偉いんだというような形でコントロールしようというと、はじめのうちはうまくいきますよね。
ある程度、高級な機能が備えてある物体なんですから、それなりのことは、できます。
けれど、長持ちしないですね。
生き物の本質的なものを否定して長い間ツケが来ずに済むわけないですから。
結果的には長い目で見ると自分自身を損なうということになっちゃうわけでしょうね。

[糸井]
一番睡眠のことを研究なさってきた井上先生がそうおっしゃるとすると、
「何も考えないほうがいいんだ」というのに、近くなっていきますね。

[井上]
そうです。
結果的には、正しく知っていて、何も考えない、気にしないという方向へいかざるを得ないんですね。
ところが、いまグルメの方、一所懸命調べて、情報に詳しい人がいっぱい増えて。

[糸井]
そうですね。

[井上]
それゆえに、もっとしなきゃいけない、というふうに、反対の方向になっています。
正しい方向に行きそびれちゃったんですね。
ある程度時間が経てば、そうなると思うんですけど、いま、20世紀後半から、21世紀にかけての、この時代は、睡眠に対する誤解の元に睡眠の関心が高い時代、ということでしょうね。
睡眠をちゃんと知って、睡眠を楽しんだり、あるいは、大事にしたりということは、結局あまり気にしないということですね。
究極の何とかを手に入れなくても、これで合格点なんだと、非常に甘い点をつけてそれで、うまく健康を保つような、そういう考え方になると思うんです。
いまは、これじゃダメで、もっとこっちの方も、こっちのいいものを手に入れなきゃというんで、一所懸命、眠りを壊しています。

[糸井]
大きくはやっぱり生産性への幻想が強すぎるということなんでしょうね。

[井上]
そうですね。
生産性を高めるためにも眠ることが大事だという、そういう認識もまだちょっと不足してるでしょうね。
要するに、眠りによって脳が支えられてる。
眠ればより脳は性能がよくなる。
より、よく働く。
より、かしこくなる。
そういう認識がまだちょっと不十分ですね。
言ってみれば眠らないと働かないとか、バカになるとかそういった考え方の方が大きいんじゃないでしょうかね。



[糸井]
そうやって、一番、日本でも世界でも有数の眠りについて考えてきた方がおっしゃることっていうのは、何も考えなかったのと一緒になってしまうという、この逆説が、おもしろいんですけども、先生ご自身の眠りっていうのは、どんなふうに認識なさってますか。

[井上]
わたくしはね、結局やっぱり、眠りというのは、起きてるときの活動を支える一番大事な要因だと思いますから、結果的には、眠りを自分なりに自分で一番いいような形で取るように心がけたつもりではいます。
というのは、現役のときは、ものすごく忙しくて寝る時間を十分確保できなかったから、結果的に短い眠りで、しかもその機能を果たすためには深い眠りということですね、質のいい眠りを短く取る。
そうすると長い間起きてても、もつという、そういうパターンでしたね。

[糸井]
それは意識的に何かなさったことはあるんですか。

[井上]
結局、昼間しっかり起きててそれから規則的な生活をすることです。
食事にしろ、なんにしろ、あんまりずらさないということですね。
時差ぼけになったときは別ですけど、一般に生活してるときはあまり生活の時間割を変えないということですね。

[糸井]
つまり、起きてる方の時間をコントロールするというか、しっかりされるということですか。

[井上]
はい。それが結果として眠る時間をコントロールすることになるんですね。
結局お互いに因果関係、言ってみればフィードバックの関係がありますから。
メリハリということですね。
これが高けりゃこれが低くなる。
そのパターンをどうするかと言ったとき現代人みたいに忙しくて時間のない人は、短い眠りを深く取らなければ、つりあわないと。
だから、その短い眠りを深くちゃんととれば、起きてる時間を長くして活動レベルを上げられる。
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