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[糸井]
監督も野球も正反対だったみたいですけど、セントルイスとフィラデルフィアという街もずいぶん違ったみたいですね。

[田口]
ああ、そうですね。違います。
街が違うし、ファンが違う。



[糸井]
ブログを読んだかぎりでは、濃いというか、厳しいというか。

[田口]
そうですね。
前の、セントルイスのカージナルスファンは、メジャーリーグ30球団のなかでもいちばんいいファンだと言われているんです。
逆に、いちばん厳しいといわれてるのがフィラデルフィアのファン(笑)。

[糸井]
戸惑いましたか。

[田口]
最初はやりづらかったです。
ブーイングばっかりですからね。
応援してるチームにも、ブーイング。

[糸井]
なんでしょう、そういう発散のしかたをする人たちなんですか。

[田口]
そうです。
「そういうのが俺たちスッキリするし」
っていうような感じですね。

[糸井]
そういう風土なんだね。

[田口]
一人ひとりしゃべると、いい人なんですよ。
試合のあと、球場を出て、何人か残ってる人たちにサインしてると、
「なかなか試合に出られないけど、 オレはおまえの野球大好きなんだよ」
とかって言ってくれたりね。
「試合に出てくるの待ってるよ」とか、そういうことを言ってくれる人が多いんですよ。
ちょっと、酔っぱらいが多いですけど(笑)。



[糸井]
なるほどねぇ。
いやぁ、月並みで、年寄りじみた言い方だけど、この1年間って、いい経験でしたねえ。

[田口]
いや、本当、よかったと思いますね。

[糸井]
自分で選んで進んでたら、ふつう、味わえないですよ。

[田口]
おもしろかったですね。
最後、シーズンが終わって、フィラデルフィアからセントルイスまで嫁とクルマで行ったんですけど、フィラデルフィアから離れるときに、
「楽しかったなぁ」ってふたりで言いましたから(笑)。
「いい街やったなぁ」という結論でフィラデルフィアをあとにしたんです。

[糸井]
いいですねぇ。これから先、野球を辞めてからの人生も長いですから、そっちの栄養にもなってますよねぇ。

[田口]
ああ、そうですね。

[糸井]
シーズンが終わると、野球からはいったん離れるというか、頭が切り替わる感じなんですか。

[田口]
そうですね。どちらかというとぼくはその切り替えが早くできるタイプで、シーズン中も、球場から出たとたんに
「ただの人」になっちゃうんです。

[糸井]
ほかの選手はそうじゃないんですか。

[田口]
そうじゃない選手のほうが多いと思いますね。
私生活にも野球を引きずっちゃったり、あるいは、アメリカではプロスポーツ選手ってすごく尊敬されるので、意識して、ふだんの自分の行動や発言にすごく気をつけてたり。

[糸井]
なるほど。その点、田口さんは、ゴミ出しとかふつうにしてそうですよね(笑)。

[田口]
ゴミ出し行け、と言われたら行きます。

[糸井]
うん。そんなにおいがします。

[田口]
はい(笑)。



[糸井]
で、それはとても大事なことだと思ってますよね、明らかに。

[田口]
はい。

[糸井]
そこがなくなっちゃったら一所懸命、野球やっててもダメだよみたいな、そんな気持ちすら、感じますね。

[田口]
そうです。
ぼく、野球場にいるとき以外は、ふつうの人たちとなにも変わらないふつうのパパですから。
パパであり夫なので、やるべきことはやるし、分担できることは分担したほうがいいし。

[糸井]
きっと、そういう姿勢も含めて
「いいな」と思ってくれる人がチームの中にいるってことなんでしょうね。

[田口]
ああ、そうかもしれません。

[糸井]
きっと、そういうふだんの気持ちって、野球にも表れるなにかなんですよ。
はぁ‥‥いや、すごい旅をしてますね。

[田口]
はい(笑)。



[糸井]
これ、日本にずっといたら、この話、全部ないんですもんね。

[田口]
ないですね。

[糸井]
そう思うと、ものすごい差がありますね。

(つづきます)
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