[南]
あのね、古い床屋さんが、うちの前にあって。
もう亡くなったんだけど、そこのおじいちゃんがとってもおしゃべりだったんだ。
[糸井]
うん。
[南]
おじいちゃんと、その息子と二代でやってる床屋でね。
あるとき、オレがそこで息子のほうに刈ってもらってたら、おじいちゃんが、客のおじいちゃんとふたりでおしゃべりをはじめたわけ。
[糸井]
ああ、いいね。
床屋で、おじいちゃんどうし。
[南]
それを聞いてたらね、床屋のおじいちゃんが
「なんとかちゃんはさ、 なんとかって病気になったんだよね?」
って訊くんだ。で、お客のおじいちゃんが、
「そうなんだよ」って。
そしたら床屋のおじいちゃんが
「でも、痛かったりはしないんでしょ?」って言うわけ。
「ああ、痛かぁねぇんだよ」って答えると、
「痛いのは、ヤだよねぇ、 そんならいいやねぇ」なんて言うの。
[糸井]
うん。
[南]
で、しばらくすると、床屋のおじいちゃんが、
「なんとかちゃん、どうなの最近?」って言う。
「いや、まぁ、べつに。
持病はあるけど、昔からだからさ」って言うと
「でも、痛かないんだよね?」ってまた訊くんだ。
[糸井]
あはははははは。
[南]
で、「うん、痛かねぇんだ」って。
オレ、聞きながら「さっき言った」ってつっこんでんだけど、おじいちゃんたちは、
「痛かねぇんだ」
「そんならいいや‥‥。
痛いのはヤだけどねぇ」って、ずっと言ってる。
[糸井]
小津映画ですね。
[南]
そうそう(笑)。
[糸井]
いや、たしかにオレも年を取ったけど、まだ「何度も同じ話を繰り返す」
というところには行かないね。
[南]
ああ、オレもそうだな。
「さっき言ったからなあ」って思っちゃうよね。
[糸井]
そこは行かないね、まだね。
しかし‥‥いずれ行くかね?
[南]
行くんだろう。
[一同]
(笑)
[糸井]
でも、「繰り返す話に相づちを打つ」っていう練習はしてるよ。吉本(隆明)さんのところで。
[南]
ああ、なるほど(笑)。
[糸井]
「でも、痛くはないんだ」って繰り返したら、
「ああ、痛くないですよねぇ」っていい相づちを打ってるよ。
[南]
吉本さんは、わりと、年を取るまえからそういう繰り返しを‥‥。
[糸井]
やっちゃうね(笑)。
[南]
むかし、吉本さんの講演会に行ったときにね、いちばん前の席で聞いてたら、オレの隣に座ったやつが吉本さんの話を聞きながら、
「それ、さっき言ったじゃないか」
なんて言ってんだよ。
なんてやつだ、と思ってさ。
[糸井]
(笑)
[南]
そりゃ、言ったかもしれないけど、何回言おうがいいじゃないかと思ってさ。
[糸井]
そうだね。
さっき言ったに決まってるよ、吉本さんなんだからさ(笑)。
[南]
同じこと言いますよ、そりゃあ(笑)。
[糸井]
それは全部、受け止めなきゃ。
[南]
うん、うん。
(つづきはつづきをつづけていく)
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