[糸井]
伸坊は、誰かにおごられたり、なんかもらったりしない?

[南]
オレは、あんまりないなぁ。

[糸井]
誰からも?

[南]
うーん。
そうねぇ、思い出せないなぁ。

[糸井]
なんかない?



[南]
はははははは。
「なんかない?」って、おやつじゃないんだから。

[糸井]
なんかない?

[南]
いや、あるとは思うけど、そうだね‥‥子どものころの話だけど。

[糸井]
うん。

[南]
なんかね、汽車に乗ったとき。
どこへ行ったのかなぁ? ま、とにかく、汽車に乗ってたの。

[糸井]
うん。

[南]
夜でね。
で、知らない人が前に座ってる。
ふたり連れぐらいの感じでね。

[糸井]
そのふたりは、なにかくれそうだね。

[南]
そのうちのひとりが、カバンから、こう‥‥バナナを出す。

[糸井]
おお、いいねぇ!

[南]
ははははは。

[糸井]
くれたんだ、バナナ。

[南]
いや、そう簡単にはいかない。

[糸井]
あら、そう。

[南]
「バナナだ!」って、オレは思ったんだけど、
「バナナだ!」と思って見てるとさ、欲しがってると思われるじゃない?



[糸井]
欲しがってるんだろう?

[南]
欲しがってるんだよ。
だから、困るじゃないか。

[糸井]
そうなのか。
まぁ、いいや、それで?

[南]
バナナを欲しがってる子どものオレは、バナナを欲しがってると思われないように、いきなり、寝ちゃったわけ。

[糸井]
ははははは、いきなり。

[南]
寝た。いきなり、寝た。
もう、いびきまではしないけど、こうやって、絵に描いたみたいに寝たわけだ。

[糸井]
うん。

[南]
そしたらね、頬にヒヤッとしたものが触る。



[糸井]
(笑)

[南]
目を開けると、
「ハイ」って、バナナを渡される。
そのときの、ほっぺたのヒヤッとした感覚がねぇ。

[糸井]
忘れられない。

[南]
うん。冷やしてあるわけじゃないから、あれは冬だったんだね、きっとね。

[糸井]
いくつぐらいのとき?

[南]
中学生くらいじゃないかなぁ。

[糸井]
わざとらしかったんだろうな、急に寝たのが。

[南]
ははははは。向かいの席の人たちは、
「いままで起きてたのに急に寝たな」
って思ったんだろうね。

[糸井]
「バナナ見た瞬間に寝たぞ」ってね。

[南]
うん。

[糸井]
バナナは催眠作用があるからね。

[南]
ないよ。

[糸井]
ないね。



[南]
そのころのバナナはね、まだ偉かったですよ。

[糸井]
うん、バナナってごちそうだった。

[南]
ごちそうだったよね。それが、いつごろからかなぁ?

[糸井]
見向きもされなくなったねぇ。
「そそり立つ果実」。

[南]
お、バナナのコピー?

[糸井]
「そそり立つ果実、バナナ。」‥‥さ。

(つづきます。まだまだこれから)


前へ 次へ
目次へ    
友だちに教える
感想を送る
書籍版「黄昏」
ほぼ日のTOPへ