[南]
天狗の話の続きだけどね。
[糸井]
ぜひ、やってください。
[南]
あの、ドライアイスをね。
[糸井]
ドライアイス?
[南]
うん。やっぱり天狗だけに、登場したときに、霧がこう、漂ったりしてるといいなと思って、ドライアイスを買おうとしたのよ。
[糸井]
ああ、なるほどね。
こう、モクモクさせようと。
[南]
そうそう。
で、現地で調達しようと思って調べたら、なんか、葬祭センターで買えるらしい、ということになって。
[糸井]
あ、つまり、お葬式用の。
[南]
そそそそ、お葬式でご遺体を。
[糸井]
なるほどね。
[南]
で、そこに行って、突然、
「あのー、ドライアイスを5、6キロください」
って言うとね、ギョッとされて、
「‥‥なにするの?」って言われるわけだ。
[糸井]
ははははは。
死体でも隠し持ってるのか、と。
[南]
そうそう。
おばちゃん、怪訝な顔してるからさ、しょうがなく、説明するわけ。
「いや、これからね、迦葉山に、 天狗になりに行くんで」と。
[糸井]
ははははは。
[南]
「こう、登場するときに、 霧がモクモクしてたほうがいいかなと思って」、
「‥‥天狗?」。
[糸井]
(笑)
[南]
で、迦葉山のお寺に行ってね、断られるだろうなと思ったんだけど、ダメもとで、お坊さんに、
「そこで天狗になって写真撮っていいですか」
って、訊いたらばね、
「かまいませんよ」と、こうくるわけ。
[糸井]
いいね(笑)。
[南]
でね、天狗になるにもさ、顔、塗ったりなんだり、いろいろやんなきゃいけないからさ、
「なんかこう着替えたりしたいんですけど、 場所貸してもらえますか」ってお坊さんに訊いてみたわけ。そしたら、
「そのへんでやればいいじゃないですか」って、そっけなく言われちゃって。
男なんだし、みたいな感じでさ。
[糸井]
うん、うん。
[南]
じゃあ、っていうんで、裏っ側の広めの廊下みたいなところで、こう、顔、真っ赤に塗ってね、鼻もつけて、衣装も着て。
で、天狗になって出て行ったら、
「おおおおー」ってものすごく驚くわけ。
[糸井]
はははは、クオリティー高いからね。
[南]
そりゃそうだよ。
[糸井]
素人じゃないからね。
[南]
何年やってると思ってんだ。
[糸井]
ははははは。
[南]
お金もらって、天狗になってんだから。
[糸井]
ははははは。
[南]
もう、さっきのお坊さんなんかは、完全に態度が変わっちゃってるわけ。
ま、ある意味、そのお寺のご本尊だからさ。
[糸井]
そうか、そうか。インドの人たちが牛を大事にするのと同じようなもんだ。
[南]
そうそう。だからね、
「あそこの鐘のあたりで 写真撮ってもいいですか?」なんて訊くと、
「どうぞ、どうぞ」ってなもんでさ。
[糸井]
(笑)
[南]
「楼閣に上がりたいんですけど」なんて言うと、
「もう、どんどん上ってください」と。
[糸井]
なにしろ、天狗だからね。
[南]
天狗だからさ。もう、大威張り。
そのうち、ドライアイス買ったときの葬祭センターのおばちゃんなんかも見物に来ちゃってさ。
[糸井]
「天狗になるって言ってたけど、 ほんとかしら?」って。
[南]
で、天狗のオレを見て、
「まぁ、上手、上手!」って(笑)。
[糸井]
「上手」(笑)。
[南]
近所のおばちゃん3人ぐらい連れてね。
あれは、なかなかたのしかったな。
[糸井]
いい経験だねぇ。
それで、幼稚園行って、子どもおどかして。
[南]
そうそう。いろいろやりましたよ、天狗は。
ふと、木にのぼってみたりさ。
[糸井]
ははははは。
[南]
消防署なんかに行くとさ、消防車が停まってるわけだよ。
で、消防車って真っ赤だからさ、
「ちょっと乗ってみようかな」って思ってね。
[糸井]
赤いものつながりで。
[南]
赤いものつながりで。
オレもおまえも真っ赤だし、ってことで。
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