[南]
あのー、日光に着いたときにはさ、オレは昔、眠り猫になってたって言ったじゃない?
[糸井]
ああ、はい、はい。
あと、天狗にもなられていたと。
[南]
うん。でね、さっき、今回の旅の予定を見たんだけれどもね、驚いたのは、行く先々で、オレは過去に、なにかになっているんだよ。
[糸井]
え、この先も?
[南]
うん。
[糸井]
ええと、明日は、松島に行くんだよね。
[南]
松島で、私は以前、松尾芭蕉になりました。
[糸井]
はははは。なにしたの。芭蕉は、松島で。
[南]
松島には、有名な句があるじゃない?
「松島や ああ松島や 松島や」っていう。
[糸井]
はいはいはい。
[南]
あれがね、どうも調べてみると、芭蕉が詠んだわけじゃないみたいで。
松島には、じつは芭蕉の句がひとつも残ってないらしいんだ。
それで、残したほうがいいかなと思って、まぁ、俳句をいくつかひねりましたね。
[糸井]
その、ありがたい句を、うかがってよろしいでしょうか。
[南]
うん。ええと、あのー、あれ? なんだっけな?
「松島‥‥」うーん、ちょっと‥‥。
[糸井]
忘れちゃってるわけね(笑)。
[南]
まぁ、なんか、松島にちなんだ俳句をね、いくつか詠んだはずですよ。
[糸井]
芭蕉になるってさぁ、要するに、茶人みたいな格好するわけ?
[南]
茶人というか、お坊さんの格好ですね。
[糸井]
あ、お坊さんか。
[南]
うん。で、松島で芭蕉になったときはね、同じホテルに、お坊さんの団体客がたくさん泊まってたんだ。
するとさ、ほとんど、おんなじじゃん、格好が。
[糸井]
芭蕉と坊主が(笑)。
[南]
芭蕉と坊主が。
だから、せっかく芭蕉になってるっていうのに、ホテルじゃ、ぜんぜん目立たなくて。
[糸井]
ははははは。
[南]
あれはちょっと、参ったね。
[糸井]
「木を隠すなら森の中」理論でいうと、芭蕉を隠すなら、お坊さんの団体客の中。
[南]
絶対、そうするべきだね。
‥‥あ、そのときに詠んだ句を思い出しました。
[糸井]
はい、どうぞ。
[南]
「松島は 岩のかたちが ヘンですね」。
[糸井]
はははははは。
[一同]
(笑)
[南]
そういう句をね。
[糸井]
けっこうですなぁ(笑)。
[南]
うん。
[糸井]
よく思い出したね、それ。
[南]
「松島は」。
[糸井]
「岩のかたちが」。
[南]
「ヘンですね」。
[糸井]
ははははは。
その、礼儀正しい感じがいいですね。
[南]
うん。
[糸井]
それ、誰に言ってるんですかね。
[南]
やっぱり、松島の人を喜ばそうとしたんじゃないですかね。
[糸井]
芭蕉が?
[南]
うん。
「どうです、松島は? 初めていらっしゃって」
「松島は‥‥岩のかたちがヘンですねぇ」
っていうのを、まぁ、句にしたわけです。
[一同]
(爆笑)
[糸井]
そのまんまですね(笑)。
[南]
ま、俳句って、そういうもんですから。
[糸井]
わ、ほんとに、芭蕉が言ってるみたいだ。
ありがたいなぁ。
[南]
「本人」ですから。
[糸井]
あの、今日行った、華厳の滝なんかは、霧でまったく見えませんでしたけど。
[南]
見えませんでしたね。
[糸井]
見えないながらも、芭蕉ともなれば、それをいとも簡単に詠むんでしょうね。
[南]
詠むんでしょうね。
えーと‥‥。
[糸井]
五七五の最後の五は
「見えません」ですかね。
[南]
あ、結論としてね。
「華厳の滝」っていうのは、五のところに入れると字余りになるね。
[糸井]
ってことは、二個目に入れるしかないですね。
「華厳の滝は」とか。
[南]
で、「見えません」と。
[ふたり]
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