[糸井]
そもそも、どうしてぼくがガロに関わるようになったかというと、ええと、どこが最初になるのかな‥‥。



[南]
もともとはね、ぼくが、湯村輝彦さんにマンガを描いてもらいたかったの。
で、あるときに、安西(水丸)さんを通じて湯村さんにお願いをしてみたら、
「自分はマンガのアイデアはないから、 糸井くんといっしょだったらやるよ」
っていうような返事をいただいたんだ。
でも、そのときまだぼくは、糸井さんのことをぜんぜん知らなかった。
それで、どこかで会ったんだよね。

[糸井]
新宿で会ったんだよ。新宿の喫茶店で。

[南]
ああ、そうだっけ?

[糸井]
湯村さんとオレがいて、そこに伸坊がやって来たんだよ。
おにぎりの顔をして。

[南]
30年以上前だね。

[糸井]
これがドラマなら、その新宿の喫茶店の場面から第1話がはじまるところだよ。



[南]
お、いいね。
誰が誰の役をやるんだろう。

[糸井]
まぁ、伸坊の役は、伸坊以外できないだろうから、伸坊が「本人」として。

[南]
え、そこも「本人」なの?

[糸井]
うん。

[南]
南伸坊は「本人」にならなくてもそもそも本人だよ。

[糸井]
だから、「南伸坊=南伸坊(本人)」ってクレジットされるわけだよ。

[南]
せっかくだから、誰かにやってほしいね。

[糸井]
じゃあ、おにぎりにしよう。

[南]
おにぎりはセリフをしゃべれないだろ。

[糸井]
「南伸坊=おにぎり(本人)」。

[南]
おにぎりは本人じゃない。

[糸井]
あのとき、オレとおにぎりは、いくつ?

[南]
ええと、たしか、1976年だから、33年前か。ってことは‥‥28歳。

[糸井]
オレが27歳か。はー。



[南]
あの当時、糸井さんと湯村さんはふたりで絵本とか出してたけど、オレは湯村さんにも糸井さんにも初対面だったんだよね。

[糸井]
あの、新宿の喫茶店で会ったときが。

[南]
うん。

[糸井]
湯村さんはもう、最初からやる気だったんだよ。
当時のガロはノーギャラで、単行本になったり、儲かったりしたらギャラが出るっていう感じだったじゃない?

[南]
そう、そう。

[糸井]
その、ノーギャラだってわかっててやる仕事っていうのが当時は妙に気持ちよかったんだよね。
とくに湯村さんはそういうのをおもしろく受け取る人でさ。
湯村さんから「やる?」って誘われたから、
「もちろんやりますよ」って答えて。
で、新宿で伸坊に会うっていうから湯村さんといっしょに待ってたんだ。
そしたら伸坊がやってきて、打ち合わせしたんだけど、まぁ、要するに、
「なんでもいい」って話でさ。

[南]
あはははは。

[糸井]
最初にオレが考えたのは、『スケベの国のアリス』っていうマンガでね。
どういうお話かっていうと、自分のお尻に手を入れていくと、こう、自分が、まったく裏返っちゃうという設定なんだ。

[南]
はっはっはっはっ。

[糸井]
人間が、ペロンっとまったく裏返っちゃう。
そこから、話がはじまるっていうのを考えてたんだけど、まぁ、絵も難しいし。

[南]
難しいね、それは(笑)。



[糸井]
ぼくにとっては絵に描けないようなことを考えるのがおもしろかったんだよ。

[南]
で、けっきょくそれが、のちの『ペンギンごはん』シリーズになる。

[糸井]
うん。

(ふつうに興味深い対談に。つづきます)


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