[糸井]
ドラマや歴史の流れとまったく違うところにひとりだけ、大泉洋さんが妖精さんのような役どころとして、歴史的事実のなかをフィクションとして飛び回ってますよね。
[三谷]
はい。
[糸井]
あの人だけすごく特殊な立場で。
『新選組!』で中村獅童さんが演じてた捨助なんかも同じような位置づけだったと思うんですが、ああいう存在は、三谷さんの発明といっていいんですかね。
[三谷]
まぁ、あのー、なんていうんでしょう、すごく簡単にいってしまうと、どうしても南極のタロとジロのシーンを入れたかったんですよ。
[糸井]
ははははは。
つまり、昭和のトピックスをドラマの中に散りばめるうえで‥‥。
[三谷]
そうです。
ほんとは、あの時代のトピックスをあますところなく盛り込みたかったくらい。
なかでも、タロとジロの話は欠かせなかった。
[糸井]
『南極物語』という映画にもなりましたけど、若い人は知ってるのかな。
********************タロとジロ1956年、南極観測隊が犬ぞりをひくためのたくさんの犬を連れて南極を調査しました。
ところが1958年の観測の時、悪天候に見舞われ、犬を連れて帰れず、犬を残したまま帰国せざるをえませんでした。そして、1年後、観測隊が南極を訪れると、なんと2頭の犬が駆け寄ってきました。それが、タロとジロ。2匹の奇跡の生還は当時、日本中で大きな話題となったそうです。
********************
[三谷]
で、その話をドラマに盛り込むとき、主人公の一家のなかで、誰が南極に行くんだろうと考えたときに‥‥。
[糸井]
誰も行かないよね(笑)。
[三谷]
行かないんですよ。
というか、ふつうの人は南極に行かない。
[糸井]
行かない、行かない(笑)。
[三谷]
じゃあ、逆に、そういう人をひとりつくっておけば、歴史のどこにでも入り込めるんじゃないかと思って。
それで、ああいう人を。
[糸井]
それで‥‥まぁ、言いませんけど、大泉洋さんは、波瀾万丈な人生を送ることに。
端的にいうと、ものすごく転職しますよね。
[重岡]
10個以上、変わってると思います。
[一同]
(笑)
[三谷]
あの、最初に衣装合わせに行ったとき、ものすごい量の衣装があったそうです。
[糸井]
ははははははは。
主人公の一家のところから逃げ出したときに、なんとなくそういう予感はあったんですけどね。
[三谷]
でも、南極まで行くとは思わなかったでしょ。
[糸井]
思わない、思わない(笑)。
[三谷]
しかも、あの南極のシーンは撮影がいちばんたいへんだったそうです。
[糸井]
あーー(笑)。
あれは、どこですか。
[重岡]
北海道の稚内です。
このドラマの全体のクランクアップは去年だったんですけど、今年に入って氷が張ったところでようやくあのシーンを撮影できました。
[糸井]
ひどい(笑)。
[三谷]
はっはっはっはっ。
[重岡]
すごく、短いシーンなんですけど、死ぬ思いで撮ってきたと言ってました。
[三谷]
脚本家は2行書くだけなんですけどね。
「タロとジロに別れを告げる大泉洋」
って書きゃいいだけなんです。
[一同]
(笑)
[糸井]
ひどい(笑)。
[三谷]
はっはっはっはっ。
[糸井]
いやぁ、そうかぁ。
それほどまでに三谷さんはあのエピソードを入れたかったんだ。
[三谷]
欠かせないんですよ、あの時代を描くとき。
[糸井]
あと、糸川英夫さんの話。
[三谷]
ああ、そうですね。
糸川英夫さんのことも絶対入れたかった。
糸川英夫さん航空工学、宇宙工学を専門にし、日本の宇宙開発、ロケット開発の礎を築いた工学者。
国や企業にロケット開発の重要さを説き、ペンシルロケットの発射実験を行った。
[糸井]
うん。糸川英夫さんに対して脚本家の強い思い入れがあるのが、観ていてわかりました。
[三谷]
そうですか(笑)。
[糸井]
あれは、きっと三谷少年の思いですよね。
[三谷]
ああ、そうですね。
このドラマを最初にイメージするときに、青空にペンシルロケットが飛んでいく画がまず、最初に浮かんだんですよ。
だから、ぜひ入れたかった。
あとは、コメディアンの古川ロッパさんと、作家の永井荷風さん。
古川ロッパさん昭和の時代を代表するコメディアン。
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