[糸井]
Y字路の写真を撮りはじめたときから写真集にしようと考えてたんですか?



[横尾]
もともと「東京人」という月刊誌で写真の連載をしてたんですよ。
途中から、写真集にならないかなぁと思ったりね。

[糸井]
ご自分で思ったんですか。

[横尾]
うん。でも、こんなの、本で出してくれる人はいないだろうなぁと思って。

[糸井]
じゃあ、撮ってる最中にはそういうことは考えてなかったんですね。

[横尾]
撮ってる最中はとにかく人がいなくなるのを待つことに、全精力をかけてるという感じだったからさ。

[糸井]
へぇえ。
けっこういろんなとこに出かけてますよねぇ。

[横尾]
‥‥あのね、糸井さんね。

[糸井]
はい。

[横尾]
道がさ、2本あるじゃないですか。
Y字路だからね?
たまたま片方の道に人がいなくなっても、こっち側にも道があるんですよ。
両方、人にいなくなってもらうっていうの、大変なことなの。
あんまり辺鄙なとこがないのよ、ぜんぶ東京だからさ。



[糸井]
この写真集は、ぜんぶ東京ですよね、うん。

[横尾]
とにかく人が多いのよ。

[糸井]
はい。

[横尾]
夕方の買い物の時間なんかになるとね、商店街なんか、人がいっっっぱいになるんですよ。
それでも、いっせいに、どういうわけか、みんながお店にバッと入っちゃうときがあるわけ。
ひとりも残らずだよ?
なんで人がいなくなる瞬間があるのか、不思議ですよ。
それはたった一枚しか撮れない。
次の瞬間に、向こうから自転車が来たり、撮ってる横からバイクがバーッと行く。

[糸井]
そうか‥‥考えてみれば。

[横尾]
そうなんですよ。
最初の頃の写真にはね、人はいたわけ。

[糸井]
あ、そうなんですか。
そういう歴史が。

[横尾]
うん。だけど、撮ってるうちに
「人がいないほうがいいなぁ」と思って。
それから、人を消すようにしました。



[糸井]
「Y字路」の絵を描くための資料だとしたら、人が入っててもいいわけなんでしょうけども、これはそうじゃない。
待たなくちゃいけないんですね。

[横尾]
最初の2か所か3か所で写真に人が映り込んでいたときは、
「じゃまっけだな!」と思った。
だけども、撮影の日はいろんな場所を回るから、時間的にも、人なしの写真は撮れないな、とあきらめてたんです。
だけど、どうしてか、何枚かが人なしで撮れたわけ。
そうしたら、ただあとはもう、忍耐力だけだからさ。
ぼくが忍耐持たなきゃ撮れないけども、まあ一応、忍耐を試してみようという感じでさ。



[糸井]
横尾さん、意外にそういうときになると、忍耐力とか、出ますよね(笑)。

[横尾]
あのね、ぼくはせっかちだし、飽きっぽいし、別に忍耐力はないんです。

[糸井]
はい。ふだんは、そういう話ばかり‥‥。

[横尾]
ぜんぜん、忍耐力はありません。
だけど、このときは、待つことは平気だった。

[糸井]
きっとそれは、言い換えれば、表現力ですよね。
「人がいたんじゃイヤなんだよ」
ということでしょう?

[横尾]
そう。
そこに人がひとりでも入っちゃうと、もうそれは、
「表現のある作品」にならないわけ。
作品意識はそんなになかったんだけどもさ。

[糸井]
「そんなものは、オレの写真に したくないんだよ」
ということでしょう?

[横尾]
うん。
そう思ってると、人がいなくなる瞬間ができるんだよ、不思議だね。

[糸井]
それは、横尾さんが乞い願ってるからですね。

[横尾]
別に神頼みはしてはいないけれども、
「とにかく消えてほしいなぁ」
「あの人、早くもう、道曲がらないかな!!」
とか、そういう思いがとにかくあるよ。



[糸井]
ははは。

[横尾]
この場所だったらこの場所で、人がいない写真は一枚しか撮れません。
この一枚を撮った前後には、必ず人が入ってるんです。

[糸井]
夜の写真もありますけれども、夜に出かけていってるんですか。

[横尾]
それは、あちこち行ってるあいだに夜になってしまったから。

[糸井]
そんな長くいるんですか。

[横尾]
うん。3時くらいからはじめて、最後は夜になる。
だから、いろんな時間の写真があるでしょう。

(続きます!)


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