[糸井]
時間も光も関係ない。
だけど「写真に人が入っていない」
というルールを、横尾さんは守り続けたんですよね。

[横尾]
うん、最後までね。
でも、いるんですよ、実際は。

[糸井]
え? 見あたらないけど?

[横尾]
よく見ると人が写ってるんです。
うんと遠くにね。



[糸井]
(写真集をめくる)
だって、イヌネコもいないですよ。



[横尾]
いや、ネコとイヌだけは許したの。

[糸井]
え? そうなんですか。
写真集の中を探せばネコとイヌはいますか?

[横尾]
ネコが2匹います。

[糸井]
そうなんですか。
‥‥ネコとイヌだけは許した。ははは、じわじわとおかしい(笑)。

[横尾]
許したの。
ネコとかイヌはむしろ写ってもらいたかったんだけどもね。
でも野良犬は東京にいないのよ。
だから人が連れているので人が入るのがいやだからイヌは写ってない。
ネコはひとりで歩いているからその点はいいね。

[糸井]
人間がひとり写っただけでもう、人のところに目がいっちゃいますから。

[横尾]
うん。だけどね、さっきの白く飛んだ写真に人が写っているんですよ。

[糸井]
‥‥ほんとですか?

[横尾]
うん、もうこれはしょうがない。
ここにいるわけ。
ぜんぜん動いてくれないの。

[糸井]
ははははは、いる!



[横尾]
人がいるだけで、こんなに笑ってくれるなんてうれしいね。
これね!
この人、ぜんぜん、こっちにも来ないし、向こうにも行かない。
立ち止まっちゃったわけ。

[糸井]
立ってる(笑)。

[横尾]
もうひとりいるんだよ。
この人が家の前にいてさ、
「いったいなにしてるんだろう!」って不思議に思ったんだけど、ぜんぜん動かない。
全く営業妨害だよ!

[糸井]
ははははは。

[横尾]
だけどこれはね、糸井さんね。

[糸井]
はい。

[横尾]
ここで(人間をはずして)
トリミングしちゃえばいいわけでしょう。



[糸井]
ええ、そうですよ。

[横尾]
だけどそうしたら、つまらないでしょう。

[糸井]
はい、はい。

[横尾]
やっぱりそのまま消えてもらいたかった。
だけども、これはしょうがない。
これともう1枚にだけ、写真に人が入ってるんです。

[糸井]
そうかぁ‥‥。

[横尾]
この人、なにしてるんだろうね?

[糸井]
いやぁ、なにかな?

[横尾]
歩いてくるように見えるけど、ちがうの。
ずーーーーっと立ってんの。
道のど真ん中で、こっち向いて。
なにか、考えごとしてんのかなぁ!
相手はいないんですよ?
ひとりだけで。



[糸井]
もしかしたら横尾さんを見てたんじゃないですか?

[横尾]
いや、そうとう距離あるもん。

[糸井]
なんでしょうね?

[横尾]
ぼくが撮ってるすぐうしろが踏み切りなんだよ。
その踏み切りが上がっちゃうと、ドーッと通行量が増えちゃうわけ。

[糸井]
大変な場所ですね。

[横尾]
踏切が上がる寸前にみんな消えてしまった、これはその瞬間なの。
そういう場所なんですよ。
すっごい人が多い場所なの、ここは。

[糸井]
この写真からは、そんな気配はまったくないですよ。

[横尾]
(別のページをめくる)ここはね、最初からそんなにいなかった。
(前のページに戻る)これはいっぱいいた。



[糸井]
一個一個、やっぱり思い出になってるんですね。

[横尾]
まぁね。
思い出というほどでもないけどもね。
記憶してるだけ。
(続きます)


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