[糸井]
Y字路を撮影するとき、今日はどこに行こうかな、というような予定はあるんですか。
[横尾]
ありますよ。
今日は墨田区行こう、とかね。
そしたら墨田区の地図を持っていくの。
[糸井]
地図でまず、三角になってるところを‥‥
[横尾]
そう、全部チェックしていくわけ。
Y字路ってね、意外と集中してるんだよ。
[糸井]
へぇえ。
[横尾]
Y字路がひとつできると、その周辺に2つ3つできる。
そういう構造になってるみたい。
[糸井]
斜めの道がまじっちゃうわけだから、ほかの道でもとりつくろわなきゃならないんですね。
[横尾]
ま、わかりやすいのは、ニューヨークのタイムズスクウェアだね。
あそこは碁盤の目になってるけど、1本ブロードウェーがバーッと斜めに走っただけで、そこにY字路がたくさんできる。
[糸井]
そうか、そうか。
[横尾]
そういう目で探していくわけ。
だから、ひとつY字路を発見すると芋づる式にどんどんどんどん増える。
ここに立つとこっちも撮れる、うしろ側も撮れる、みたいな感じで、1回で2〜3カ所撮れる場所もあるんですよ。
[糸井]
地図で見つけられるって、想像つかなかったです。
Y字路をある程度知ってて、そこに出かけてるのかと思ってました。
[横尾]
だけど、出かけたとしてもY字路のルックスがよくないと撮らないけどね。
[糸井]
「Y字路のルックス」って、最初はことばとして、なかったでしょうね。
やってくうちにだんだん
「いいY字路だ」とか「これはいまいちだ」とか、わかってくるんでしょうか。
[横尾]
そう。でもね、選り好みしてるとダメなの。
結局、撮るよりしょうがないわけよ。
絵の場合は、まぁ、真ん中に分岐点を描くでしょう。
ちょっと修正したりデフォルメしたり、真ん中の建物も、ぼくの好みに変えちゃったりもするわけ。
左右の通りに面した家並みを、ぜんぜん別のところから移植したりして架空の都市を作ることもある。
絵の場合はそういうことができるんです。
[糸井]
そうか、そうか。
絵ではそれをさんざんやってるんですね。
[横尾]
絵ではやってます。
写真でも、コラージュすればできる。
けれども、それをやると、写真じゃないからね。
[糸井]
そうですよね。
出かけてって、立って、待って‥‥いやぁ、横尾さん、よく続きましたね。
[横尾]
2年半撮ったからね。
雑誌の連載が終ってからも八王子から山の奥へも行ったから。
でも、こういうことは、なんの意味があるんだっていわれても、意味はないですよねぇ。
Y字路がどうした、っていわれたら。
[糸井]
「ほぼ日」には小さな写真コーナーがあって、ぼくはそこの写真をわりといいかげんに撮ってるんですが、家でパッと撮ったものをカミサンに
「そんなんじゃダメ。私が撮る」
と言われるときがあるんですよ。
そのときの気持ちのほうがカメラマンとして正しいなぁと思います。
ぼくはすぐに「済んだ済んだ」と言いたくなっちゃうんですが、Y字路に人を入れないようにガマンしてるあたりが、写真なんだなぁと思います。
[横尾]
うん、それだけよね。
[糸井]
それだけって(笑)。
[横尾]
ねぇ、これは何だと思う?
なんだか知らないけど、こういう黒いのが写るんですよ。
[糸井]
これは、ご自分じゃないですか?
[横尾]
自分のなに? 頭?
こんな大きい頭だったら大変だよ。
[糸井]
影じゃないですか?
霊魂?
[横尾]
黒い霊魂?
[糸井]
照明は焚いてらっしゃるんですか。
[横尾]
フラッシュだよ。
照明なんか持ってかない。
[糸井]
フラッシュなんですか?
カメラに付いてるやつ?
[横尾]
そう。カメラに付いてるフラッシュが落ちてあれは落ちるっていうの?
ああ「降りる」か? いや「上がる」か?
まぁいいや、フラッシュが、降りてくれるときと、降りてくれないときがあるんだよ。
[糸井]
くれるときとくれないときがある(笑)。
[横尾]
あるよ。
降りてくれるときは、カチャンって、メタルの機械がおでこにカーンと当たって、アイタタ! って言いながら撮るの。
[糸井]
‥‥‥‥ははははははは。
[横尾]
それで、フラッシュでバシャッと撮るわけ。
[糸井]
横尾さん、ひとりで動いてるわけじゃないですよね。
[横尾]
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