HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第3回 わたしの肩書きってなんだろう? 自分の仕事に名前がつけられない。
糸井 こんどはマーコの話をしようか。
うちの女性たちがマーコに会って
あがってるのを見て、
面白いなあと思ったんですよ。
ものすごくきっと魅力のある世界に
触れてるんだろうね、マーコは。
みんなが「そこを見たいんだ」っていうところを
見てる人なんだろうね、女の子たちにとって。
「え、マーコさんですか!?!?」って、
何ですか、その喜んでる感じは。
日笠 江原(啓之)さんに近いものがあるのかしら?
私、同時に「anan」でデビューしてるんです。
糸井 へぇー!
日笠 当時編集長だった淀川美代子さんが、
声をかけてくださって。
怪しいじゃないですか、こういう仕事って。
淀川さんがよく思い切ったなと思ったんだけど、
こんな怪しい私を「anan」がいいの?
みたいな感じですよ。
糸井 そんなふうに思うわけ?
日笠 うん、そう思うわけです。
こんなに勝手な解釈をしているとか、
自分でつくった相の名称とかであるとかに、
きっと反対意見もあったかと思うんですよ。
だけど、淀川さんはそういう意見に対して、
「日笠さんの手相の見方とか
 物の考え方が好きなので、
 いままでのものとは違うかもしれないけど、
 うちは日笠さんでいきます」
ってバシッと言ってくださったようで。
だから、ああ、こんな私のようなものを
ありがとうございますっていう気持ちです。
糸井 世の中には自分の仕事を
説明できにくいタイプの職業ってあるよね。
例えば大工さんだったら
自分の仕事を説明しやすいけれど。
何ていってるの? 自分のこと。
日笠 「手相観(てそうみ)」です。
「占い師とは違いますよ」って言いたくて、
しょうがなく、そう言ってるんですけど、
どこかでまだ抵抗がいまだに抜けないというか、
‥‥どこか恥ずかしいんですよ、この肩書きが。
私がまだ20代の頃に、糸井さんが、
「マーコは手相を観ることを仕事にすればいいんだ」
と言ってくださってからも、
7年、デビューできなかったんです。
糸井 一番得意なことだったっていうのは確かだよね。
日笠 うん、それは。だからそう、糸井さんが
「一番得意なことなんだし、
 みんなが一番喜んでくれることなんだから」
って。
 
糸井 当時からさ、マーコに観てもらうっていうのを
予約したりしてる人いたよね。
日笠 糸井さんがスケジュールとってくださったことも。
糸井 えっ? そう?(笑)
日笠 そう(笑)。
糸井 人から求められてるってやっぱり嬉しいことでさ。
それが仕事になってようがなってまいが、
もともと嬉しいことで。
それが仕事になったら一番いいじゃない。
日笠 そうですね。ただ、なんだかやっぱり
怪しい職業というふうな意識が
まだ拭い去れないというか、残ってるんですよね。
もっと堂々と「占い師です」と
言えちゃうことができればいいんだろうけど。
糸井 言えないところが好きなんじゃない? みんな。
日笠 言えないところが?
糸井 つまり、例えば僕がすっごく堂々と、
「僕はコピーライターです」って
言った時期は、ないんですよ。
やっぱりね、「なーにが!」って
気持ちがあるんです(笑)。
日笠 ああ、そうですか。へぇー!
糸井 うん。つまり、「コピーライターです」って
言ったときに、なんか‥‥
うまくいかないことだとか、
うまくいかせるまでに考えてる余計なことだとか、
そういうものがみんなこぼれちゃうような気がして。
職業名をパチッと言える人っていうのに対して、
僕、ちょっと抵抗あるんです。
日笠 だから、さっきの大工さんなんかいいですよね。
糸井 うん。大工さんはわかりやすい。
「家を建ててます!」みたいなね(笑)。
日笠 そうそうそうそうそう。
糸井 でも、もしかして大工さんの中でも、
「それだけじゃないんだけどな」
とか何か思ってる人はいるかもしれないよ。
ファッションデザイナーにしたってさ、
「ファッションデザイナーです」と言って、
「ああ、服作る人ね」っていうふうになるじゃない。
でも「えーー、俺って、そうだっけ?」って、
俺がファッションデザイナーだったら
思うと思うんだよ。
それは何だろうね。
どんな商売もみんなそういうとこあるんですよね。
だから、「何々が商売です」って
言い切るのは本当に難しい。
でも、思えばさ、非僧非俗、
お坊さんであってお坊さんでないと言った
親鸞さんだってさ、
「あんた何ですか。お坊さんですか」ったら、
僧じゃなくて俗でもないってところに
いるんだよという立場を
とってたみたいなとこがあってさ、
やっぱりこれでいいのだというところの
気持ち悪さが同時にあるじゃない。
日笠 うん、そうですね。それはそうかもしれない。
糸井 だから、どこかのとこで、
「私、何々です」っていうのを
パチッと言えないあたりにいて
やってる人っていうのが、なんか‥‥
日笠 でも、そういう人たちが、本物ですよ。
そうなれたら一番いいですよね。
だから、「糸井重里です」とか、
「美輪明宏です」とか‥‥
糸井 うん(笑)。
日笠 私がこれですって、職業よりも肩書きよりも
自分の名前でやっていけて、
その人を見るとその人がやってることが
すべて見えるようになるのが、
一番いいってことでしょうね。
糸井 一番いいでしょうね。そうですね。
その意味では、だから、
「手相観です」って仮の名前をつけたとしても、
「なんか、なんかちょっとダメなんですよね」
って気持ちは、すごくよくわかるよ。
日笠 だから「anan」なんかでも「ほぼ日」でも、
こんな怪しいものを堂々と呼んだりして
いいのかしらって思うんです。
糸井 怪しいからじゃないと思うんだ、それ。
つまりね、ファッションデザイナーだって
どこがいいのかなんて説明できないし、
「わー、すてき」って言ってくれる人がいなきゃ
成り立たないじゃないですか(笑)。
「素晴らしいんだよ、これは」と言っても、
だれも「すてき」と言わなかった場合にはさ。
日笠 うん(笑)。
 
糸井 だけど、「すてき」と言われることをあてにして、
なんか作ってるわけじゃない?
それは怪しくないかといったらさ‥‥
日笠 うん、怪しいですよね。
糸井 うん、選んで着てくれる人のおかげじゃない?
「私は何もやってません」とも言えるじゃない。
でも、そんなことはないよね。
あるいは、手品のタネ作ってる人なんかどうすんのよ。
人を騙すためにさ、毎日考えてるわけでしょ?
小説家だってそうじゃない?
僕はだから、マーコのやってることは、
小説家のやってることなんかに
近いんだなと思ってるんです。
同じように木が1本倒れてましたっていうのを
見たときに、木が1本倒れてるという事実は、
もうそれ以上動かしようがないんだけど、
人はいろんな読み方するじゃない。
日笠 うん。「木の倒れ方占い」、できますもんね。
糸井 でしょうね。
日笠 だから、プロファイリングじゃないけど、
そういう読み方はしてますよ。
糸井 ですよね。で、それは
怪しいか怪しくないかっていうことではなくてね、
みんな、読んでるんですよ。
日笠 そう、みんな、そうです。
糸井 みんな読んでるんです。
で、あらゆる人が読んでることを
もっと、得意としてる人がいるんですよ。
それがマーコなんだよ。
たとえば、ペットのしつけを、
みんなしてるけど、
ペットのしつけをする商売の人もいる。
小説家もそうで、男女がグシャグシャと
いろんなことをガチャガチャやってました、
っていうのだって、
みんなも、いろんなことやってんですよ。
でも、それをいろんなバリエーションで書けたり、
どういう感情を掻き立てるかとかってことを
考えられる人がいるってことなんだよ。
よしもとばななさんがまだ学生だったときに
タロットが上手だったんです。
みんな、よく当たるのよって言ってた。
それってなんでだろうってそのとき思ったんだけど、
結局、タロットで出てくるカードは、
逆さ向いてる何とかだとかが、
順番に出てくるわけでしょう?
だれがやったって出てくるカードは同じなのに、
なぜ、その人がやるとよく当たるだとか、
あの人のタロットはいいだとか、言うでしょう。
そこなんだよ。
日笠 そう。その読み取り方なんですよね。そうそう
糸井 うん。だから、「占い師」って言葉でいうと、
何か人に指示を出す人みたいに聞こえるけど、
「読み取る人」なんだっていう意味では、
小説家だとか天気予報士だとか。
日笠 そうです、そうです、予報士、そう!
だから、西洋で言われているように
「パームリーダー(Palm reader)」ならば、
そんなに恥ずかしくないんです。
糸井 パームリーダー。パーム(手相)を読む人。
日笠 「読み取り屋さん」なら恥ずかしくないんですよ。
私、子どものときからタロットとか占い関係は、
やっぱり得意だったんです。
多分‥‥わからないですけど、
もしかしたら、前世で
こういうことばっかりやってきのかもしれない。
だから今回はカッコいい仕事がしたかったんですよ。
糸井 YMOマネジャーとか?
日笠 YMOの初代マネジャーってカッコいいですよね。
糸井 カッコいいね(笑)。
日笠 よかったー!
 
(つづきます。)
2007-04-05-THU
Illustrated by 酒井うらら