糸井 |
こんどはマーコの話をしようか。
うちの女性たちがマーコに会って
あがってるのを見て、
面白いなあと思ったんですよ。
ものすごくきっと魅力のある世界に
触れてるんだろうね、マーコは。
みんなが「そこを見たいんだ」っていうところを
見てる人なんだろうね、女の子たちにとって。
「え、マーコさんですか!?!?」って、
何ですか、その喜んでる感じは。 |
日笠 |
江原(啓之)さんに近いものがあるのかしら?
私、同時に「anan」でデビューしてるんです。 |
糸井 |
へぇー! |
日笠 |
当時編集長だった淀川美代子さんが、
声をかけてくださって。
怪しいじゃないですか、こういう仕事って。
淀川さんがよく思い切ったなと思ったんだけど、
こんな怪しい私を「anan」がいいの?
みたいな感じですよ。 |
糸井 |
そんなふうに思うわけ? |
日笠 |
うん、そう思うわけです。
こんなに勝手な解釈をしているとか、
自分でつくった相の名称とかであるとかに、
きっと反対意見もあったかと思うんですよ。
だけど、淀川さんはそういう意見に対して、
「日笠さんの手相の見方とか
物の考え方が好きなので、
いままでのものとは違うかもしれないけど、
うちは日笠さんでいきます」
ってバシッと言ってくださったようで。
だから、ああ、こんな私のようなものを
ありがとうございますっていう気持ちです。 |
糸井 |
世の中には自分の仕事を
説明できにくいタイプの職業ってあるよね。
例えば大工さんだったら
自分の仕事を説明しやすいけれど。
何ていってるの? 自分のこと。 |
日笠 |
「手相観(てそうみ)」です。
「占い師とは違いますよ」って言いたくて、
しょうがなく、そう言ってるんですけど、
どこかでまだ抵抗がいまだに抜けないというか、
‥‥どこか恥ずかしいんですよ、この肩書きが。
私がまだ20代の頃に、糸井さんが、
「マーコは手相を観ることを仕事にすればいいんだ」
と言ってくださってからも、
7年、デビューできなかったんです。 |
糸井 |
一番得意なことだったっていうのは確かだよね。 |
日笠 |
うん、それは。だからそう、糸井さんが
「一番得意なことなんだし、
みんなが一番喜んでくれることなんだから」
って。 |
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糸井 |
当時からさ、マーコに観てもらうっていうのを
予約したりしてる人いたよね。 |
日笠 |
糸井さんがスケジュールとってくださったことも。 |
糸井 |
えっ? そう?(笑) |
日笠 |
そう(笑)。 |
糸井 |
人から求められてるってやっぱり嬉しいことでさ。
それが仕事になってようがなってまいが、
もともと嬉しいことで。
それが仕事になったら一番いいじゃない。 |
日笠 |
そうですね。ただ、なんだかやっぱり
怪しい職業というふうな意識が
まだ拭い去れないというか、残ってるんですよね。
もっと堂々と「占い師です」と
言えちゃうことができればいいんだろうけど。 |
糸井 |
言えないところが好きなんじゃない? みんな。 |
日笠 |
言えないところが? |
糸井 |
つまり、例えば僕がすっごく堂々と、
「僕はコピーライターです」って
言った時期は、ないんですよ。
やっぱりね、「なーにが!」って
気持ちがあるんです(笑)。 |
日笠 |
ああ、そうですか。へぇー! |
糸井 |
うん。つまり、「コピーライターです」って
言ったときに、なんか‥‥
うまくいかないことだとか、
うまくいかせるまでに考えてる余計なことだとか、
そういうものがみんなこぼれちゃうような気がして。
職業名をパチッと言える人っていうのに対して、
僕、ちょっと抵抗あるんです。 |
日笠 |
だから、さっきの大工さんなんかいいですよね。 |
糸井 |
うん。大工さんはわかりやすい。
「家を建ててます!」みたいなね(笑)。 |
日笠 |
そうそうそうそうそう。 |
糸井 |
でも、もしかして大工さんの中でも、
「それだけじゃないんだけどな」
とか何か思ってる人はいるかもしれないよ。
ファッションデザイナーにしたってさ、
「ファッションデザイナーです」と言って、
「ああ、服作る人ね」っていうふうになるじゃない。
でも「えーー、俺って、そうだっけ?」って、
俺がファッションデザイナーだったら
思うと思うんだよ。
それは何だろうね。
どんな商売もみんなそういうとこあるんですよね。
だから、「何々が商売です」って
言い切るのは本当に難しい。
でも、思えばさ、非僧非俗、
お坊さんであってお坊さんでないと言った
親鸞さんだってさ、
「あんた何ですか。お坊さんですか」ったら、
僧じゃなくて俗でもないってところに
いるんだよという立場を
とってたみたいなとこがあってさ、
やっぱりこれでいいのだというところの
気持ち悪さが同時にあるじゃない。 |
日笠 |
うん、そうですね。それはそうかもしれない。 |
糸井 |
だから、どこかのとこで、
「私、何々です」っていうのを
パチッと言えないあたりにいて
やってる人っていうのが、なんか‥‥ |
日笠 |
でも、そういう人たちが、本物ですよ。
そうなれたら一番いいですよね。
だから、「糸井重里です」とか、
「美輪明宏です」とか‥‥ |
糸井 |
うん(笑)。 |
日笠 |
私がこれですって、職業よりも肩書きよりも
自分の名前でやっていけて、
その人を見るとその人がやってることが
すべて見えるようになるのが、
一番いいってことでしょうね。 |
糸井 |
一番いいでしょうね。そうですね。
その意味では、だから、
「手相観です」って仮の名前をつけたとしても、
「なんか、なんかちょっとダメなんですよね」
って気持ちは、すごくよくわかるよ。 |
日笠 |
だから「anan」なんかでも「ほぼ日」でも、
こんな怪しいものを堂々と呼んだりして
いいのかしらって思うんです。 |
糸井 |
怪しいからじゃないと思うんだ、それ。
つまりね、ファッションデザイナーだって
どこがいいのかなんて説明できないし、
「わー、すてき」って言ってくれる人がいなきゃ
成り立たないじゃないですか(笑)。
「素晴らしいんだよ、これは」と言っても、
だれも「すてき」と言わなかった場合にはさ。 |
日笠 |
うん(笑)。 |
|
|
糸井 |
だけど、「すてき」と言われることをあてにして、
なんか作ってるわけじゃない?
それは怪しくないかといったらさ‥‥ |
日笠 |
うん、怪しいですよね。 |
糸井 |
うん、選んで着てくれる人のおかげじゃない?
「私は何もやってません」とも言えるじゃない。
でも、そんなことはないよね。
あるいは、手品のタネ作ってる人なんかどうすんのよ。
人を騙すためにさ、毎日考えてるわけでしょ?
小説家だってそうじゃない?
僕はだから、マーコのやってることは、
小説家のやってることなんかに
近いんだなと思ってるんです。
同じように木が1本倒れてましたっていうのを
見たときに、木が1本倒れてるという事実は、
もうそれ以上動かしようがないんだけど、
人はいろんな読み方するじゃない。 |
日笠 |
うん。「木の倒れ方占い」、できますもんね。 |
糸井 |
でしょうね。 |
日笠 |
だから、プロファイリングじゃないけど、
そういう読み方はしてますよ。 |
糸井 |
ですよね。で、それは
怪しいか怪しくないかっていうことではなくてね、
みんな、読んでるんですよ。 |
日笠 |
そう、みんな、そうです。 |
糸井 |
みんな読んでるんです。
で、あらゆる人が読んでることを
もっと、得意としてる人がいるんですよ。
それがマーコなんだよ。
たとえば、ペットのしつけを、
みんなしてるけど、
ペットのしつけをする商売の人もいる。
小説家もそうで、男女がグシャグシャと
いろんなことをガチャガチャやってました、
っていうのだって、
みんなも、いろんなことやってんですよ。
でも、それをいろんなバリエーションで書けたり、
どういう感情を掻き立てるかとかってことを
考えられる人がいるってことなんだよ。
よしもとばななさんがまだ学生だったときに
タロットが上手だったんです。
みんな、よく当たるのよって言ってた。
それってなんでだろうってそのとき思ったんだけど、
結局、タロットで出てくるカードは、
逆さ向いてる何とかだとかが、
順番に出てくるわけでしょう?
だれがやったって出てくるカードは同じなのに、
なぜ、その人がやるとよく当たるだとか、
あの人のタロットはいいだとか、言うでしょう。
そこなんだよ。 |
日笠 |
そう。その読み取り方なんですよね。そうそう |
糸井 |
うん。だから、「占い師」って言葉でいうと、
何か人に指示を出す人みたいに聞こえるけど、
「読み取る人」なんだっていう意味では、
小説家だとか天気予報士だとか。 |
日笠 |
そうです、そうです、予報士、そう!
だから、西洋で言われているように
「パームリーダー(Palm reader)」ならば、
そんなに恥ずかしくないんです。 |
糸井 |
パームリーダー。パーム(手相)を読む人。 |
日笠 |
「読み取り屋さん」なら恥ずかしくないんですよ。
私、子どものときからタロットとか占い関係は、
やっぱり得意だったんです。
多分‥‥わからないですけど、
もしかしたら、前世で
こういうことばっかりやってきのかもしれない。
だから今回はカッコいい仕事がしたかったんですよ。 |
糸井 |
YMOマネジャーとか? |
日笠 |
YMOの初代マネジャーってカッコいいですよね。 |
糸井 |
カッコいいね(笑)。 |
日笠 |
よかったー! |
|
(つづきます。) |
2007-04-05-THU |