日笠 |
あと当時の私にあったのが、
コバンザメコンプレックス。
私はもうコバンザメ運が
最高にいいわけですよ。
でもコバンザメとしては最高の運勢の持ち主だけど、
どこかでコバンザメじゃなく、
ちゃんと自分で自立独立しなければっていう思いは
ずっとあったんですね。
ところが、手相観以外だと、
その自立ができなかったんです。 |
糸井 |
手相観だとできたんだよね。 |
日笠 |
できたんですよ。 |
糸井 |
それもさ、なんかこう‥‥読み方というか、
結局どういうことなのって言ったらさ、
犬がいるじゃない?
犬と自分が鉄砲持ってキツネ狩りに行ったとしてさ、
犬にコバンザメしてるのが俺なのか、
犬が俺にコバンザメしてるのかは
わからないじゃないですか。 |
日笠 |
ああ。ま、相互関係としてね。 |
糸井 |
友達であろうが恋人であろうが全部そうですよね。
買い手がなかったら売り手なんて意味ないんだし。
作ったものを使ってくれる人がいなきゃ
しょうがないんで、
そこはセットなんだと思うんですよね。 |
日笠 |
そうですね。 |
糸井 |
だから、何ていうんだろうな‥‥
妙にマーコは真面目に、
悪い側に1回倒して考えていたんだよ、きっと。
まっすぐに立ててられないんで。 |
日笠 |
臆病だった‥‥ |
糸井 |
臆病なのかね。 |
日笠 |
うん、臆病だったんだと思いますね、何だか。 |
糸井 |
でも、来る人もきっとみんな臆病でしょう? |
日笠 |
ええ、みんな臆病。
臆病なところはみんなもちろん持ってますよね。
で、臆病なのを隠してるというのが
一番わかりやすいし。 |
糸井 |
あ、それが一番臆病ですね(笑)。
でも、まあ、男の子はみんなそうだよ。 |
日笠 |
女の子もそうですよ。 |
糸井 |
ああ‥‥、なるほどね。
人はまず弱くて当たり前って
開き直っちゃうと、
自分も含めてすっごい楽ですよね。 |
日笠 |
そう、弱くて当たり前って。 |
糸井 |
ですよね。犬みたいに毛も生えてないしさ。 |
|
|
日笠 |
そう、そうですよ。
何年かぶりで見せていただいて、
糸井さんの手相が変わってましたよね。
そこだと思いますよ。
弱くて当たり前になれたって
感じがあるんだと思います。 |
糸井 |
僕はね、強い人好きだったんですよ、
けっこう、長いこと。
で、弱い人嫌いだったんです。
少年小説みたいなものって
弱いやつはダメなんですよね。
マンガもそうだったんですよ、ずっと。
弱いやつが出てきたときは
助けてあげる対象にしか過ぎないんです。
そんな物語に頭が浸ってる場合は、
弱いっていうのはやっぱり自分がなっちゃ
いけないことだったんですよ。 |
日笠 |
うん。だから、弱い自分を
どう認めるかっていう力ですよ。
弱い自分を受け止められないとか
ごまかしちゃうとかじゃなくて、
“弱さを知って、
それをどう受け止められるか力(りょく)”
というものですね。 |
糸井 |
マーコは、だって、そういうことは、
人に手助けとして言ってあげられるじゃない。 |
日笠 |
そういうことばっかり言ってます(笑)。 |
糸井 |
ですよね、きっと(笑)。 |
日笠 |
そうですね(笑)。 |
糸井 |
で、弱いからいけないなんてことは全然ないし。 |
日笠 |
ないですよね。 |
糸井 |
人間はヨワヨワ生物の歴史ですからね。 |
日笠 |
だから、弱ぶってる感じとか。
弱ぶっちゃってズルーイ、
とかって人もいるわけじゃないですか。 |
糸井 |
うん、これもいるんだよな。
確かにそうだ。 |
日笠 |
だから、弱さを武器にとか、
「ああ、弱ぶっちゃって」と思うことが
たくさんあると、柔らかーく遠巻きに、
そこをピッと変えさせていただいて。 |
糸井 |
読んだあとの仕事、けっこう大きいね、じゃ。 |
日笠 |
そうですね。あとは仕事でいうとね、
読むというだけじゃなくて、
にじみ出てるものだっていうのがありますよね。
手相だけじゃなくてプロファイリングも含め。
あとはインタビュアーなんですよ。
大半の人たちっていうのは、
自分が40分のインタビューを
受けるってことを、
人生の中で経験してない人が多いわけです。
だから、こちらがインタビューをする。
それに答えていく。
聞きやすいことから、
深いとこまで聞いていくと、
その人は初めて自分の中にある物事を言葉にして、
初めて自分の耳で自分の考え、思いを
自分の声で聞くことになるんですよ。 |
糸井 |
ああ‥‥! |
日笠 |
だから、語らせてあげる係。
読むだけじゃなくて。
答えはみんな自分の中にあるわけだし、
「これでいいんですよね」とか、
「やっぱりこうか」って確認して、
「ああ、そうか、そうか」って腑に落ちて、
みんなルンルンって帰っていってくださるわけだから。 |
糸井 |
そうか‥‥今のはすごいね。
そこを探せるようになったマーコはすごいね。 |
日笠 |
うーん? |
糸井 |
やっぱり毎日やってることのすごさだね。
マーコは毎日やってて、
調子のいい日も悪い日も何もとにかく、
とにかくずっとやってきたっていうことが
すごいですよ。
これを毎日やってるんだなって。
だってそんなこと知らなかったでしょう?
それすごい、すごいよ、その発見は。 |
日笠 |
‥‥え、そうですか? |
糸井 |
「自分の声で、自分の言葉で
自分のことを語る」っていうのが
目の前で行われていくのを
あなたは見てるんだよね。
引き出してるんだよね。 |
日笠 |
うん、そうです、そうです。 |
糸井 |
そうだよね。
それって最初からそんな簡単に
わかるようなことじゃないと思うよ。
つまりセッションって、
「私」がいるからセッションなんだけど、
「私」がいないに等しくっても
セッションだよね。 |
日笠 |
うん、うん。 |
糸井 |
今のその話が、
マーコの存在が消えてるに
近いふうに聞こえたんで、
いいなあと思ったの。
あえてひとりじゃできないんだけど、
私は一言も口を出さなくてもいい、
そういう演奏ですよね。
だから、テナー吹いてる人が
ドラムが休んでるときにソロで吹いてても、
ドラムがそこにいることが大事だよね。 |
日笠 |
そうです。ただ、そういうふうに
ひとりで喋ってもらうときには
言わせていただくんですよ。
例えば、
「いつもそういう声の大きさなんですか」
とか‥‥ |
糸井 |
はあ‥‥面白いね。 |
日笠 |
「ちょっと深呼吸してから続き聞こうか」とか、
「今、時速60キロだから、時速40キロで
聞かせてくれますか」とかっていうふうに
調整していくんですよ。例えば、
「今、声が頭のてっぺんから出てるよ。
おなかから出してみましょうか」
とかって、ときどきそういうことを言うの。
「あ、ボリューム下げて」みたいな感じとか
していくと、落ち着いて話し始めると、
落ち着いて話してる自分の声を聞くから楽になる。
そこは調整させてもらう。 |
糸井 |
それチューニング?(笑) |
日笠 |
そう、コンサートのPAです。 |
糸井 |
うん。それは助けがなくて自分で気づくって
本当に難しいことだから、
そのことをきっとマーコは
どんどんわかっていって、
できるようになっていって、
かといって単なる方法論として
技術としてというんじゃなくて、
その人が来たときにそれが必要なときだけ
それをやってるわけでしょう?
そこがやっぱりね、
「ああ、人って会わないあいだに
ものすごい時間があって、
何もしてなかった人と
何かしてた人の違いがあるんだな」
と思うわけです。 |
|
(つづきます。) |
2007-04-09-MON |