HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第5回 自分の心を、自分の声で、自分の耳に とどけたことがありますか?
日笠 あと当時の私にあったのが、
コバンザメコンプレックス。
私はもうコバンザメ運が
最高にいいわけですよ。
でもコバンザメとしては最高の運勢の持ち主だけど、
どこかでコバンザメじゃなく、
ちゃんと自分で自立独立しなければっていう思いは
ずっとあったんですね。
ところが、手相観以外だと、
その自立ができなかったんです。
糸井 手相観だとできたんだよね。
日笠 できたんですよ。
糸井 それもさ、なんかこう‥‥読み方というか、
結局どういうことなのって言ったらさ、
犬がいるじゃない?
犬と自分が鉄砲持ってキツネ狩りに行ったとしてさ、
犬にコバンザメしてるのが俺なのか、
犬が俺にコバンザメしてるのかは
わからないじゃないですか。
日笠 ああ。ま、相互関係としてね。
糸井 友達であろうが恋人であろうが全部そうですよね。
買い手がなかったら売り手なんて意味ないんだし。
作ったものを使ってくれる人がいなきゃ
しょうがないんで、
そこはセットなんだと思うんですよね。
日笠 そうですね。
糸井 だから、何ていうんだろうな‥‥
妙にマーコは真面目に、
悪い側に1回倒して考えていたんだよ、きっと。
まっすぐに立ててられないんで。
日笠 臆病だった‥‥
糸井 臆病なのかね。
日笠 うん、臆病だったんだと思いますね、何だか。
糸井 でも、来る人もきっとみんな臆病でしょう?
日笠 ええ、みんな臆病。
臆病なところはみんなもちろん持ってますよね。
で、臆病なのを隠してるというのが
一番わかりやすいし。
糸井 あ、それが一番臆病ですね(笑)。
でも、まあ、男の子はみんなそうだよ。
日笠 女の子もそうですよ。
糸井 ああ‥‥、なるほどね。
人はまず弱くて当たり前って
開き直っちゃうと、
自分も含めてすっごい楽ですよね。
日笠 そう、弱くて当たり前って。
糸井 ですよね。犬みたいに毛も生えてないしさ。
 
日笠 そう、そうですよ。
何年かぶりで見せていただいて、
糸井さんの手相が変わってましたよね。
そこだと思いますよ。
弱くて当たり前になれたって
感じがあるんだと思います。
糸井 僕はね、強い人好きだったんですよ、
けっこう、長いこと。
で、弱い人嫌いだったんです。
少年小説みたいなものって
弱いやつはダメなんですよね。
マンガもそうだったんですよ、ずっと。
弱いやつが出てきたときは
助けてあげる対象にしか過ぎないんです。
そんな物語に頭が浸ってる場合は、
弱いっていうのはやっぱり自分がなっちゃ
いけないことだったんですよ。
日笠 うん。だから、弱い自分を
どう認めるかっていう力ですよ。
弱い自分を受け止められないとか
ごまかしちゃうとかじゃなくて、
“弱さを知って、
 それをどう受け止められるか力(りょく)”
というものですね。
糸井 マーコは、だって、そういうことは、
人に手助けとして言ってあげられるじゃない。
日笠 そういうことばっかり言ってます(笑)。
糸井 ですよね、きっと(笑)。
日笠 そうですね(笑)。
糸井 で、弱いからいけないなんてことは全然ないし。
日笠 ないですよね。
糸井 人間はヨワヨワ生物の歴史ですからね。
日笠 だから、弱ぶってる感じとか。
弱ぶっちゃってズルーイ、
とかって人もいるわけじゃないですか。
糸井 うん、これもいるんだよな。
確かにそうだ。
日笠 だから、弱さを武器にとか、
「ああ、弱ぶっちゃって」と思うことが
たくさんあると、柔らかーく遠巻きに、
そこをピッと変えさせていただいて。
糸井 読んだあとの仕事、けっこう大きいね、じゃ。
日笠 そうですね。あとは仕事でいうとね、
読むというだけじゃなくて、
にじみ出てるものだっていうのがありますよね。
手相だけじゃなくてプロファイリングも含め。
あとはインタビュアーなんですよ。
大半の人たちっていうのは、
自分が40分のインタビューを
受けるってことを、
人生の中で経験してない人が多いわけです。
だから、こちらがインタビューをする。
それに答えていく。
聞きやすいことから、
深いとこまで聞いていくと、
その人は初めて自分の中にある物事を言葉にして、
初めて自分の耳で自分の考え、思いを
自分の声で聞くことになるんですよ。
糸井 ああ‥‥!
日笠 だから、語らせてあげる係。
読むだけじゃなくて。
答えはみんな自分の中にあるわけだし、
「これでいいんですよね」とか、
「やっぱりこうか」って確認して、
「ああ、そうか、そうか」って腑に落ちて、
みんなルンルンって帰っていってくださるわけだから。
糸井 そうか‥‥今のはすごいね。
そこを探せるようになったマーコはすごいね。
日笠 うーん?
糸井 やっぱり毎日やってることのすごさだね。
マーコは毎日やってて、
調子のいい日も悪い日も何もとにかく、
とにかくずっとやってきたっていうことが
すごいですよ。
これを毎日やってるんだなって。
だってそんなこと知らなかったでしょう?
それすごい、すごいよ、その発見は。
日笠 ‥‥え、そうですか?
糸井 「自分の声で、自分の言葉で
 自分のことを語る」っていうのが
目の前で行われていくのを
あなたは見てるんだよね。
引き出してるんだよね。
日笠 うん、そうです、そうです。
糸井 そうだよね。
それって最初からそんな簡単に
わかるようなことじゃないと思うよ。
つまりセッションって、
「私」がいるからセッションなんだけど、
「私」がいないに等しくっても
セッションだよね。
日笠 うん、うん。
糸井 今のその話が、
マーコの存在が消えてるに
近いふうに聞こえたんで、
いいなあと思ったの。
あえてひとりじゃできないんだけど、
私は一言も口を出さなくてもいい、
そういう演奏ですよね。
だから、テナー吹いてる人が
ドラムが休んでるときにソロで吹いてても、
ドラムがそこにいることが大事だよね。
日笠 そうです。ただ、そういうふうに
ひとりで喋ってもらうときには
言わせていただくんですよ。
例えば、
「いつもそういう声の大きさなんですか」
とか‥‥
糸井 はあ‥‥面白いね。
日笠 「ちょっと深呼吸してから続き聞こうか」とか、
「今、時速60キロだから、時速40キロで
 聞かせてくれますか」とかっていうふうに
調整していくんですよ。例えば、
「今、声が頭のてっぺんから出てるよ。
 おなかから出してみましょうか」
とかって、ときどきそういうことを言うの。
「あ、ボリューム下げて」みたいな感じとか
していくと、落ち着いて話し始めると、
落ち着いて話してる自分の声を聞くから楽になる。
そこは調整させてもらう。
糸井 それチューニング?(笑)
日笠 そう、コンサートのPAです。
糸井 うん。それは助けがなくて自分で気づくって
本当に難しいことだから、
そのことをきっとマーコは
どんどんわかっていって、
できるようになっていって、
かといって単なる方法論として
技術としてというんじゃなくて、
その人が来たときにそれが必要なときだけ
それをやってるわけでしょう?
そこがやっぱりね、
「ああ、人って会わないあいだに
 ものすごい時間があって、
 何もしてなかった人と
 何かしてた人の違いがあるんだな」
と思うわけです。
 
(つづきます。)
2007-04-09-MON
Illustrated by 酒井うらら