HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第6回 いろんな仕事を経験しながら、この職業を決めるのに7年考えつづけました。
糸井 逆に、言葉を少なくしか
持ってないお客さんが
相談に来たときには、どうなるの?
日笠 そういう言葉を持ってない人には、
右と左、イエスとノーって答えを用意して、
「今のどう思う?」って。
こっちだ、わからない、こっちだって。
「どれだろう、今の答えは」って。
右上げて、左上げて、赤上げて、白上げて、
みたいな感じのゲームのように
整頓していってあげます。
糸井 はあ‥‥。そうすると、
小説家対小説家というか、
「私はこう読むんだけど」っていうのが、
向こうのその物語と
寄り添ったり離れたりすることもあるよね。
日笠 あ、それは面白いセッションですよね。
それができたときは、
私もすごく「ああ、楽しかった!」と思えるし。
糸井 それは、一般的な対談もまったくそうですよね。
別の人の物語がクネクネと絡み合って、
また別の物語を作っていくわけじゃない?
日笠 そうそうそう。それで、
それを本人が読んでるところじゃないところから
同じ物語を見てて、感想を言うわけじゃないですか。
「でも、こうも見れるし、こうだよね。
 こうだったのかもね」なんて言ったら、
「ああ!」って言って。それはすごい面白い。
糸井 物語の作り手も自分のことを低く見すぎたり、
高く見すぎたり、
位置を間違ったりするわけですよね。
自分のことだから。
日笠 そうです。気詰まりを起こしてたりとか。
糸井 そうですよね。はあ‥‥
日笠 だから、感情的になって見えなくなってるとか、
感情の癖がついちゃってるとかって
場合があるわけだし、それを、
「あ、それはもしかしたら、『でもでも癖』かもよ」
って。客観的に見えたことを、
「それ、もしかしたらそれが
 癖になってる考え方かもしれない」と言って、
例えば話していくうちにその癖をまた感じたら、
「今出た!」って言って、
「あ、そうか」なんていう感じ。
何ていったらいいんでしょうね。
糸井 見事にセッションですね、それこそ。
日笠 そう、セッションですね。
糸井 ジャズミュージシャンみたいな話だね。
日笠 ああ、かも。
そういう部分もあるかもしれないですね。
糸井 いや、ものすごいね。それはくたびれるわ。
つまり、くたびれてるときに
小説読めって言われてもさ、
読む気になんなくて‥‥
日笠 でも、私の役割は、
そういう癖のある、
優秀だけど面白くはないかもしれない小説も
読むことです。
たしかに疲れますよね。
だけど、いいんですよ。
そのときは楽しいから。
糸井 読み始めちゃえば楽しい?
日笠 楽しめてないと、
仕事しちゃいけないと思ってるんです。
糸井 なるほど。
日笠 だから、会ってるときは、
それがどういう人であろうと
全部を上機嫌で、
そして、どんなに悪い人であっても
性格的にいびつでも、その40分、
私は、だれよりもそのお客さまの味方です。
公平な立場の。
だから、それはもちろん笑顔、
優しく‥‥優しくって変だけど、
トゲは絶対出さない、批判はしない。
それはその時間はきちっと。
糸井 人がいろいろ頭ぶつけたり
転んだりしながら生きてって、
やり直しができるっていう信念がないと
やっぱり相談に乗れないですよね。
日笠 うん。そんなの心ひとつで
いくらでもやり直せるというか、
やり直さなくたって考え方変えれば一発じゃん、
みたいな。
糸井 ていうのが根っこに必要なんですね。
日笠 もちろんそれです。
私がなんで手相観になれたかというと、
一種、悟りがあったの。
それは、私はなんで悩んでるんだろうかと思って、
もうすごく悩んでた時期があったから。
「どうして悩んでるんだろう?」と思って。
苦しくて苦しくて、
「自分が悩んでて自己解決ができてないのに、
 お人のアドバイスなんかできません」
って思ってたんです。
「神様、早く私を幸せにしてください。
 私が幸せになると、いくらでも皆さんに」
みたいなのがあったんだけど、
自分が幸せじゃないっていうことを
理由にしてた部分があるんです。
けれど、あるとき、こう思ったんです。
「悩みというのはただの悲しい、
 どうしようもない事実であって、
 自分が悩みとして認定してるから
 初めて悩みなんだ、
 それはただの悲しい事実だとして捉えて
 悩みにしなきゃいいんじゃない?」って。
どんなに苦しい事実かもしれないけど、
悩みにしなきゃいいんだって。
悩みたくないから人は悩んでるわけじゃないですか。
じゃ、悩みにしなきゃいいと思ったときに、
なんかすごく楽になったんですね。
あとは、「しょうがないことはしょうがない」
っていう言霊のようなものが降ってきたわけです。
しょうがないことは今さら言ってもしょうがない。
しょうがないことはしょうがない。
しょうがないっていうのは
排他することじゃなくて、
「ああ、しょうがない」って
受け入れることなんだっていうのと、
悩みは勝手に自分が認定してるだけだって、
この2つに気がついたら全然楽になったんですよ。
 
糸井 それは大人になってからだよね。
日笠 はい、手相観を始める前です。
YMOのマネジャー時代に、
糸井さんに「なりなさい」って言われて、
いろんな仕事をしながら、悩んで、
7年経って、手相観になる決心がついたんです。
糸井 やっぱりその空白みたいなのが
ものすごく必要だったってことだね。
日笠 そうですね。時間かかりましたけど
やっぱり必要でしたね。
糸井 何だろうね。その‥‥変わるんでしょうね、
全然違うものに。
日笠 そう。変わらなきゃいけないというか、
私も例えば病気になったり不機嫌になったり、
自分が不幸というか悲しくなったら、
もうそのときにこの仕事を廃業しようって
しっかり最初から決めてるんです。
そうすると、予約も入ってるし、
不幸せになれなくなっちゃったっていうか、
不健康になれなくなっちゃったっていうのがあるから、
仕事で守られてる部分もあるんですね。
糸井 それはね、子ども産んだお母さんと同じだよ。
日笠 えぇー?
糸井 子ども産んだお母さん、病気になれなくなる。
社長も同じだよ。
日笠 ああ‥‥
糸井 俺、昨日、新入社員歓迎会やっててさ、
新入社員と話をしてたら、
お父さんが俺より若いんです。
ちょっとガックリ来ちゃうんだけど、
「どう?」って訊いたら、
「父は糸井さんより年取って見えます」
って言うから、
ああ、そうか、俺はもっと
年を取っていいはずだったんだと思ったよ。
日笠 自分が年を取っても?
糸井 うん。本当はもっと取ってもいいんだけど、
そうさせてくれない乳飲み子がいる、
みたいな気持ちで、お母さん役──
お父さんなのかお母さんなのかわかんないけど、
やっぱりそうはいかないんだよね、
というところで元気が出ちゃう。
日笠 あのう、こんなこと言っちゃ失礼ですけど、
魂(たましい)年齢っていうのは
変わんないんですよ。糸井さん、大体もう
27、8歳ぐらいで止まってるし‥‥
糸井 魂年齢‥‥(笑)。
日笠 うん。だから、80になっても、
例えばご隠居さんになってて90になっても、
28で止まってますよ。
糸井 ああ、それはなんか
言われるとそんな気がするなあ。
日笠 うん、だから、例えば小学生でも、
もうオッサンみたいなのがいるじゃないですか。
それは魂年齢と実年齢というのがあるから。
糸井 そうか、自分というものの基盤になる年齢意識だね。
日笠 そうです、そうです。
糸井 マーコはいくつなの?
日笠 私、実年齢はこのあいだ53になったんです。
糸井 もうそんなになる? すごいねえ。
日笠 まったく自覚がないから。
糸井 で、魂年齢はいくつなの?
日笠 魂年齢、16、7ぐらいじゃないですか。
糸井 後輩だって気がするもんね、やっぱり。
日笠 うん、そう、お兄様って感じします。
よろしくお願いします(笑)。
年上の人(笑)。
糸井 しょうがないね。
日笠 そう。年下でよかった(笑)。
糸井 きっとだから
マーコより年上なんだけど
年下だと思ってる人いますよね。
日笠 ああ、思ってる人たくさん!
糸井 いますよね、きっと。
(鈴木)慶一くんなんか、年下だと思ってるでしょ。
日笠 同級生ですね、慶一さんは。
でも実年齢は私より上ですよ。
 
(つづきます。)
2007-04-10-TUE
Illustrated by 酒井うらら