糸井 |
逆に、言葉を少なくしか
持ってないお客さんが
相談に来たときには、どうなるの? |
日笠 |
そういう言葉を持ってない人には、
右と左、イエスとノーって答えを用意して、
「今のどう思う?」って。
こっちだ、わからない、こっちだって。
「どれだろう、今の答えは」って。
右上げて、左上げて、赤上げて、白上げて、
みたいな感じのゲームのように
整頓していってあげます。 |
糸井 |
はあ‥‥。そうすると、
小説家対小説家というか、
「私はこう読むんだけど」っていうのが、
向こうのその物語と
寄り添ったり離れたりすることもあるよね。 |
日笠 |
あ、それは面白いセッションですよね。
それができたときは、
私もすごく「ああ、楽しかった!」と思えるし。 |
糸井 |
それは、一般的な対談もまったくそうですよね。
別の人の物語がクネクネと絡み合って、
また別の物語を作っていくわけじゃない? |
日笠 |
そうそうそう。それで、
それを本人が読んでるところじゃないところから
同じ物語を見てて、感想を言うわけじゃないですか。
「でも、こうも見れるし、こうだよね。
こうだったのかもね」なんて言ったら、
「ああ!」って言って。それはすごい面白い。 |
糸井 |
物語の作り手も自分のことを低く見すぎたり、
高く見すぎたり、
位置を間違ったりするわけですよね。
自分のことだから。 |
日笠 |
そうです。気詰まりを起こしてたりとか。 |
糸井 |
そうですよね。はあ‥‥ |
日笠 |
だから、感情的になって見えなくなってるとか、
感情の癖がついちゃってるとかって
場合があるわけだし、それを、
「あ、それはもしかしたら、『でもでも癖』かもよ」
って。客観的に見えたことを、
「それ、もしかしたらそれが
癖になってる考え方かもしれない」と言って、
例えば話していくうちにその癖をまた感じたら、
「今出た!」って言って、
「あ、そうか」なんていう感じ。
何ていったらいいんでしょうね。 |
糸井 |
見事にセッションですね、それこそ。 |
日笠 |
そう、セッションですね。 |
糸井 |
ジャズミュージシャンみたいな話だね。 |
日笠 |
ああ、かも。
そういう部分もあるかもしれないですね。 |
糸井 |
いや、ものすごいね。それはくたびれるわ。
つまり、くたびれてるときに
小説読めって言われてもさ、
読む気になんなくて‥‥ |
日笠 |
でも、私の役割は、
そういう癖のある、
優秀だけど面白くはないかもしれない小説も
読むことです。
たしかに疲れますよね。
だけど、いいんですよ。
そのときは楽しいから。 |
糸井 |
読み始めちゃえば楽しい? |
日笠 |
楽しめてないと、
仕事しちゃいけないと思ってるんです。 |
糸井 |
なるほど。 |
日笠 |
だから、会ってるときは、
それがどういう人であろうと
全部を上機嫌で、
そして、どんなに悪い人であっても
性格的にいびつでも、その40分、
私は、だれよりもそのお客さまの味方です。
公平な立場の。
だから、それはもちろん笑顔、
優しく‥‥優しくって変だけど、
トゲは絶対出さない、批判はしない。
それはその時間はきちっと。 |
糸井 |
人がいろいろ頭ぶつけたり
転んだりしながら生きてって、
やり直しができるっていう信念がないと
やっぱり相談に乗れないですよね。 |
日笠 |
うん。そんなの心ひとつで
いくらでもやり直せるというか、
やり直さなくたって考え方変えれば一発じゃん、
みたいな。 |
糸井 |
ていうのが根っこに必要なんですね。 |
日笠 |
もちろんそれです。
私がなんで手相観になれたかというと、
一種、悟りがあったの。
それは、私はなんで悩んでるんだろうかと思って、
もうすごく悩んでた時期があったから。
「どうして悩んでるんだろう?」と思って。
苦しくて苦しくて、
「自分が悩んでて自己解決ができてないのに、
お人のアドバイスなんかできません」
って思ってたんです。
「神様、早く私を幸せにしてください。
私が幸せになると、いくらでも皆さんに」
みたいなのがあったんだけど、
自分が幸せじゃないっていうことを
理由にしてた部分があるんです。
けれど、あるとき、こう思ったんです。
「悩みというのはただの悲しい、
どうしようもない事実であって、
自分が悩みとして認定してるから
初めて悩みなんだ、
それはただの悲しい事実だとして捉えて
悩みにしなきゃいいんじゃない?」って。
どんなに苦しい事実かもしれないけど、
悩みにしなきゃいいんだって。
悩みたくないから人は悩んでるわけじゃないですか。
じゃ、悩みにしなきゃいいと思ったときに、
なんかすごく楽になったんですね。
あとは、「しょうがないことはしょうがない」
っていう言霊のようなものが降ってきたわけです。
しょうがないことは今さら言ってもしょうがない。
しょうがないことはしょうがない。
しょうがないっていうのは
排他することじゃなくて、
「ああ、しょうがない」って
受け入れることなんだっていうのと、
悩みは勝手に自分が認定してるだけだって、
この2つに気がついたら全然楽になったんですよ。 |
|
|
糸井 |
それは大人になってからだよね。 |
日笠 |
はい、手相観を始める前です。
YMOのマネジャー時代に、
糸井さんに「なりなさい」って言われて、
いろんな仕事をしながら、悩んで、
7年経って、手相観になる決心がついたんです。 |
糸井 |
やっぱりその空白みたいなのが
ものすごく必要だったってことだね。 |
日笠 |
そうですね。時間かかりましたけど
やっぱり必要でしたね。 |
糸井 |
何だろうね。その‥‥変わるんでしょうね、
全然違うものに。 |
日笠 |
そう。変わらなきゃいけないというか、
私も例えば病気になったり不機嫌になったり、
自分が不幸というか悲しくなったら、
もうそのときにこの仕事を廃業しようって
しっかり最初から決めてるんです。
そうすると、予約も入ってるし、
不幸せになれなくなっちゃったっていうか、
不健康になれなくなっちゃったっていうのがあるから、
仕事で守られてる部分もあるんですね。 |
糸井 |
それはね、子ども産んだお母さんと同じだよ。 |
日笠 |
えぇー? |
糸井 |
子ども産んだお母さん、病気になれなくなる。
社長も同じだよ。 |
日笠 |
ああ‥‥ |
糸井 |
俺、昨日、新入社員歓迎会やっててさ、
新入社員と話をしてたら、
お父さんが俺より若いんです。
ちょっとガックリ来ちゃうんだけど、
「どう?」って訊いたら、
「父は糸井さんより年取って見えます」
って言うから、
ああ、そうか、俺はもっと
年を取っていいはずだったんだと思ったよ。 |
日笠 |
自分が年を取っても? |
糸井 |
うん。本当はもっと取ってもいいんだけど、
そうさせてくれない乳飲み子がいる、
みたいな気持ちで、お母さん役──
お父さんなのかお母さんなのかわかんないけど、
やっぱりそうはいかないんだよね、
というところで元気が出ちゃう。 |
日笠 |
あのう、こんなこと言っちゃ失礼ですけど、
魂(たましい)年齢っていうのは
変わんないんですよ。糸井さん、大体もう
27、8歳ぐらいで止まってるし‥‥ |
糸井 |
魂年齢‥‥(笑)。 |
日笠 |
うん。だから、80になっても、
例えばご隠居さんになってて90になっても、
28で止まってますよ。 |
糸井 |
ああ、それはなんか
言われるとそんな気がするなあ。 |
日笠 |
うん、だから、例えば小学生でも、
もうオッサンみたいなのがいるじゃないですか。
それは魂年齢と実年齢というのがあるから。 |
糸井 |
そうか、自分というものの基盤になる年齢意識だね。 |
日笠 |
そうです、そうです。 |
糸井 |
マーコはいくつなの? |
日笠 |
私、実年齢はこのあいだ53になったんです。 |
糸井 |
もうそんなになる? すごいねえ。 |
日笠 |
まったく自覚がないから。 |
糸井 |
で、魂年齢はいくつなの? |
日笠 |
魂年齢、16、7ぐらいじゃないですか。 |
糸井 |
後輩だって気がするもんね、やっぱり。 |
日笠 |
うん、そう、お兄様って感じします。
よろしくお願いします(笑)。
年上の人(笑)。 |
糸井 |
しょうがないね。 |
日笠 |
そう。年下でよかった(笑)。 |
糸井 |
きっとだから
マーコより年上なんだけど
年下だと思ってる人いますよね。 |
日笠 |
ああ、思ってる人たくさん! |
糸井 |
いますよね、きっと。
(鈴木)慶一くんなんか、年下だと思ってるでしょ。 |
日笠 |
同級生ですね、慶一さんは。
でも実年齢は私より上ですよ。 |
|
(つづきます。) |
2007-04-10-TUE |