一瞬の善人、一瞬の悪人。
2019-04-21
< 一瞬の善人 >
スーパーであれこれ買い物をし、
空いているレジを探した。
すると、ひとつのレジが空いていて、
店員さんがヒマそうにしているではないか。
私は、今がチャンスとばかりに急ぎ足で
レジに向かった。
ところが、私の前に杖をついて
ゆるゆると歩いている老人が‥‥。
すばやく老人を追い抜いて、
レジに一番乗りすることもできたが、
ふと思い直して老人の後ろをゆるりゆるり。
「足の悪い老人を追い抜いてまで、
時間を節約する理由なんて、あるのかい?」
という、心の声が聞こえたような気がして。
あの老人のおかげで、ほんの一瞬、
私は善人になれたのかもしれない。
< 一瞬の悪人 >
いつものレストランに着いた。
午後1時を過ぎていたが、
あいにくと店は満席のようだ。
「少し、お待ちいただけますか」
私は店の前で待つことにした。
窓ガラス越しに、客が談笑しているのが見える。
「おいおい、もう食べ終えたんだろう?
さっさとお金を払って席を空けてくれよ」
私はついつい、心の中で先客を呪った。
一瞬、私は悪人になっていたのだ。
数分後、やっと一組の客が席を立ち、
私はやれやれと席についた。
本日のランチ・メニューは私の大好物
『鶏のビネガー煮』。
鶏肉はホロリと骨から外れ、
口に入れるととろけるよう。
まろやかな酸味が爽やかな後味となり、
いくらでも食べられそう。
あぁ美味しかったと余韻に浸りつつ、
ふと見ると、
外で待っているひとりの客と目が合った。
「食べ終わったら、さっさと出なさいよ」
とでも言いたげに、
彼女は私を睨みつけているのであった。