同棲の条件
2019-09-01
僕は若手のマジシャン。
芸名はカメレオン。
どこかに隠れているのだが、
保護色のせいで
誰にもその存在を気づかれない。
つまりは、売れてないマジシャンてこと。
でもね、いつかきっと、
すごいマジックを発明して、
世界的に有名なマジシャンになるんだい!
と、地味に暮らしながらハデな夢を見ている。
今日も1日フリー。
マジックのアイデアを考え放題。
でも、新ネタなんて、ちっとも浮かばない。
そうだ、腹がへってはマジックはできぬ。
いつものごはん屋さんへテクテク。
おぉっ、今日のメニューは大好きなハンバーグ。
甘すぎず軽めの味わいのごはんに、
トマトソースと肉汁が絡まって、あぁたまらん。
うっとりしつつ、ごはんをほうばっていると、
27、8歳くらいの可愛い女性が僕の隣の席に。
しかも、
「ハンバーグ、おいしそうですね」
なんて、僕に話しかけてくれるではないか。
話は食べ終えても続き、
「実は僕、売れないマジシャンで‥‥」
「あら、素敵ですね。
あたしは、ごく普通の会社員で‥‥」
お互いに自己紹介までできた。
ごはん屋さんで会うたびに話が弾み、
お互いの電話番号を交換し、
とうとうデートまで重ねる間柄に。
「あたしね、今、小さな一軒家に
ひとり暮らししてるの。
よかったら、一緒に住んでみる?」
世界的なマジシャンになる夢は
いつまで経っても実現しそうもない。
だが、代わりにこんな可愛い女性と
同棲生活を送れるかもしれない。
なんという幸運。
あぁ、真面目に生きてて良かった。
神様はちゃんと見てくれていたんだ。
「ねぇ、一緒に住んだら、
ゴミ出しだけは全部やってくれる?
なんだか、あたしって苦手なのね」
もちろんさ、ゴミのことは僕にまかせて。
もう、全部、引き受けちゃうから。
教えてもらった住所に向かうと、
小さい一軒家が目に入った。
近づいてみると、
小さな家が埋もれてしまうほどのゴミ袋の山。
家の中もゴミ袋がいっぱいの玄関先に、
可愛い彼女が満面の笑みを浮かべて
手招きをしていた。