対談 大橋歩さんと鹿児島睦さん。ひとりでつづけるものづくり。 対談 大橋歩さんと鹿児島睦さん。ひとりでつづけるものづくり。

2018年春の「やさしいタオル」
いっしょに「ほぼ日」に登場した、
イラストレーターの大橋歩さんと陶芸作家の鹿児島睦さん。
「いちどもお会いしたことがない」
というふたりを引き合わせたくて、こんな機会をつくりました。
大先輩を前に最初は緊張していた鹿児島さんでしたが、
「おんなじだ!」「ぜんぜんちがう‥‥」という発見が、
どんどん距離をちぢめてゆきました。
雑談めいたぶぶんも含めて、そのようすを
全6回でおとどけします。



鹿児島
土の仕事って地味なんですよね。
土を練るところからが仕事ですし、
泥だらけの仕事です。
工程も長いですし、
華やかでもなければ、かっこよくもない。
撮影をしてこうして書籍になって印刷されたものは
はっきりと綺麗に見えますが、
実物はもっと地味なんですよ。
大橋
やさしくなっちゃうんだ。
でも綺麗。
鹿児島
けれども、「やさしいタオル」もそうですが、
こうしたプロダクトというのは、
ほんとに見た目の色がとっても綺麗で楽しいです。
大橋
はっきりくっきり。
鹿児島
ちょっとそこにコンプレックスがあるんです。
楽しい仕事へのあこがれがあって。
大橋
コンプレックス?
そんなことないでしょう。
鹿児島
そう言いたくなるくらいの、地味な仕事なんです。
絵付けだけが楽しいんですよ。
土を練るところから形を作って乾燥させて、
という器づくりの95%を占める
地味な工程から考えると、
残りの5%である絵付けだけは、
楽しいと感じます。
大橋
ええー!
──
器を他の人や工房で作ってもらって
絵付けだけをするという方法もありますよ。
でもおそらく、
そういったことはされたくはないんですよね。
鹿児島
そういう仕事は、やろうと思えば
簡単なんだろうなと思います。
でもたぶん、うちの10坪ぐらいのスペースなら、
ぼく1人で全部やった方が楽なんですよ。
いちばん効率のいいやり方が
今のスタイルなんですね。
大橋
なるほど。
鹿児島
有田などの有名な産地に行くと、
大先生たちから「鹿児島君、1万年遅れとぅよ」
って言われます(笑)。
1万年って!
たしかに、簡単に成形できる機械を使うとか、
もっと楽に作る方法もあるのは確かです。
けれどもそれでは仕事場の半分が
機械や道具に支配されてしまう。
ぼくはそんなことができないので、
原始人と言われても、効率が悪くても、
いまのやり方が、ぼくができる範囲では
いちばん効率のいい方法なんですね。
──
鹿児島さんは、そういう1点ものの器のほかに、
イギリスのジョン・ジュリアン社に行って、
向こうの窯で絵付けだけをする、
というようなこともやっておられますよね。
鹿児島
はい。イギリスのクラフトって
洗練されたものから朴訥なものまで
幅が広いんですけど、
ぼくがたまたま友達になったジョン・ジュリアンは
どちらかと言うと素朴な感じで、
ロンドンから2時間半ぐらい行くような
ほんとうの田舎にある窯です。
職人さんたちが真面目につくっている、
少し重くて質実剛健なタイプの器です。
さすがのぼくでももうちょっと効率よく
つくった方がよくないかって、
口出しをしたくなるぐらい、
やり方を変えないでやってるところです。
▲ジョン・ジュリアンと鹿児島さんがコラボレーションした作品で、伊勢丹新宿店限定で発売されたもの。
大橋
へえー。
鹿児島
そこの職人さんたちから
「俺たちは皿は作れるけど、
絵付けって得意じゃないから、
マコト、やんない?」
みたいに言われて。
──
そういうことだったんですね。
鹿児島
面白かったです。
彼らは彫刻のように美しいキッチンツールも作りますが、
ビスポークといって、
顧客の貴族や郊外のB&Bとか個人経営のパブのために
紋章やロゴを入れたオリジナルの器を
作ったりもするんですよ。
ほんとにローカルな、でも伝統のある
パブのロゴが入っているとか、
16世紀からあるような
キャラクターが入っているというような。
そういうのをスタンプで型みたいに押して、
お皿に模様をつけるわけです。
それで何回か行ってる間に、
「絵付け用にお皿4枚だけ作っといたから」 とか言われて、絵付けをしたら
「面白いね」って言ってくれて、
それをローカルの個人でやってる美術館で
販売をしてみて‥‥、
というようなことをやってたんです。

あ、ちょっと話が脱線してもいいですか。
スイスの話なんですが。
大橋
もちろん。
鹿児島
海外での仕事経験が豊富な
スマイルズの野崎さんという知人や、
スイスに長く住んでいた兄から聞いた話だと、
スイスに行くと、過疎の村や町が
ないらしいんですよ。
どんな田舎の村に行っても、
交通機関、インフラが
ジュネーブとかバーゼルとかの
大都市と同じレベルで揃ってるんですね。
大橋
ええーー? 田舎でも?
鹿児島
家が5軒ぐらいしかないような村でも、
立派な駅舎があって、
きちんと時間通りに電車が来るらしいんです。
インフラがパーフェクトに揃ってるんですよ。
後から考えると、国防の意味もあるんですよね。
国境を村人が守らなくちゃいけないので。
大橋
ああ、なるほど。
鹿児島
だから敢えて、
交通機関もバッチリ揃えていて、
水とかガスとか電気とかもバッチリで。
その遊びに行った牧場で羊が何十頭いて、
山羊が何十頭いて、牛でミルク作って、
‥‥という暮らしをしているおじいちゃんは、
戦車が運転できるし、
おばあちゃんは高射砲が撃てるんです。
大橋
すっごい。面白い‥‥。
鹿児島
友達はヘリのパイロットだし、
奥さんは何だったかな、
「バズーカ砲が私上手くて」みたいな話を。
お家にはちゃんと拳銃があったり、
シェルターがあったり。
大橋
すごい。
鹿児島
そうやって国境を守ってもらわないと
いけないので。
大橋
はいはい、自分たちの。なるほど。
鹿児島
そうやってバッチリ、インフラが揃っていて。
もう絶対に過疎を作らないというのがスイスらしいです。
それがイギリスに行くと、
意識的にうんと田舎を残している
感じがするんですね。
森の向こうに行くぞというから、
てっきり森の中に道があるんだと思ったら、
すごく迂回して行くんです。
「何でここに道作らないの?」と訊いたら、
「だって森が壊れるじゃん」って。
大橋
ああ、なるほど。
鹿児島
迂回して、野生の馬がいるような、
荒涼としたヒース畑がずっと続いてるような
片側1車線の道を延々行くんです。
そこがメインの道路なので渋滞するんですよ。
大橋
そこしかないから。
鹿児島
ガードレールもないような道なのに大渋滞。
それは、できるだけ環境に負荷をかけないよう、
森が壊れないよう、野生の生き物たちに
負荷がかからないようにと守っているんです。
また、たとえ自邸の敷地内でも、
木を勝手に切っちゃいけない。
大橋
あら、そうなのね。
鹿児島
役所に行って、 「うちの庭のこの木切っていい?」って
許可をもらわないといけない。
もしその木が大事な景色の一部だと
認定されていたら、自分の敷地内であっても
切っちゃいけないらしいんです。
だから、日本人が相続税が払えず、
土地を売るとか駐車場にしますみたいなことが、
向こうの人たちには信じられないらしくて。
大橋
信じられないですよね、日本人でもそう思います。
鹿児島
ぼくの器を扱ってもらってる美術館も、
何にもないところなんですけれども、
領地を持ってる地主さんだったりとか、
貴族やお金持ちの方が別荘地にするとか、
きつね狩りをするためのお家を建てて、
そこに教会を自分のために建てて、
というふうにして
コロニーができていったといいます。
村によっては13世紀とか14世紀、
ロマネスクぐらいの時代のものが残っていて、
それがちゃんと名物になって、
どんなに小さくローカルな村でも、
パン屋さんがあり、魚屋さんがあり、
肉屋さんがあり、というので、
田舎であっても全然過疎感がないんですよ。
そしてロンドンに疲れたお金持ちたちが
自分のお気に入りのローカルにベースを持つ。
大橋
それは日本とずいぶん違いますね。
鹿児島
美術館にしても、個人でやってるんですが、
1279年に建てられたものを
メンテナンスしながら大切に使っていて、
茅葺なんですけど、ものすごく大きい、
ノアの箱舟のような美術館です。
さらに周りに小さいギャラリー作ったり、
アーティストが作り込みをするときに 
休憩したりミーティングをするスペースを
いい場所にとってくれていて、
そこを自由に使っていいよって言ってくれる。
だからそこを中心にして人が集まるんですよ。
ほんとに田舎なんですけれども、
土曜日、日曜日になったら、家族連れで一杯です。
みんな楽しく美術館を見て、
カフェでランチを食べて、
ゆっくりローカルで過ごして。
大橋
いやあ、面白い!
(つづきます)

大橋歩さんと鹿児島睦さんと
いっしょにつくった「やさしいタオル」は、
こちらでごらんいただけます。