ほぼ日の糸井と早野と河野が、
東京大学の特別講義に講師としてよばれました。
講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること。」
名づけたのは糸井です。
若い学生たちの希望にあふれる視線を受けて、
3人は、人生の先輩として、
「知恵や知識、行動のいろんなやり方を
どうやって覚えてきたのか」
を話すことになりました。
20歳のほぼ日とほぼ同い年の大学生からすると、
私たちのことをくわしく知らない人も
多かったことでしょう。
それでも積極的に質問を投げかけてくれました。
今回はほぼ日をあまり知らないという方々に向けて、
〈参考〉もつけましたのであわせてどうぞ。
みじかめの文章で全10回、
どこからでもよんでいただます。
- 河野
-
仕入れられたもう一方の河野です。
よろしくおねがいいたします。
僕はこれまで『婦人公論』や『中央公論』、
『考える人』など、
雑誌の編集者という仕事を長いことやってきました。
雑誌というのは間口が広くてですね、
決してひとりでは実現できない
大きな企画を形にするために、
ありとあらゆる人にお会いします。
そうして外の人たちから学んだり盗んだり、
力を借りながら仕事をしてきました。
これが、メーカーや研究機関などに勤めたら、
限られた人たちと深く付き合うことになります。
なんか、そういうのよりも、
好き勝手に自分の好奇心を広げながら、
おもしろいと思う人たちと仕事のできる環境が
性に合っていたんでしょうね。
そして、歳を重ねていくうちに、
蓄積してきた経験を次の世代に伝えたいと
思うようになりました。
なぜかというと、
いまの若い編集者を見ていると、
雑誌や本が売れなくなった出版状況を反映して
「編集」という仕事を
狭く考えているように感じるからです。
売れる本をつくらなきゃいけないから、
おもしろさよりも読者に受けそうなテーマを優先する。
もちろん本は売れてナンボのものですけれど、
売れればすべてOKというわけではありません。
もっと、自分が本当に知りたいことや、
本当に伝えたいことを芯に持って、
編集の仕事をしてほしい。
そこに知恵や工夫を発揮する余地、
たのしさや苦しさが
うんとつまっているからなんですね。
- 糸井
-
『できることをしよう。』#1という本を
河野さんと一緒につくったときに、
そういう心持ちは感じました。
『知ろうとすること。』
『できることをしよう。』
どちらも新潮社から出版された震災関連の本なのですが、
できるだけ早く出版したかったんですよね。
そういう僕らのわがままに賛同して、
一緒に走ってくれたから、
出版された本だと思うんですね。
あの背中は頼もしかったんですよ。
社内の調整も、すごく大変だったんですよね?
- 河野
-
すんなり、ではなかったですね(笑)。
老舗の出版社なので、本づくりがとても丁寧です。
秋前には来年春の本の企画会議が終わっています。
ほぼ日からお話をいただいたのは秋口で、
できれば震災のあった2011年の年内に本を出したいと。
新潮社のルーティン的には
とても受けられないタイミングでしたが、
ほぼ日が情熱を持ってやってきた
非常にいいコンテンツだったんです。
通常では「無理!」なんですが、
どうしてもやるべきだと思ったので、
主な人たちを集めて、
朝イチで大会議をやりました。
「これをやるべきだ、やりたい」と。
- 糸井
-
ありがたいことです。
- 河野
-
でもほぼ日の意欲や情熱を信じていましたので、
本という形にできました。
とてもいい経験をさせてもらいました。
自分と同じような体験をしてほしい、
とは言いませんが
編集の仕事を小さくたたんで、
ルーティンにしないでほしい。
あまり目の前の風景に束縛されすぎないでほしい。
「もっと遠くをみてもらいたい」
という気持ちが高まっていたタイミングで、
偶然「ほぼ日の学校」にお声がけいただきました。
本が売れないと言われている時代でも、
好奇心旺盛な潜在的な読者が
世の中にはいっぱいいることを、
いま受講生たちの熱気から感じています。
その人たちと一緒に
考えるヒントの仕入先を
古典の世界の中に探り続けている毎日です。
- 早野
-
古典から学ぶことは多いですからね。
あの、この絵を知っている人はいますか?
- 聴講生
-
「巨人の肩の上に立つ」ですか?
- 早野
-
そうです。
ありがとうございます。
これは、万有引力を発見したアイザック・ニュートンが
知人から「なぜ、すばらしい発見をできたのですか?」
と聞かれて答えた比喩表現で、
「先人が積み重ねてきた知見の基に
新しい発見をしたのだ」という意味です。
古典とは、先人たちの知見の宝庫です。
僕も先人の知見を基に実験を繰り返し、
死ぬときにはなにかひとつでも、
次世代に結果を残したいと奮闘しました。
それはどこか孤独な戦いで、
個人の能力を高めて自ら発見することが大事だと
思っていたんですね。
ですが、巨人の肩というのは
決して個人の肩ではないんです。
社会や組織、集団の肩でもあるんですね。
優秀な会社とそうでない会社があったとすると、
それは個人の知恵や能力だけでは
決まらないと思います。
頭のいい大学出身者だけを集めていれば、
優秀な会社になるわけではありません。
そこで大事なのは「集団としての賢さ」です。
お互いの間で学び、盗み、
学んだことに対して「ありがとう」と伝えて、
その組織に貢献しようとする。
ほぼ日はそういうことがだいぶできています。
- 糸井
-
できるようになってきていると思いますね。
- 早野
-
個々がしっかり育っていくことも大事なのですが、
集団の中で学び合い、社会に対して貢献するほうが
これからは大事だと思います。
しかもひとりずつが
少しずつ方向性が異なることをやっていて、
互いに学び合い、感謝し合う関係がある。
なので、僕は研究者のときといまとでは、
この絵を見るときの気持ちが違います。
どんどん上に立ってのし上がっていくのではなく、
お互いに感謝し合うんです。
(つづきます。)
-
- #1 できることをしよう。
- ほぼ日に掲載された
東日本大震災関連のコンテンツがまとめられた1冊。
震災の日からなにをどう考えてきたのか、
生々しい思いを語りおろしています。