学ぶこと、盗むこと、仕入れること。

hobo nikkan itoi shinbun

糸井重里×早野龍五×河野通和 東京大学特別講義

ほぼ日の糸井と早野と河野が、
東京大学の特別講義に講師としてよばれました。
講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること。」
名づけたのは糸井です。
若い学生たちの希望にあふれる視線を受けて、
3人は、人生の先輩として、
「知恵や知識、行動のいろんなやり方を
 どうやって覚えてきたのか」
を話すことになりました。
20歳のほぼ日とほぼ同い年の大学生からすると、
私たちのことをくわしく知らない人も
多かったことでしょう。
それでも積極的に質問を投げかけてくれました。
今回はほぼ日をあまり知らないという方々に向けて、
〈参考〉もつけましたのであわせてどうぞ。
みじかめの文章で全10回、
どこからでもよんでいただます。

3 本当に伝えたいことを芯に持って仕事をする。 2018.08.18

河野

仕入れられたもう一方の河野です。
よろしくおねがいいたします。
僕はこれまで『婦人公論』や『中央公論』、
『考える人』など、
雑誌の編集者という仕事を長いことやってきました。
雑誌というのは間口が広くてですね、
決してひとりでは実現できない
大きな企画を形にするために、
ありとあらゆる人にお会いします。
そうして外の人たちから学んだり盗んだり、
力を借りながら仕事をしてきました。

これが、メーカーや研究機関などに勤めたら、
限られた人たちと深く付き合うことになります。
なんか、そういうのよりも、
好き勝手に自分の好奇心を広げながら、
おもしろいと思う人たちと仕事のできる環境が
性に合っていたんでしょうね。

そして、歳を重ねていくうちに、
蓄積してきた経験を次の世代に伝えたいと
思うようになりました。
なぜかというと、
いまの若い編集者を見ていると、
雑誌や本が売れなくなった出版状況を反映して
「編集」という仕事を
狭く考えているように感じるからです。
売れる本をつくらなきゃいけないから、
おもしろさよりも読者に受けそうなテーマを優先する。
もちろん本は売れてナンボのものですけれど、
売れればすべてOKというわけではありません。
もっと、自分が本当に知りたいことや、
本当に伝えたいことを芯に持って、
編集の仕事をしてほしい。
そこに知恵や工夫を発揮する余地、
たのしさや苦しさが
うんとつまっているからなんですね。

糸井

『できることをしよう。』#1という本を
河野さんと一緒につくったときに、
そういう心持ちは感じました。
『知ろうとすること。』
『できることをしよう。』
どちらも新潮社から出版された震災関連の本なのですが、
できるだけ早く出版したかったんですよね。
そういう僕らのわがままに賛同して、
一緒に走ってくれたから、
出版された本だと思うんですね。
あの背中は頼もしかったんですよ。
社内の調整も、すごく大変だったんですよね?

河野

すんなり、ではなかったですね(笑)。
老舗の出版社なので、本づくりがとても丁寧です。
秋前には来年春の本の企画会議が終わっています。
ほぼ日からお話をいただいたのは秋口で、
できれば震災のあった2011年の年内に本を出したいと。
新潮社のルーティン的には
とても受けられないタイミングでしたが、
ほぼ日が情熱を持ってやってきた
非常にいいコンテンツだったんです。
通常では「無理!」なんですが、
どうしてもやるべきだと思ったので、
主な人たちを集めて、
朝イチで大会議をやりました。
「これをやるべきだ、やりたい」と。

糸井

ありがたいことです。

河野

でもほぼ日の意欲や情熱を信じていましたので、
本という形にできました。
とてもいい経験をさせてもらいました。

自分と同じような体験をしてほしい、
とは言いませんが
編集の仕事を小さくたたんで、
ルーティンにしないでほしい。
あまり目の前の風景に束縛されすぎないでほしい。
「もっと遠くをみてもらいたい」
という気持ちが高まっていたタイミングで、
偶然「ほぼ日の学校」にお声がけいただきました。
本が売れないと言われている時代でも、
好奇心旺盛な潜在的な読者が
世の中にはいっぱいいることを、
いま受講生たちの熱気から感じています。
その人たちと一緒に
考えるヒントの仕入先を
古典の世界の中に探り続けている毎日です。

早野

古典から学ぶことは多いですからね。
あの、この絵を知っている人はいますか?

聴講生

「巨人の肩の上に立つ」ですか?

早野

そうです。
ありがとうございます。
これは、万有引力を発見したアイザック・ニュートンが
知人から「なぜ、すばらしい発見をできたのですか?」
と聞かれて答えた比喩表現で、
「先人が積み重ねてきた知見の基に
新しい発見をしたのだ」という意味です。

古典とは、先人たちの知見の宝庫です。
僕も先人の知見を基に実験を繰り返し、
死ぬときにはなにかひとつでも、
次世代に結果を残したいと奮闘しました。
それはどこか孤独な戦いで、
個人の能力を高めて自ら発見することが大事だと
思っていたんですね。
ですが、巨人の肩というのは
決して個人の肩ではないんです。
社会や組織、集団の肩でもあるんですね。

優秀な会社とそうでない会社があったとすると、
それは個人の知恵や能力だけでは
決まらないと思います。
頭のいい大学出身者だけを集めていれば、
優秀な会社になるわけではありません。
そこで大事なのは「集団としての賢さ」です。
お互いの間で学び、盗み、
学んだことに対して「ありがとう」と伝えて、
その組織に貢献しようとする。
ほぼ日はそういうことがだいぶできています。

糸井

できるようになってきていると思いますね。

早野

個々がしっかり育っていくことも大事なのですが、
集団の中で学び合い、社会に対して貢献するほうが
これからは大事だと思います。
しかもひとりずつが
少しずつ方向性が異なることをやっていて、
互いに学び合い、感謝し合う関係がある。
なので、僕は研究者のときといまとでは、
この絵を見るときの気持ちが違います。
どんどん上に立ってのし上がっていくのではなく、
お互いに感謝し合うんです。

(つづきます。)

参考にどうぞ! 参考にどうぞ!

  • #1 できることをしよう。
    ほぼ日に掲載された
    東日本大震災関連のコンテンツがまとめられた1冊
    震災の日からなにをどう考えてきたのか、
    生々しい思いを語りおろしています。