ほぼ日の糸井と早野と河野が、
東京大学の特別講義に講師としてよばれました。
講義のタイトルは
「学ぶこと、盗むこと、仕入れること。」
名づけたのは糸井です。
若い学生たちの希望にあふれる視線を受けて、
3人は、人生の先輩として、
「知恵や知識、行動のいろんなやり方を
どうやって覚えてきたのか」
を話すことになりました。
20歳のほぼ日とほぼ同い年の大学生からすると、
私たちのことをくわしく知らない人も
多かったことでしょう。
それでも積極的に質問を投げかけてくれました。
今回はほぼ日をあまり知らないという方々に向けて、
〈参考〉もつけましたのであわせてどうぞ。
みじかめの文章で全10回、
どこからでもよんでいただます。
- 早野
-
では、質問を受け付けましょうか。
- 聴講生(男性)
-
本日はありがとうございました。
現在僕は大学院生で、
研究者になろうか将来を模索しています。
お話を聞いていて思ったのは、
アカデミズムは狭い世界の中で深く潜らないと
みえてこないおもしろさもあるでしょうし、
一方で、力を必要としてくれる誰かのために
広い視点で研究をするおもしろさもあって、
両者を両立するのは難しいと思っています。
自分のためと他人のため、
その関係性をどうあつかえばいいのか
漠然とした質問なのですが
どうお考えでしょうか。
- 早野
-
カギになるのは「時間軸」だと思います。
若いときに「誰かのために力を発揮しよう」
と考えることは正直言って、
むずかしいと思います。
僕が福島に関わりはじめたのは59歳なんですね。
あれがもし49歳のときだったら、
研究者としてキャリアを積むこと、
大学院生を教育すること、
そういったことを優先して関わらなかったと思います。
でも、あれができたのは定年間際だったから。
あと1本自分の論文を書くよりも、
たった数年で誰かを育てるよりも、
社会や誰かのために自分の時間を費やそうと
判断ができました。
- 糸井
-
ちょうどいい年齢だったんですね。
- 早野
-
そうです。
人生の中で決断する、ということは
どの年齢でなにを考えるのか、
時間軸とともに見極めることが重要です。
おっしゃる通り、
研究者として深くその分野に関わったからこそ、
それなりの成果も出せると自信を持てました。
若いころから八方美人で
なんでもかんでもやっていたら、
福島に関わる責任は持てなかったと思います。
僕が東大の最終講義で話したことで、
みなさんからいい反応をいただけた言葉があるので
ここでもお伝えしようと思います。
僕が仕事に対して大事にしている姿勢として、
まず「アマチュアの心ではじめる」。
研究者ですから真新しいことが多く、
最初のとっかかりは知らなくて当然です。
でも、最後は「プロの仕事として仕上げる」。
仕事ですから、そこはこだわりたい。
それらを「たのしそうにやる」んです。
たのし「そう」というのは結構大事で、
たのしくないときも、もちろんあります。
研究生活に入りはじめの人ならわかると思いますが、
同じことを繰り返して、
成果もなかなか出なくて、
そんなに毎日楽しくはないですね(笑)。
- 一同
-
(笑)
- 早野
-
でも、たのし「そう」にやることで、
自分にも周りにも
たのしそうなパワーが伝達されるんですね。
アマチュアの心ではじめて、
プロの仕事として仕上げる。
それらをたのしそうにやる。
そうやって力いっぱい仕事と向き合うことで、
どこかで突き抜けられます。
そして、いつの日か、
誰かのために力を発揮する瞬間が
くるかもしれません。
時間軸を自分の中に持っていると、
うまく考えられるのではないかと思います。
- 聴講生(男性)
-
ありがとうございます。
- 早野
-
別の質問、いかがでしょうか。
- 聴講生(男性)
-
お話、ありがとうございました。
僕の専攻は経済学ですが、
普段は文学をよんだり映画を観たりするのが好きです。
ただ、経済学とは直接関係ないので、
自分の中でどうつながっているんだろうと
思うことがあります。
早野先生は歌舞伎がお好きですが、
歌舞伎と物理学はどう関連されていて、
どんな風に向き合われていますか?
- 早野
-
物理学という学問を究めることと、
歌舞伎をたのしむことや教えることの間には、
なんら関係ありません。
- 一同
-
(笑)
- 早野
-
関係はないんだけれども、
僕というひとりの人間の
アイデンティティですね。
無理やり歌舞伎の知識を物理に活かそうですとか、
物理の方程式を歌舞伎にたとえようですとか、
そんなことは一切考えていません。
お互いにAやったからB、
BやったからCなんていう
一直線上の関係はないんです。
だけど音楽も、歌舞伎も、
長年物理学の研究をしてきたことも、
福島に行って高校生たちと活動したことも、
必然性があって足を踏み入れたこと。
すべて、僕の中で確実に生きているので、
それでいいと思っています。
(つづきます。)