さまざまなバラエティ番組で活躍し、
4月からはTBS朝の顔にも。
日々大忙しのはずの麒麟・川島明さんが
ほぼ日曜日の空間に
「#ホテルカワシマ」をオープンします。
芸人さんがホテルを?
いったいどういうこと?
1年以上かけて準備してきたという
謎多きこのプロジェクトについて、
支配人であり仕掛け人の
川島さんに聞きました。
- ――
- ここまでのお話で、
「#ホテルカワシマ」には
いくつか部屋があって、
部屋ごとに違った笑いが体感できるらしいことが
わかりました。
毎日かなりお忙しいと思うのですが、
「#ホテルカワシマ」のことは
いつ考えていたんでしょう?
- 川島
- 日中は芸人として頑張らせてもらって、
家に帰ったらお父さんとして頑張ってますが、
毎朝早いので
夜10時には寝ないといけないんですよ。
子どもたちがやっと寝つくのがだいたい9時。
そこからの1時間で、
ベッドに横たわりながら毎晩あれこれ考えてます。
今はその自由時間をぜんぶ
「#ホテルカワシマ」に費やしている感じです。
- ――
- それぞれの部屋の仕掛けは、
どんなふうに考えていきましたか?
- 川島
- 「こういう仕掛けをやってみたいから
この部屋はこんなふうに作りましょう」
と、ひとつのお題をどんどん広げたものが、
最終的に部屋になっているといいますか。
そのなかに、お題に対するボケが
詰め込まれている感じですね。
バラエティに出していただいたり、
大喜利の機会が多かったり、
もちろん漫才もたくさんやっていますけど、
そこではちょっとやったことのないものです。
- ――
- これまで川島さんがやってきた
どれとも違う作りかた。
- 川島
- はい。
漫才は、
「相方がこう言うから僕はこう言おう」と
二人で組み立てて、お客さんの反応を見て
「ここを広げたらおもろいな」と変えていく、
僕と相方とお客さんの3人で作っている感じ。
「#タグ大喜利」は真逆で、
大喜利のお題が皆さんの顔で、
発表した時点で完成。
今回はホテルというひとつのお題があって、
それに答える大喜利のかたちではありますけど、
「何人でいらっしゃるんだろうな」とか、
「どこを最初に見るだろう」とか考えると、
発表して終わりではない部分がありますね。
- ――
- 新しいかたちのネタ作りには、
やはり難しさもありますか?
- 川島
- それは全くないんですよ。
今回は直接顔を合わせる打ち合わせのほかに、
今ならではのやり方として
LINEグループを作っていただいて。
なにか思いついたらその瞬間に
チームの皆さんにどんどんLINEを送って、
「こういうのはどうやったらいいんだろう」
とアイディアを聞いてもらったんです。
これはすごく助かりました。
スタッフの皆さんがやさしくて、
毎回「ここが面白いですね」と
返事をくださるので、
それが自信につながってます。
だいぶニヤニヤしながら作ってますし、
なんだか文化祭のような気持ちで取り組んでいます。
20年以上芸人をやってきて、
今回はじめてのものづくりだな、
と思います。
- ――
- 今回はやろうとしていることも、
その作り方自体も、
新しかったわけですね。
- 川島
- いやもう、ほんまに。
完成形はまだわからないですけど、
すでにやってよかったなと思ってます。
こういうご時世になって
単独ライブをやろうとしても
気を遣う部分がたくさんあって
なかなかやりづらい。
この「#ホテルカワシマ」では
それを逆手にとってるんですよ。
それぞれの部屋の滞在に時間制限を設けたりもしますし、
直接いろんなものに触れられないということも、
いい形で昇華できていると思います。
だからある意味、変わったかたちの
川島明単独ライブといえるかもしれません。
- ――
- 単独ライブ。
- 川島
- なんかね、今回は、
自分の脳の中に遊びに来てもらう、
という感覚がいちばん近いですかね。
「僕、ふだんずっとこんなことを考えているので
ちょっと覗いてもらえませんか」と
みなさんを招き入れる感覚。
- ――
- ということは、
ふだんやっている漫才などの表現の
もっと根本のようなものが観られそうですね。
- 川島
- そうなんですよ!
漫才とか本はきれいにパッケージして
「どうですか」と出しているものですけど、
今回は、自分の発想の”原液”を
そのままお見せする感じです。
- ――
- 川島さんはバラエティ番組で
誰かの発言に間髪入れず
ツッコミとかガヤを入れますよね?
あれは、あの短い時間でも、
パッと思いついた頭の中のものを
そのまま出すのではなく、
磨いたものを出しているという意識ですか?
- 川島
- ああ、そうです。
僕らの仕事は発言ひとつとっても、
字になってしまいますから。
たとえば何かを食べて
「これはベッドみたいな食感ですね」というとき、
「ベッド」より「寝具」と言ったほうが面白いな、とか
そういうことを選んで発していたりします。
- ――
- それを数秒たらずの時間で返すのは、
自然にできるものなんですか?
- 川島
- そうですねえ‥‥。
これはめっちゃ細かい話になりますが、
その場に誰がいるかということでも変わってきます。
僕はいろんなお仕事をさせていただく中で、
たとえばスタジオにアナウンサーさんと賢い方がいて、
芸人は僕だけ、みたいな番組もあるわけです。
その誰かがボケたときは、
とにかくスピード重視でそのボケをツッコミで助けないと、
というのがあるから、
言葉を頭で練るより先に、
そのまま「いやそれベッドじゃないですか!」とか言う。
でもたとえば千鳥の番組のように、
手練れしかいないなかで、
僕がコメントする順番が4番目くらいなら、
だいぶ考えないといけない。
丁寧なソースをかけたお皿を用意しないと、
という感じで言葉をもっと選ぶかもしれません。
- ――
- では、やはりふだんのバラエティで
川島さんが出しているものとも
また違ったものが「#ホテルカワシマ」では
見られるかもしれない。
- 川島
- そうですね。
だから、見た方が違和感を感じるところも
あるかもしれません。
全部が全部「なるほどね」ではなくて
「あれは、なんやったんやろ?」みたいな部分も
作るようにしているので。
あと、現世と切り離すことも
意識しています。
- ――
- 現世と切り離す?
- 川島
- 細かい部分を考えているなかで、
ボケの言葉ひとつとっても
芸能人の方の名前を使ったりせず、
非現実的な要素でいきたいなと。
作っていく途中で
そのルールを決めたときにまたひとつ、
この「#ホテルカワシマ」の世界が
確立した気がしました。
- ――
- 普遍的で、非現実的な空間。
- 川島
- そうです。
その空間の楽しみ方自体も
お客さんに渡すような‥‥。
あまり梱包しきっていない、
ふぞろいバウムみたいな感じというか、
まかないのようなものが多いですね。
そういう非現実的なものが
部屋のドアを開けるたびに
群れで置いてある。
それを「アートやな」と解釈してくれる人がいても、
「なんやこれ、しょうもな!」と
思ってくれる人がいてもうれしい。
どう捉えていただいたとしても、
「#ホテルカワシマ」に滞在している間は、
現実を忘れて、
深呼吸していただけるんじゃないかと思います。
(つづきます)
2021-09-11-SAT