- ──
- 明るくユーモラスなお人柄もあってか、
映画のなかのマークさんには、
さほど「悲壮感」は感じませんでした。
- でも、それでも、
涙を流したりする場面もありました。
- マーク
- さっきも言ったように、
屋上は、常にハッピーではなかったから。
- でも、それは他の人だって同じでしょう。
- ──
- ええ、泣くことだってふつうにあります。
ま、あたりまえですけど‥‥。
- マーク
- 自分は、どんな暮らしをしていても、
人生とは素晴らしいものだと思っている。
- ただね‥‥屋上にステイしていた当時の
自分のありようを考えると、
ものすごく皮肉だなあと思うこともある。
- ──
- 皮肉?
- マーク
- だって、屋上で、
ほぼすべてを剥いだ生活をしているのに、
目の下では、
ニューヨークという、Excessiveな‥‥。
- つまり、過剰な世界が広がってるわけで。
- ──
- 世界一の消費社会が、そこに。
- マーク
- そう、ファッションひとつとってみても、
過剰で無駄な部分が、すごく多い。
- そういう世界のなかで、
ほとんど何も持っていない自分というものが、
皮肉というか、矛盾というか‥‥。
- ──
- 極端のなかの極端、という感じですよね。
- マーク
- そういうふうに感じることは、よくあった。
- 映画のなかで、ボランティアで、
慈善イベントのサンタクロースをしている
僕の姿が映っているけど、
あれだって、ずいぶんな皮肉だと思う。
- ──
- そうですよね、たしかに。
- マーク
- だって、家のない人たちのために開かれた
イベントだったわけで、
そこでボランティアをしている自分こそが、
何年も、家を持ってなかったんだから。
- ──
- ニューヨークに住んだことはないんですが、
ホームレスをしてまで住みたい、
それも6年も‥‥って、
マークさんがそれほどのめりこんでるのは、
それだけ、魅力的な街なんでしょうか。
- こう言っては何ですが、
ニュージャージーの実家にも住めるわけで。
- マーク
- ああ、最初に話したけど、
子ども時代、ずっとひとりだったでしょう。
- そのときに、まわりに何にもない風景や、
まったくの孤独であるということが、
本当に、嫌で嫌で‥‥たまらなくて。
だから、大きな都市にいるだけで安心する。
- ──
- なるほど。
- マーク
- それに、実家に住めばいいって言うけど、
ニュージャージーからニューヨークまでは
片道2時間半もかかるんだ。
- ニューヨークで仕事していたら、
とてもじゃないけど、通いきれないんだよ。
- ──
- たしかに、往復5時間となると。
- マーク
- それに、
ニューヨークという街に自分が住んでいる、
そのことを
「のめりこむ」という言葉で表現するのは、
自分では、ちょっと違うと思っていて。
- ──
- それは、なぜですか?
- マーク
- つまり、ニューヨークという街は、
そうだな‥‥ものすごく刺激的なところで、
自分にいろんなものをくれるけど、
それは、自分がはたらきかければこそ、で。
- 自分が何かをがんばったら、
それに、きちんと応えてくれる街だと思う。
- ──
- 一方的な関係じゃない、と。
- マーク
- うん、それに、自分は6年間、
あのアパートの屋上にステイしていたけど、
それなりに居心地よかったし。
- 無理にニューヨークにいたわけでは、ない。
- ──
- たしかに、本当に嫌だったら、
そんなに長く滞在できませんよね、きっと。
- でもやっぱり、都会がおもしろいですか。
- マーク
- 昨日、52階の展望台に登って見渡したら、
東京の大きさが、よくわかったよ。
- こんな大都会に住んでたら、
あなただって外に出ていきたいでしょう。
- ──
- ええ、それは‥‥はい。
- マーク
- きっと自分は、
昔からそういう人間なんだと思うんだけど、
たとえば、
映画館で映画って、ほとんど観ないんだ。
- ──
- そうなんですか。ご自分は出てるのに。
- マーク
- なぜなら、2時間ものあいだ、
まっ暗闇の箱の中に閉じ込められるわけで、
そのあいだにも、
外の通りでは、何か起きてるかもしれない。
- ──
- それを、見に行きたい?
- マーク
- そういう気持ち。
- ──
- 何かが動いているところにいたい、と。
- マーク
- そう。
- ──
- 今回、
マークさんのドキュメンタリーを撮りたい、
というオファーを受けて、
結局、3年間も密着されたわけですけれど、
どういう感想を持ちましたか?
- 突然、映画に出てくれって言われるのって。
- マーク
- 自分としては、さほど驚きではなかった。
- なぜなら、
監督のトーマス・ヴィルテンゾーンって、
旧知のモデル仲間だったから。
- ──
- あ、そうなんですか。
- マーク
- あるときに、
彼に、自分の生活を告白したわけだけど、
彼のほうがびっくりしたと思うよ。
- ──
- ドキュメンタリーを
撮ってしまったくらいですものね。
- マーク
- それも、彼のキャリア初の映画になった。
- 自分は演技のクラスに通っていたりして、
物語の創作に興味があって‥‥
自分のような人間の人生を撮ったほうが、
作品に、ある種、
アートのような感覚が生まれるだろうと、
そういう思いもあったし。
- ──
- 屋根のある暮らしをしてる人を撮るより。
- マーク
- そう。
- ──
- そこは、ご自分で、あるていど客観的に、
「おもしろいものができそう」と?
- マーク
- たとえば、あんなところに暮らしていて、
誰かに見つかったら
不法侵入とかで、捕まっちゃうけど‥‥。
- ──
- あぶない場面、ありましたよね。
- マーク
- ドキュメンタリーに出てくる人としては、
警察に捕まったほうが、
おもしろい映画になりそうだ‥‥とかね。
- ──
- へえ、そこまで客観視して。
- マーク
- うん。ニューヨークのアパートの屋上に
6年も滞在している、
それもファッションの業界にいる自分は、
ドキュメンタリーの素材として、
なかなか興味深いだろうと思ってたから、
それほど、おどろきはなかった。
- ──
- ドキュメンタリーを観た人に
どんなメッセージが伝わったらいいなとか、
そういうのは何か、あったんですか?
- マーク
- とくにない。
- ただトーマスには、ああいう状況のなかで、
自分が、人生において、
どんなものに興味を持っていて、
どんなものに心を惹かれていて、
どんなものに苛立っているのか、
そこだけは
ありのままに伝えてほしいと思っていたよ。
- ──
- それはつまり、マークさんそのものですね。
- マーク
- 自分の興味関心と、苛立ちと、
あとは、
人生こんなに素晴らしいじゃないかという、
そういう気持ち。
- ──
- 人生の素晴らしさ。
- マーク
- それは、自分のことだけじゃなくて、
ビジネスマンであろうと、
学校の先生であろうと、
わたしであろうと、あなたであろうと、
誰の人生でも、
誰かの人生の一場面というのは、
どれも素晴らしいシーンになると思う。
- その人のドキュメンタリーにとっては。
- ──
- では、最後に、マークさんが
ご自分の人生で大切にしているものは、
何だと思いますか。何かありますか。
- マーク
- 独立心、独立していること。
- ──
- おお、きっぱりと。
- マーク
- もちろん、それがままならないことも、
人生にはよくあるんだけど。
- ──
- ええ。
- マーク
- できうるかぎり、
他人に頼らないで生きていけることが、
自分の人生にとっては、
すごく重要なことだなと思っています。
(おわります)