ほぼ日刊イトイ新聞
縄文人の思い。~津南の佐藤雅一さんに訊く、縄文と今と未来がつながるところ~

新潟県津南町にある縄文文化の体験施設
「なじょもん」の佐藤雅一さんは、
縄文人の「思い」に、思いを馳せます。
彼らは、どんなことを考えて、
燃えるような火焔土器をつくっていたのか。
そこに込められた意味や思いに、
どうにか接近しようと、試みています。
縄文時代と現代は、つながっている。
それは未来にも、通じている。
佐藤さんの話を、たっぷりうかがいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
全7回の連載として、お届けいたします。

佐藤雅一さんプロフィール

第1回
知りたいのは、縄文人の思い。

──
佐藤さんは、
縄文の何に興味があるんでしょうか。
佐藤
人ですね。
──
人。縄文の人ですか?
佐藤
どんな生活をしていたんだろうとか。
──
当時の人たちが。
佐藤
もっと言うと、縄文人が、
どういう「思い」を持っていたかを、
知りたいんだよね。

当然、むずかしいとは思うんだけど、
将来的には、
そういうところまでいきたいです。
──
縄文人の思い。
佐藤
うん。
──
当時の人々の「思い」を感じられる、
そういう痕跡が残っているんですか。
佐藤
直接的にはないですよ。
──
そうですよね。
文章が残されているわけでもないし。
佐藤
だから、たとえば土器の縄目文様を、
どんなふうに解釈するか。

仮にね、今、ここに小学生を集めて、
「何か書いて」って言ったら、
ぜんぜん共通性のない絵ばっかりに
なると思うんだけど、
そこに一言、何か言ってあげれば‥‥
規則性やルールが、
生まれてくる可能性がありますよね。
──
ええ。
佐藤
縄文土器には、規則性があるんです。

てことは、縄文土器の網目文様にも、
「意味」が、きっとある。
それを今、俺たちは考えはじめてる。
──
文様の意味と、そこに込めた思い。
佐藤
縄文の文様を、
それぞれの楽器のパートに変換して、
楽譜にして、音楽をつくってる
齋藤孝太郎ってチェリストもいたり。
──
音にして読み解く、みたいな感じで。
へぇー‥‥、おもしろそう。
佐藤
縄文土器をよーく見たらわかるけど、
みんながみんな、
自由気ままにはつくってないんです。

文様、かたち、
このような儀礼に使っていた鍋釜は、
だいたいこんな格好してるとか。
──
ええ。
佐藤
ニワトリの頭みたいな装飾を鶏頭冠、
と呼んでるんですが、
個体によって、
顔の方向が、時計回りなら時計回り、
逆なら逆で統一されてます。

やっぱり勝手につくってないんです。
──
単なるデザインでしかなければ、
右向きと左向きが交じってきたって
おかしくないってことですね。

ようするに、縄文土器づくりには、
ある程度の決まり、設計図があった。
佐藤
ただ楽しくつくっていた器ではない、
ということです。

器面を3等分、5等分したことが、
現代の「七五三」に
つながったんじゃないかとか、
縄の撚り方にしたって、
当時も右撚りと左撚りの別があって、
現代の正月飾りの縄は左撚りだとか、
今の自分たちの生活に、
おもしろいヒントが残っているなと、
俺なんかは思うんだけど。
──
ええ。
佐藤
縄文時代の生活と、
今の自分たちの生活を結びつけては
駄目だという意見が、8割。
──
あ、そうなんですか?
佐藤
俺たちみたいに、
縄文と現代を結び付けて考える人は
せいぜい、残りの2割くらいで。

まあ、たしかに
「どうして5千年6千年前の昔話を、
 今と一緒にするんだ」って、
その言い方は、ま、わかるというか。
──
では、なぜ、そう思うんですか?
佐藤
人間自体は、変わってないからです。

文字はなかったとしても、どっちも
ホモ・サピエンス・サピエンスなんだから、
考えてること、俺たち、一緒だよ。
──
縄文人と、佐藤さんでは。
佐藤
3万年前の人とも、俺たち同じだよ。
形質的にもまったく変わりないし。

同じ人間の頭で考えることだから、
今も昔も、
同じようなことに心を動かすし、
同じような原理で動くんじゃない、
というのが俺の立場。
──
なるほど。
佐藤
その前の「原人」と呼ばれる人たちは、
手首がうまく動かなかったせいで、
原始的な石器しかつくれなかったけど。
──
ああ、そうなんですね。

手首の動きが滑らかになったおかげで、
石器も進化したんですか。
佐藤
縄文人の場合は、イヌイットと一緒で、
動物の皮を歯でやってたんです。
──
ええ。歯で、皮をなめしてた?
佐藤
うん。だから、そういう意味で言うと、
いろんな人と会ってきたけど、
昭和一桁の人はやっぱりすごいと思う。

生きる文化財っていうか、
手の指と足の指を使うのはふつうで、
あるばあちゃんなんか、
それこそ、歯を道具として使ってた。
──
縄文人のように。
佐藤
それも、栃の実を噛んでたの。

ばあちゃん、しびれるだろって聞いたら、
しびれるんだけど、
こっちのほうがはやいんだよって言って、
こうやってかじって、皮むいて。
──
わあ。
佐藤
そうやって、人類は、縄文の時代から
手の指だけじゃなく、
足の指も歯も、
ぜんぶ「道具」として使ってたわけで。
──
そういうところにも、
縄文からの連続があるのかもしれない。
佐藤
研究者が、学問的な態度として、
縄文からの連続性に
慎重になるのは仕方ないとは思うけど。
──
ええ。
佐藤
でもさ、どうやったら
新しい地平を見られるかと考えたら、
やっぱり、俺なんかは、
「つながってるよ」って考えたほうが、
おもしろいなあって思う。
<つづきます>

2019-02-06-WED