第2回
縄文人は、頭がいい。
- ──
- 佐藤さんは、ちょくちょく
「縄文人は頭がいい」って意味のことを
おっしゃいますけど、
そのあたり、もっと詳しく聞きたいです。
- 佐藤
- それはつまり、
生きる力を持ってるってことだよね。
- ──
- なるほど、当時の過酷な環境を。
- 佐藤
- たとえば、厳冬期、このあたりには、
雪が3メートル、4メートル積もる。
そんなところに、
現代の人間も生きてるわけだけどさ。
- ──
- ええ。
- 佐藤
- 俺らガキのころは除雪車なんかないし、
本物の豪雪となれば、
電線をまたいでる写真もあるくらいで。
- ──
- ひゃー、そんな世界。
- 佐藤
- で、そういう環境のもとで、
縄文人だって生きていたわけですよね。
- ──
- ああ、なるほど。
- 佐藤
- いろいろ調べたんだけど、
移住越冬なんかもしてなかったみたい。
- ──
- 風雪を防ぐ家も暖房もない時代に。
- 佐藤
- 縄文の人たちは、こういう環境のもとで、
生き抜く力を持っていたんです。
100日くらいあるんですよ、だいたいね。
雪の期間っていうのはね。
- ──
- 1年のうち3ヶ月くらいは雪ですか。
- 佐藤
- そう、その100日間を生き抜くために、
このあたりのばあちゃんたちは、
5月の連休あたりになると、
山に入っていって、
ゼンマイなんかを採りはじめるわけ。
次の冬を越すための食料を、
雪が消えたら、すぐ集めはじめるの。
- ──
- なんというか、昔は、
1年全体を使って生きてたんですね。
- 佐藤
- このあたりの地域が多雪化したのは、
8千年くらい前に、
日本海に対馬暖流が流れ込んで以降。
それから‥‥とまでは言わないけど、
今もまだ、この地域の年寄りは、
雪が消えた瞬間に
山んなかへゼンマイを採りにいって、
採ってきたゼンマイをもんで、
むしろを敷いて、
乾燥させて保存食にしているんです。
- ──
- 今も、変わらず。
- 佐藤
- たぶん、多雪化する前は、
せいぜい1メートル積もるくらいの、
乾燥した冬だったんです。
- ──
- そうなんですか。じゃあ、そこから、
3メートル4メートルの豪雪地帯へ。
- 佐藤
- つまり、縄文人は、
激変する環境に適応する力があった‥‥
現代の俺らのように、
便利な道具や科学技術がなくたって、
環境に適応する能力があったんです。
- ──
- その意味で「頭がいい」んですね。
- 佐藤
- 縄文人という、
厳しい自然と共生していた人類から、
俺らは、学び得ることが、
まだまだ、たくさんあると思います。
何も、縄文社会に立ち戻って、
縄文人と同じ生活をしようだなんて、
そんなことを
言ってるわけじゃなくてね。
- ──
- ええ、ええ。
- 佐藤
- たとえば、俺らは、山へ入るときは、
白樺の木の皮を剥いで、
マッチと一緒に鞄に入れとくんです。
- ──
- へえ、白樺。どうしてですか。
- 佐藤
- どんな状況でも火を点けられるから。
白樺って、皮が油を持っているから、
火が点きやすいんです。
- ──
- それを知っていると知らないとでは、
いざというとき、
ぜんぜんちがうことになりそうです。
- 佐藤
- 俺たち、今ね、
当時と同じような土器をつくって、
鮭を煮たり、
そこに熊の肉を入れたりして、
いろんなデータを取ってるんです。
どんな動植物を入れると、
どんな割合の脂肪窒素の煤がつく、
みたいな基礎データをね。
- ──
- ええ。
- 佐藤
- それを本物の縄文土器についた煤と
比較検討していくことで、
当時の人々が、
おおよそどんなものを煮ていたかが
わかってくる。
- ──
- つまり、何を食べていたかが‥‥。
- 佐藤
- わかる。するとね、鮭だけを煮ても、
なかなか当時のような煤はつかない。
試行錯誤しているうちに、
雰囲気や色、艶‥‥いろんな観点で、
栃の実を一緒に煮たときに
付着する炭化物が、
縄文土器につく煤に類似したんです。
- ──
- 栃の実。
おばあちゃんが、かじってたやつ。
- 佐藤
- 食べたことある?
- ──
- 栃の実ですか? ないです。
- 佐藤
- 食べられないよ、渋くて。
カロリーは高いんだけど、渋くてね。
でも、そこで縄文人は、
渋みを抜く技術をどうにか工夫して、
食料にしていたんです。
- ──
- どうやって‥‥。
- 佐藤
- 灰で煮るの。
アルカリ成分で渋みを抜くんですよ。
で、その栃の実を食べる習俗が、
このへんの地域にも残ってるんです。
- ──
- 縄文人が知っていて
ぼくたち現代人が知らないことって、
山ほどあるんですね。
- 佐藤
- あるある。
骨角器にしても、縄文時代の人々は、
こういう用途の道具であれば、
この動物のここの骨がいいんだって、
わかっていたはずです。
- ──
- 自然から学ぶ智慧ですね。
- 佐藤
- でもね、1万年という時間のなかで、
縄文人たちは、
独自の文化をつくり上げてきたけど、
残念なことに、農耕社会の到来で、
その技術や智慧は継承されなかった。
- ──
- いったん断絶してる、と。
- 佐藤
- なんせ、8千年前の貝塚から、
マグロの痕跡が出てきてるわけです。
マグロってのはつまり、
外洋まで行かなきゃ捕れないわけで、
どうやったのか知らないけど、
行って、獲って、帰ってきてるわけ。
- ──
- すごい。
- 佐藤
- 縄文の智慧と技術の、すごさですよ。
2019-02-07-THU